第二章 テスト
第二章 テスト
「いてっ」
「我慢なさい、男の子でしょ、取り敢えず折れてはいないようね…」
歌舞伎町を取り仕切る裏のボス、真理に手当され央は痛みに顔をしかめる
慣れた手つきで手際よく包帯を巻く真理をぼんやり眺めながら口を開いた
「なに? 」
「手当が上手いなって思って…」
「ああ、昔、看護師を目指してたから」
「そうなんだ…」
ぷっ、あはははは
真剣に聞いている央に吹き出しながら
「なわけないでしょ 冗談よ 」
冗談かよ……
「ところで…きみがどんな接客をするのか見てみたいわ 友営? 色営? オラオラ系では
なさそうね
会話だけでいいからちょっとやってみて」
「今ですか? 」
いきなりかよ、と思いながらも助けてもらって逆らうわけにもいかない
今後も世話になるし…
「わかりました。でもどうやって…」
「今から十人十色の接客を見せてもらうわ ちょっと待ってて」
唐突に部屋を出ていかれ不安げな様子の央におかまいなしに10分後、真理は清楚なベイ
ビーピンクのワンピースに着替えてくると央の前に座った
「初回…2000円って聞いたんだけど お金持ってないから不安で…本当に大丈夫ですか? 」
どう見ても初々しい清純な女子大生かOLにしか見えない
何なんだ…これは…
「お酒、飲めないからウーロン茶もらっていいですか? 」
女優顔負けの真理の変貌ぶりに驚いている央を真理はギロリとひと睨みして空のグラス
を音を立ててテーブルに置く
「接客! 」
鶴の一声で意味を理解した央は接客を見てみたいと言った真理の挑戦を受ける覚悟を決めるとスイッチが入る
「大丈夫ですよ。それ以上は取らないから安心してください」
まるで天使のような優しい微笑みに真理はにっこりして会話を続ける
「よかったぁ、じゃ2時間は安心して楽しめますね」
「央、ちょっと…」
スーツを着た若い男性がいつの間にか央の耳元で囁いている
い、いつ来たんだ? こいつ、誰だよ?
「真理様がVIPでお待ちです」
そっか、これ試験のようなもんだったな
「今、行くから」
央は小声で返事をすると笑顔で真理が演じる女子大生に誠実に謝った
「申し訳ございません。少々お待ちいただけますか? 」
「え~行っちゃうんですか? 」
拗ねた表情も少女そのものだ…このひと何者なんだよ…
「すぐに戻りますのでお許しください」
丁寧に挨拶すると席を立とうとする央に背後から新たな声が聞こえる
「遅いわよ…央 待たされるのは好きじゃないって 知ってるわよね? 」
振りむくと同じ髪型、同じ服装でさっきとはガラリと雰囲気の違う妖艶な女性が座っている
ど、どうなってるんだ、まるで別人だぜ…
いや、動揺するなよ俺、十人十色ってこういうことなのか…
央は咄嗟に跪いて真理の手に接吻をする
「お待たせして申し訳ございません。」
「今夜は貸しきりよ」
真理はそう言うとバッグから札束を取り出しテーブルに置く
見たところ一千万くらいはあるだろう
「申し訳ございませんが受け取れません。」
「どうして? 」
真理はじいっと見つめたまま瞳を逸らさずに質問する
「貴方様は大切なお客様です、でも僕は、足を運んで自分に会いに来て下さる姫君に誠実でありたいので真理様だけを特別に優遇は致しかねます。ご無礼は承知の上です。お許しください」
「なら、今日限りね…後悔することになるわよ」
立ち上がろうとする真理の手を央は掴み離そうとしない
「何の真似かしら…」
「貴方の気分を害してしまったお詫びをさせてください」
央は土下座をし「申し訳ございません。アフターで埋め合わせさせてください」
「そう…煮るなり焼くなり好きにしていいってわけ」
「お心のままに…ですが枕はやっておりません」
真っ直ぐに真理を見上げながら央は応えた
瞳の色に少しの怯えも迷いも見られない
「いいわ…この埋め合わせは次にして頂くわよ」
そう言い残すと部屋を出て30分後…
濃いメイクに見るからに風俗関係の匂いをさせた真理が入って来た
「央! 会いたかった、やっと来られたよ」
涙を流しながら縋りついてくる
「真理…来てくれてありがとう。こっちへおいで」
真理の乱れた髪を優しく直してやりながらそっと座らせる
「会いに来てくれる為に無理…させて…ごめん…」
亡くなった姉の雪と重なり涙がボロボロと零れて止まらなくなる
央は真理をそっと抱きしめ
「真理、今の仕事…辞めよう…知り合いにぬいぐるみショップのオーナーがいるんだ。
そこを紹介するよ、きみに合ってる」
流石の真理もぎよっとしながら「央、央の紹介なら安心だね。なんてお店なの」
「モフモフランド。オーナーはね、大のぬいぐるみ好きで一体、一体、心を込めて命を吹き込んでいるんだよ」
口からの出まかせじゃなさそうね…
「そうだ、真理、就職祝いに好きな子をプレゼントするよ、ちょっと待って」
スマホを出すと「モフモフランド」のHPを開きいろいろなぬいぐるみを見せながら
「どの子がいい? サイズは一番大きい子にしよう、きみのナイトだからね」
「じゃあ…この子」
真理は凛々しいハスキー犬を指した
「わかった。この子だね、名前、考えてあげてね」
この子…なんて表情をするんだろう…
まるで妹か娘におねだりされたような嬉しそうな顔で微笑んでいる央を見て真理は両手を叩いた
「そこまで! 」
「おめでとう、合格よ」
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