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紅(くれない)  作者: はとたろ
第六章 接客
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涙のグリューワイン

「いらっしゃいませ 姫君 ようこそ Camelotへ」


「まあ トリスタン、会いたかったわ」


アラフォーの香奈は姫の中でも年長だが見た目は30くらいに見えるおっとりした品のいい和服美人だ


「香奈姫、キリンになってお待ちしていましたよ」


微笑むトリスタンを悲しい瞳で見つめる香奈にふと気づくとトリスタンはヘルプに耳打ちしてカウンターに向かわせた


「亮さん、香奈姫のイメージでグリューワインお願いします」


「了解」


暫くすると香奈のテーブルにサンタとトナカイが描かれた華やかなクリスマスマグに入った熱々のピーチ入りグリューワインが置かれた


「なんて可愛らしいの! 湯気が立っていて温かそう」


「お寒い中、麗しきおみ足をお運びくださいましたお礼です」


「優しいのね…トリスタン…頂くわね」


両手でマグを持ちコク…


心地いいピーチとシナモンの香りに甘いワインがほっこりさせる


「温かい…」


香奈は涙をはらはら流して泣き出してしまった


トリスタンはハンカチを取り出しそっと肩を抱き寄せると香奈の涙を優しく拭う


「姫…差し支えなければ…あなたをこんな風に悲しませている原因を訪ねるご無礼をお許しくださいますか…」


香奈は涙で潤んだ瞳で微笑むとゆっくりと語りだした


「先月 主人がね…亡くなったの…若い愛人の寝室でね…」


トリスタンの眉毛がピクリとする


「私の父はワンマンでね…自分の会社を大きくしたくて主人の会社と合併するために私の意志を無視して半ば強引に一緒にさせられたお見合い結婚だったの。 

だからお互いに愛情もなく遊び人の主人は銀座のクラブや赤坂や新橋、祇園の花柳界にたくさん恋人がいて、私も当時、結婚前まで付き合っていた人がいたけれど不慮の事故で亡くなってしまい…暫く立ち直れずにいてね…そんな時…真理ちゃんとひょんな事でご縁を持ってね…居心地がよくてたまに遊ばせていただいていたのよ。

おそらく主人も知っていただろうけれど私達はお互いに束縛せずプライベートには踏み込まないルールの下に結婚したから…」


トリスタンは頷きながら真剣に話を聞いていた


「ところが先日…突然19歳の女性がうちに訪ねてきて…」


「パパはあたしの上で亡くなったからお金、ちょうだいって言われて…」


「払われたんですか?」


「礼儀をわきまえない無礼な人だったから後々面倒になるのもいやで1憶ほしいって言われたけれど…」


……!


「姫…まさか…」


「払えないなら今後、そのことをネタにマスコミにバラすって脅されてね…二度と関わらないように書面を書いてもらって小切手を切ったわ」


「でも…昨夜また連絡してきて…お腹に主人との赤ちゃんが出来たから養育費が欲しいって…言ってきて…トリスタン?」


トリスタンの瞳が怒りでみるみる紅へと色を変えていく…


「姫、その女性の件…わたしに任せていただけないでしょうか…」


「それは出来ないわ。あなたとお店を巻き込んでしまう」


「いいえ香奈さま…貴女様はわたしとCamelot城の大切な姫君です 騎士として黙って見過ごすわけには参りません!」


物静かな語り口調だがトリスタンの強い決意を感じさせた


「ごめんなさい、それは出来ないわトリスタン、その気持ちだけでもう十分…」



「いいえ…香奈さま…どうか彼にお任せください」


「真理ちゃん…」


「どうぞこちらに…」


真理にVIPルームに案内され香奈は泣きながらすべてを話した

その女性は聞くところによると知人の男たちとつるんで香奈の家に押しかけて脅迫めいた物言いでお金をせびったらしい


「わかりました…質の悪い連中と絡んでいるようなのでこちらで対処致しましょう。我がCameiotの姫にこれ以上、手出しはさせません…」


「真理ちゃん、ごめんなさいね…気晴らしに来たつもりだったのに…」


「水くさいことを…何も心配なさらず今宵は楽しんでくださいな 来月はトリスタンが香奈姫のサンタクロースになりますのでお楽しみに♪」


真理は微笑んで香奈にウインクした


真理さん、それサプライズだったんじゃ…


心のなかで苦笑しながら意外な真理の優しさに触れトリスタンは心が温かくなり香奈を苦しめている女性への怒りが頂点へと達していた


――――――――

















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