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紅(くれない)  作者: はとたろ
第六章 接客
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眠り姫

トリスタンは営業を終えると司の家に行く為に早々に着替えを済ませた


「央、ちょっと…」


帰り際、亮に呼ばれる


「真理様が…車で帰った?」


「ああ…いつもと様子が違うんで…いちおう知らせておいた方がと思ってな…」


「貧血を起こしたのか?」


「いや、顔色が優れなかったが…らしくないと言うか…精神的にかなり乱れていらっしゃる気がした」


真理にチンピラ呼ばわりされたとはいえ歌舞伎で夜王の名を欲しいままにしていた亮の勘は鋭かった


「ありがとう…知らせてくれて感謝するぜ!亮」


真理…! 開店早々に帰るなんて…どうしたんだよ…真理…真理…!


司との約束は完全に頭から飛んでいた央はすぐさまタクシーを拾うと真理の家へ向かっていた


まったく…素直な子だね…


その情熱がきみを苦しめることになるんだよ…央くん…


司はコートを羽織るとカウンターで帰り支度をしている亮を呼び止めた


「真理が心配をかけて申し訳なかったね…光くん…」


「……ご存知だったんですか…」


「心配しないでいいよ 央くんに言う気などさらさらない」


「きみに話しておきたい事があるんだ…うちに来る時間はあるかな?」


「…時間なら有り余っておりますよ。司様…」


「それは結構…なら 行こうか…」


愛車のジャガーを運転しながら司は呟いた


「きみの事は初めから知っていたよ…真理がお喋りで僕に話したわけじゃない…あの子の行動は全て僕の手の中にあるんでね…」


「流石…と申しますか…怖いお方だ…妹さん……ですよね?」


「いや…赤の他人だよ…でもある意味…血縁者には違いない…真理をノスフェラトゥにしたのは僕だからね…」


「……! 詳しくお聞かせ願えますか?」


「もちろん…その為にきみを招いたのだからね…」


司はゾクリとするほど美しい横顔で運転を続けながら語りはじめる


「真理はね…人間だったんだよ…」


えっ!!!


「真理様が…人間…?」


想定外な真実に亮は自分の耳を疑った


※※※※※※※


真理の屋敷に着く早々、焦る気持ちを抑えながら玄関のチャイムを鳴らすとすぐに秘書の塁がドアを開けて真理の寝室へと案内してくれた


コンコン…


「真理様、央様がお見えでございます」


「お通しして…あなたは席を外してちょうだい」


ドアを開けると真理はベッドに横たわったまま潤んだ瞳で央に手を差し伸べている


「きて…」


央は駆け寄り真理に口づけをする


「大丈夫か?」


「貧血ではないから…心配させてごめん…」


最後まで言えないまま央に唇を塞がれ真理は涙を零す


「何も言わないで…今夜は…帰らないで…」


央は初めてなはずなのに不思議と戸惑うことなく自分のシャツを脱ぎ慣れた様子で真理を生まれたままの姿にすると熱い口づけを何度も交わし首筋に唇を這わせる…


互いの名を呼び合いながら幾度も幾度も空が夜明けのパープルに染まるまで求め合い…涙を流しながら気を失うまで狂ったように愛し合った


小鳥の鳴き声と共に窓から光が差し込み、ふと目覚めると指を絡めて自分の胸にぴったりと寄り添った真理が眠っていた


愛しさが込み上げ胸を裂かれるような切なさに央は真理の唇を塞ぎ頬を撫でると…


……え……真理…??


真理の身体は少しも体温が感じられず唇も頬も氷のように冷たくなっていた


「真理? どうした? 真理? 起きてくれよ…なあ…真理! 真理!!」



何度呼んでも叫んでも抱きしめても真理は美しい眼を開けずに青白い顔で薄っすらと微笑むように眠っている


こんな…こんなことって…嘘だろう…俺は夢を見ているのか…


悪夢なら早く…早く覚めてくれ!!!


「真理っっっ!!」


央の叫び声に只ならぬ気配を察した塁がドアを開けて入ってくる


「真理様……」


「塁さん、真理が起きねえんだよ…何度呼んでも目を開けないんだ…」


「司様にお知らせ致しましょう…」


塁は司に連絡すると真理を抱き上げ着替えさせると噎せ返るほどの真紅の薔薇で敷き詰められた棺へそっと寝かせた


真理…何でだよ? ヴァンパイアって不老不死じゃなかったか…?



「それは純血種に限る…」


真紅の魔眼で睨んでいる司の声に振り向いた刹那…央は殴られ身体が吹っ飛んだ


「言ったはずだ…真理をきみのイゾルデにしたいならそれ相応の覚悟がいると…」


「覚悟って…どーゆーことですかっ!! 抱いたら…抱いたら死んじゃうって事なんですかっ!!」


泣きながら司の襟蔵を掴んでいる央を亮の手が優しく外す


「気持ちはわかるが冷静になれ…司様にご無礼だぞ、央…」


「知りたければ僕の家に来ないかと言ったはずだが…」


あ……


そう…だった…司様と約束していたのに俺は…真理の様子が変だと聞いて頭が飛んで…忘れていた…


司は真理の棺に近づくとそっと髪を撫でながら涙を零す


「バカな子だ…どうして…もう少し待てなかった…」


待つ?


「央が完全に目覚めるまでどうして待てなかったんだ!」


眠る真理を抱きしめ慟哭する司を央は放心しながら見つめていた


「司…さま…待つって何のことです…俺が…目覚めるって…」


「央…お前が本来の姿を取り戻すってことだよ…ルージュ侯爵としての自分をな…」


え…


亮の言葉が理解できない…こいつ、何言ってるんだ?


「取り乱してすまなかった…」


「真理は死んだわけじゃない…体力を使い果たして…永い眠りに入ってしまった…」


司は振り向くとゆっくりと椅子に腰かけ口を開いた


「死んだわけじゃないって…どういう意味なんですか…?」


央は気が狂いそうになるのを必死に耐えながらなんとか理性を働かせ ひと言も聞き漏らすまいと、理解に苦しむ司の言葉に全神経を集中させる


「我々は…魂をいくつか所有していてね…わたしの魂を真理にもあげている」


「だが…元が人間のこの子はノスフェラトゥになってからとても身体が弱くなった…」


「長い夜になりそうだ…」


「何から話そうか…まずは、きみと真理の前世のことからにしよう…」


窓の外は雷鳴が轟き 眠っている真理を嘆くように激しい雨が音を立てて降り注いでいた



――――――――






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