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紅(くれない)  作者: はとたろ
第六章 接客
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第十三章 静香

「 ね、二人きりでお話しできないかな 」


俺の事を知ってて探し回ったって言ってるのにどうして…思い出せないんだ

どう見ても嘘をついているように見えねえし…

よそよそしい態度をとると傷つけちまう…

店にいらしてくださった姫君たちを待たせるわけにもいかない…


央は静香の両手を握りしめると跪いた


「 ごめん! 今はきみと二人で話す時間がないんだ…頼む! 申し訳ないけどお店が終わ

るまで待っててくれないか? あの…、それがダメなら明日、必ず時間を作る! 」


「 わかった…困らせるつもりなかったの ひと言お礼、言いたかっただけだから… 」


「 そうだよね…お客様がいるのに突然訪ねてきた私が…非常識だったよね…ごめんね

 帰る… 」


肩を落として扉に向かう静香を見た央は


何だろう…このまま 帰しちゃいけない気がする…!


「 待って! お店が終わるまで待っててくれないか? 」


「 姫、よろしければ近くにある 私の知り合いのお店で時間を潰されては如何でしょうか? 」


ケイ先輩!!


「 さあ、こちらに…心配いりませんよ 友人のやっている猫カフェですから 」


「 猫は好きですけど…ご迷惑じゃ… 」


「ケイ先輩、場所を教えてください。 俺がお連れします」


「 Non,きみは接客があるだろう、トリスタン ぼくの姫たちはまだお見えにならないから任せてよ 」


ケイはウインクすると静香をエスコートして店外へと連れ出した


あ~ヤバい ケイ先輩に迷惑かけちまったぜ すっげー申し訳ない


10分ほどで戻って来たケイに央は駆け寄ってひたすら謝る


「 申し訳ありません。ご迷惑おかけして… 」


頭を深々と下げる央にケイは


「 揉めているのを姫たちが聞いたらどう思う? 咄嗟の判断が出来ないのは騎士(ナイト)失格…見損なったよ 」


あ……


いつもは優しいケイに冷めた瞳で突き放すように言われた言葉は思いのほか応えた央は唇を噛みしめ立ち尽くす


そう……ケイ先輩の言った通りだ

いくら覚えがないからって咄嗟の機転が利かなくてどうするんだ、俺は!


「 す、すみませんでした! 反省します! 」


「 おやおや、きみらしくないね ケイ」


「 パーシバル…じゃあ、きみならどうした? 」


「 さあね…ま、少なくともうちの姫たちを放置はしないし取りあえずは今夜は帰ってもらうかな… 俺は自分の姫しか大事じゃないんでね 」


「 なるほど きみらしい トリスタン、きみは半端だね… 」

「 確かに…他の人間にはないモノがある でも… 」

「 今のきみに…ナンバー2は遠いね 」


ズッキーン……


確かにそうだ…その通りだ…


「 おい、いつまで油売ってるつもりだ? お前の姫君がオンリーだぞ 」


ガラハットに言われ央は慌ててテーブルに向かう


「 海外にでも行ってたのかしら? 」


真由美姫に嫌味を言われ央は頭を深々と下げる

涙が溢れて止めたくても止まらない


「 トリスタン? 」


「 申し訳…ございません…姫をおひとりにした自分が不甲斐なくて…」


「 俺、なんでもします…真由美様… 」


真由美はなりふり構わず泣いている央を見て母性本能が擽られた


「  …三回 回ってワンって鳴いて 」


くるくるくる…ワン!


四つん這いになりクルクル回りワン♪ワン、クゥーン…

犬好きな央は犬の鳴き真似が得意だった


「 あら、そっくり… まるで本物ね… 」


「 さあ、おあがり! 」


オードブルのチーズを指で摘まむと真由美は床に放り投げる


ハッハッハッ……パク…ワォーン…


嬉しそうに央はチーズを咥え食べると犬が尻尾を振るようにお尻を振って喜んだ

忠犬が飼い主さんにするように…


「 イイ子ね…私が帰るまで今夜は犬でいなさいな 喋っちゃダメよ… 」


ワンワン♪


央はわんの鳴き声と表情、しぐさだけで真由美を退屈させないように誠心誠意、接客し

二時間後…真由美は優しく頭を撫でる


「 許してあげる… 人間にお戻りなさい 」


「 ありがとうございます! 」

心から嬉しそうに笑って央は真由美をエレベーターまで送って行った


「おバカさんね…ここでいいわ…」


「 車まで送らせてください! 」


ふっ、と微笑むとトリスタンの頬を優しく撫でた真由美はそっと呟いた


「 トリスタン、自分らしさを大切にね… 」


「 はい、頂いたお言葉を心に刻み忘れません 」


ボウ・アンド・スクレープで見送るトリスタンに頷くと「またね…」

真由美は手を振りタクシーに乗り込んだ


不思議な子…営業じゃなく 犬になって接客していたあの子は本当に飼い主を慕う忠犬の瞳だった

私が何か言う度に嬉しそうに鳴いて…まるで ないはずの尻尾をふっているみたいに見えたわ


「 大した眼力ね…真理… 」



「 才能を生かすも殺すも…自分次第だ… 」


店に戻るとケイに言われ央は嬉しそうに抱き着いた


「 お、おい、何すんだよ!  放せ! 」


「 ケイさんがアドバイスしてくれたぁ~嬉しいです!!! 」


「 勝手に抱き着くなっ! 」


「 俺、見放されて悲しかったから…もっともっと精進します!! 見捨てないでバシバシ怒って下さい!! 」


こいつ…犬みたいだな…


「 なら言ってやる…さっきの子、猫カフェでオンリー… 」


「 ですが…お客様が…… 」


「 10分だけよ…ガラハットが相手をしているわ… 」


「 真理様! ありがとうございますっ 」


央は静香の待っている猫カフェへと走って行った



「 央くん 」


猫を嬉しそうに抱っこしている静香に央は土下座をした


「 ごめん、本当にごめん! 俺、最近物忘れがひどくって本当にヤバいんだ 」


「 え…? それって…私のこと…憶えてないの? 」


央はコクリと頷くと真剣に静香を見つめる


「 心から謝る! 本当にごめん 」


この人の瞳に嘘の色はない…光に言葉巧みに騙された静香もそれくらいは見分けがつく


「 そっか…忘れたならいいの…央くんはね ホストに売り掛けされそうになった私を止めてくれて…助けてくれたの 」


そうなんだ…


「 今なら引き返せるって説得して助けてくれたのよ お陰で私、歌舞伎町から卒業できたから 」


「 だからお礼が言いたかったの 忙しいのに時間割いて…ごめんね 」


それだけの為に探し回ってくれたのか…なのにどうしてこの子の事が思い出せないんだ…


「 ひと目だけでも会えてよかった…お礼も言えたし…もう帰るね 」


「 車 呼ぶから待ってて 」


央はタクシーチケットを渡すと静香を車に乗せ走り去るのを見届けると教えてもらった

住所を見てスマホを開けるとモフモフランドのHPをチェックした


――――――――




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