jealousy
真理様!!…真理様…
私を呼ぶのは…誰…
真理様…聞こえますか? 真理様…
青白い顔で気を失った真理はベッドの上で目を覚ますと 心配そうに自分の手を握って覗き込んでいる央に微笑んだ
「ああ…目を開けてる…よかった…よかっ…」
ボロボろに泣いている央
「うるさい…目覚めれば…瞳を開けるでしょ…」
「血が足りませんね…」
秘書兼執事を兼ねた塁の言葉を制するようにギロリとひと睨みすると真理は香奈たちがいないのか気配を確かめる
「先ほど…お引き取り頂きましたのでご安心を…
ルカ様が救急車を呼ぼうとされたので央様がかかりつけの主治医がおりますからとお断りしてくださいました」
ふぅ……
真理はため息をつくと央が握っている手をそっと外した
「世話をかけたわね…帰っていいわ…」
「ポチ、大事にしてくださっているんですね」
以前、央が贈った大きなハスキー犬のぬいぐるみのポチが真理の隣で一緒に寝ているのを見て嬉しかった
「ああ…可愛いでしょ…ねえ、あなたは耳が聞こえないの? もう帰りなさいって言ってるんだけど…」
「いやです」
え…この子が…逆らった?
テーブルにある果物ナイフを手に取ると央は躊躇なく自分の手首を切り流れる血を口に含むと口移しで真理に飲ませる
コク…コク… 甘い…濃厚でとても甘美な味がする…
「倒れるまで我慢しないで言ってください…」
血の甘さに抗えず真理は央の手首に吸い付いた
コク…コク…コク
なん…だろう…この…感覚…甘く疼くような想いは…
一心に渇きを癒している この人が…愛おしい…
「おやおや、随分とお行儀悪い子だ…」
司様…
「塁に呼ばれてね…遅れてすまなかった」
司は長い爪で自分のうなじを傷付けると真理に流れる紅い命のリズムを与える
「お…にいさま…」
コクコクと喉を鳴らし司のうなじに吸い付いている真理を見て訳の分からない熱い感情が沸きあがる
「あ、じゃあ 俺、失礼します」
去っていく央に
「央君…申し訳なかったね…」
司の言葉を遮るように央はその場を走り去った
家に戻り頭を抱える
身体が熱い……何故なんだ…この妬けつくような感情は何なんだよ!!
司の血を赤子のように吸っていた真理の姿が脳裏から離れない
「なんなんだよっ!! くそっ」
大声で叫ぶ央をパンダのぬいぐるみのぱんき子が心配そうに見つめている
央くん…どうしたの?
すごくつらそう…こんな央くん はじめて見る…
何かあったの?
ぱんき子、お話し聞くよ…
ふとベッドの上で心配そうに自分を見つめているぱんき子を抱きしめる
「ぱんき子…心配してくれるのか…ありがとな…」
央くん…雪ちゃんに 雪ちゃんに相談できないの?
「ただいま~スーパー混んでて…遅くなっちゃった」
姉の雪がレジ袋をたくさんぶら下げて帰ってくる
「あ、央くん、おかえり 今 お茶淹れるからね」
姉さん…
央は突然、雪に抱き着いて涙を零した
「央くん?」
雪はそっと央の髪を撫でてやりながら語り掛けてくる
「ごめん…姉さん…辛いんだ 苦しくて身体が熱くて…どうにかなりそうなんだよ…」
縋るように抱き着いて震える央を見て雪は静かに微笑んだ
「恋を…したのね…」
恋?
「辛いよね…恋は…いくら想いを持て余しても自分の意のままにはならないから…」
恋…ぱんき子の央くんが誰かを好きになったんだ…ガーン!
「今の央くん…いい顔してるよ…」
「嘘だ…みっともねーよ…」
ブンブン…雪は首を横に振り話し続ける
「恋すること…怖がらないで…自分の気持から逃げちゃだめよ…」
怖がる? そんなこと…思ってもみなかった…
「ふふ…央くん、戸惑っているのね…その人を抱きたいんでしょ?」
え…ゆ、雪ちゃん…いま…なんか すっげえショックなこと言わなかった?
抱きたいって…俺は…
でもあの時 一心不乱に血を飲んでいる真理様が愛おしくて強く抱きしめたくなって…
そのあと…司様の血を美味しそうに吸っている真理様に俺は嫉妬していたんだ…
これが…恋…?
「央くん、恋はね…けっして美しい感情だけじゃないの…どろどろして汚くてエゴイストで相手の何もかもが欲しくなってしまう厄介な怪物みたい…自分だけのモノにしたくて気が狂いそうになる…」
雪ちゃんは…姉さんは…そんな経験をしていたのか…
「相思相愛にならない限り…恋愛は自分の醜さと向き合うことでもあるのよ」
自分の…醜さ…
たしかにそうだな…こんな感情…みっともなくて醜い…
「でも逃げちゃだめなの…自分に負けることになるから…とことん醜い自分とも切ない自分とも苦しくても辛くても向き合って考えるの…
自分にとってその人がどんな存在なんだろうって…必要か…それとも気の迷いなのか…そうすればね、自ずと答えが見えてくるわ…」
雪は央の頭を子供の頃のように優しく撫でながら
「今夜は煮込みハンバーグ♪ チーズもペンネもつけてあげる」
ハンバーグ!! 俺の大好物じゃねーか!
「やっと笑った…大丈夫よ…どうしようもなく辛くなったら姉さんに言いなさい…こう見えて、あなたよりは大人だからね」
微笑む雪の聖母のようなオーラに癒され央は思った
姉さんはやっぱり大人なんだな
俺の知らないところでたくさん傷ついて辛い想いして…バカな弟の相談に乗ってくれて…我が姉ながらなんてイイ女なんだよ
自分の醜さから逃げるな…か…
シスコンモードが復活すると モフモフのぱんき子を抱きしめながら央は恋する真理に想いを馳せた
――――――――