鬼の霍乱
一週間後…央は休みの日に真理に呼び出され屋敷へ訪ねると意外な客人が笑顔で出迎えてくれた
「トリスタン、よく来てくれたわね」
満面の笑みで央を出迎えたのはCamelotの姫、香奈だった
「香奈姫、ここでお会いできるなんて嬉しい偶然にびっくりです」
「お休みに呼び出してごめんなさいね 今夜はお礼に香奈ちゃんがあなたに手料理をご馳走したいってはりきっているのよ(笑)」
「真理様、謝らないでください。俺、香奈姫のこと気になっていたからお会い出来て良かったです。ところで…香奈様、その後あいつらはどうしましたか…」
「そうだったわ、まずお礼を言わなくてはね…」
「お店で貴方たちに事情を話した二日後にあのルカって女性から手紙が来てね、恐るおそる読んでみたらとても丁寧な詫び状だったの」
詫び状…反省したのか…
「彼女は主人の事を愛していたって…最初は私が主人を放置していたことに腹を立てて脅かすつもりだったけれど冗談半分嫌がらせ半分で要求したお金を払われて苦労知らずのおばさんが!って思ってますます腹が立って妊娠しているって嘘をついてお金を請求したけれど…先日うちに香奈さんの友人が訪ねてきて話を聞いてバカなことしている自分に目が覚めたって…」
「でね…頂いたお金は協力を頼んだ友人に100万ずつあげてしまったから残りのお金をお返しさせてくださいって書いてあって…」
「姫はどうされたのですか?」
「彼女の気持ちが手紙を読んでいて痛いほど伝わって来て…一度差し上げたお金を返していただくつもりはありません、その代わりにもし本当に私に申し訳なかったって思ってくださるならお茶に招待するから来て下さらないかしらって…彼女をお茶に招待して女同士、明け方までいろいろ語り合ったのよ」
「ルカさんは捨て子で孤児院で育って裕福な女性を見かけると妬んでいたって…そんな自分がいやでいやで仕方ないのに半ばやけくそで生きていた時に主人と出会って人を愛する尊さに目覚めたって泣いていたわ」
央は優しい眼差しを香奈に向けながら聞いていた
「それでね…私から強引に提案したんだけれど…あなたさえよかったら一緒に住みませんかって彼女に言ったの」
え、ええええええ!!!! マジかよ!!
流石の央も香奈のお人好しに度肝を抜かれた
「そ、そんなことして大丈夫なんですかっ? 財産目当てで騙されてたりしたら…」
香奈はふふ…っと微笑んだ
「トリスタン…いいえ、今日はオフだから央くんって呼ばせてね」
「あ、はい、香奈姫のお心のままにお呼びください」
「私は確かに苦労知らずのお嬢様で育ったけれど…これでもいろんな人と巡り合ってその人となりを見極める眼力だけは養ってきたわ…
あの子の瞳はとても悲しそうで…独りにしておいたら自らの命を終わらせてしまう気がして…」
「私もあの広い家に独りで暮らすのは寂しいし…彼女とよく話し合って一緒に暮らすことになったのよ」
「それで…今日、ここに来ているのだけれど…ルカちゃん、いらっしゃい」
ドアの影に佇んでいたルカは愛犬のルルを抱っこして央の前に来ると頭を深々と下げた
「昨日は…ご無礼な態度をとって本当にごめんなさい…私、香奈さんとお話しして…こんな優しいご婦人を困らせて酷いことをした自分に嫌気がさして、改めて反省しました。
この方のお役に立てるのなら自分に出来る事なら何でもしていきたいって思ったんです」
「亡くなったパパも…きっと反対しないって思って…」
涙をこらえ切れずに嗚咽を上げるのを我慢するルカに
「頭を…あげてください」
央は天使のような優しい微笑みを向けて頭を撫でた
「気が付いてくれてよかった!こちらのほうこそ突然に押しかけて乱暴な振る舞いをしたこと、お許しください」
央も深々と頭を下げる
「あら、央くん、女の子に暴力をふるったの?」
おろおろする香奈にルカが央が訪ねて来た夜の詳細を説明した
「そうだったのね…私の為に穏やかなあなたがそんなことを…ありがとう央くん…」
「とんでもございません…姫の騎士としていささか乱暴な振る舞いをしてしまったご無礼、どうかお許しください」
香奈に跪く央を見てこの人は本物の紳士なんだわ…とルカは自分の愚かさが恥ずかしくなった
わんわん♪
「お、ルル、憶えていてくれたのか~嬉しいぜ、おめえも家族が増えてよかったな♪」
「ルルは人見知りするのにこんなに懐くのって珍しいんですよ」
ルカに言われ央は顔をほころばせてルルを撫でている
「そうかそうか~よしよし♪ そいつぁ嬉しいぜ♪ 俺は犬とぬいぐるみが大好きでね。
香奈姫の家族になったのならルカさんも今日から大切なお姫様だ、改めてよろしくお願いします」
突然の江戸弁連発…かなり個性的な人なんだ
ルカと香奈は顔を見合わせ思わず吹き出しそうになる
「皆さん、盛り上がっているところで…そろそろお茶にしましょうか」
真理が焼きたてのクッキーやスコーンと一緒に温かいショコラをテーブルに並べている
「すっげぇ! 真理様が焼いたんですか?」
「言っておくけど…魔法じゃないからね」
悪戯っぽく微笑む真理を見て央はつかつかと近づくと額に手を当てる
「ちょっと…何するの」
「顔色が優れませんね…熱でもあるのかと…風邪でもひかれましたか?」
「まさか…! 鬼の霍乱でもあるまいし…わ…」
「真理様!!」
言葉を言い終えぬまま…央の腕の中で真理は突然に気を失った
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