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紅(くれない)  作者: はとたろ
第六章 接客
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第十五章 カクテル

「 トリスタン…感じが変わった? 」


ぬいぐるみ占いでクマを選んだゴージャスウェービーの久美はトリスタンのアドバイス通りに少女に戻って恋人と接し、彼はとても優しく受け止めてくれて心から感謝していたのだが…

いつもと違うトリスタンの妖艶なムードに戸惑った


「 何も変わりませんよ 久美さまがぼくの顔を忘れてしまわれたのでは…悲しいです」


瞳を伏せるトリスタンに胸がチクリとした久美はトリスタンの手を優しく撫でた


「 あり得ないわ!  あなたのアドバイスのお陰で、私は彼に自分の子供っぽさを隠さなくなってね 

それからとても優しくなって…私 感謝しているのよ 」


「 本当に? 姫の優しいお言葉が嘘なら立ち直れませんよ 」


「 まっ、意地悪なトリスタン ただ…あなた…意外とセクシーだったのね… 」


「 セクシーなんて無縁な言葉を初めて言われました 嬉しいです! 」


とびきり優しい笑顔を向けられ久美はまたドキリとしてしまう


「 お優しいわたしのイゾルデに…お礼をさせてください 」


トリスタンは立ち上がるとカウンターに向かい亮がトリスタンの永遠の恋人・イゾルデのイメージに合わせ考案したカクテル「イズー」を久美のテーブルに運んできた

イゾルデの見事なブロンドをイメージした眩い煌めきとフルーティーで甘く高貴な味のするうっとりするほど美しいカクテルだ


「 ま、これを私に? 」


「 ご馳走させてください…わたしの気持です 」


口に含むとなんとも高雅で媚薬のような味わいに久美はうっとりしてしまう


「 媚薬を…飲んでしまわれましたね… 」


「 なんだか頭がぼぉーっとするような…なんとも心地よい媚薬だこと… 」


耽美なカクテルだがもちろん媚薬など入っていない(笑)


「 では姫…お耳汚しですが… 」


トリスタンは以前から趣味で弾いていたリュートを奏でるとミンネを詠い始めた


素敵だわ…無邪気なトリスタンにこんな一面があったなんて…


久美はまさにギャップ萌えにハマってしまった


「 あなたの考案したカクテル…なかなかね… 」


「 ありがとうございます。真理様…円卓の騎士の皆さまに合わせて作りました 」


「 女性は常にロマンスを求めるもの… このカクテルはそんな願望を満足させてくれる 見直したわ 」


「 トリスタンのカクテルも差し上げては如何でしょう… 」


「 亮さん、俺をイメージしたカクテルって出来る? 」


タイミングよくトリスタンがやってくる


亮はニコッと頷いてシェーカーを振るとグラスにカクテル「トリスタン」を注いで差し出す


黒髪の如き艶やかなブラックと揺らめく炎を想わせる真紅が宝石のように美しく上下に分かれている

影のある悲しみの子、トリスタンが内に秘めた燃えるような情熱の炎…


「 見事を通り越して芸術だよ! 言葉が出てこない…ありがとうございます 」


「 お待たせいたしました これが私…トリスタンです… 」


「 なんて美しいの…飲む前からドキドキするわ 」


久美は美しい指で優雅にグラスを持つとトリスタンを口に含んだ


「 あら やだ…私 涙腺が… 」

ひと口ごとに何故か涙がこみあげてくる


「 あなたは魔法使い? 魔法はイズーのお得意なのに… 」


魔法の媚薬といつもと違うトリスタンに酔いしれた久美は十段のシャンパンタワーを頼んでくれた


「 久美さま…お礼をさせていただきたいのは私のほうですのに… 」


「 いいえ、トリスタン 女はね…いくつになっても夢見たがりでヒロインに憧れてい

るのよ

今夜あなたはその夢を叶えてくれた…そのお礼をさせていただきたかっただけよ 」


この方はなんて…いとも容易く素敵なことをおっしゃるのだろう…まさしく本物の淑女だ…


トリスタンは久美の言葉に感動し瞳を潤ませ跪いて手の甲に接吻した


「 姫に頂きましたお言葉と共にこの若輩者のわたくしに素晴らしき贈り物を受け賜りましたこと…

このトリスタン 心に刻んで生涯、忘れは致しません 」


本心からの言葉だった


「 それでいい…やっと覚醒してきたようね… 」


様子を伺っていた真理の口元がゾクリとするほど美しい妖しい微笑みを浮かべていた



――――――――




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