第十章 光
俺の父親には母と結婚する前から恋人がいた
会社の合併のために恋人を捨て結婚した父は母を愛せず 結局恋人とよりが戻り母の目
を盗んでその人と会い続けた
嫉妬で母は狂ってしまい父にそっくりな俺を見るたび殴るようになった
「 なによ、その目は…あの人にそっくりな顔で…蔑んでいるんでしょう 」
母は包丁を振り上げ何度も俺を殺そうとした
そして俺が12のとき…寝室に入って来て唇を奪われパジャマを脱がされ…母は俺を自分
の男にしようとしたんだ
俺はそんな母を突き飛ばし 泣きながら家を飛び出した
父と俺に捨てられた母は手首を真っ赤に染めて自らの命を絶ち 父親は俺を引き取るこ
とを拒んで俺は施設に入れられた
どこにも帰る場所がなく いじめられても庇ってくれる人もいない
自分で自分を守るしかなかった
俺は女が憎い
どんな女も母親と同じ性別だというだけで吐き気がする
だからホストになった
父に受け入れてもらえないヴォリュプテを押し付けてきた母親と同じ女たちに復讐する
ために
雪に会ったとき…優しい笑顔と穢れていない無垢な魂が癇に障って傷つけてやりたくな
った
憎しみの渦へ堕としてやりたくなったんだ
母親と同じ愛情と執着にとりつかれた化け物になればいいと
だけどあいつは疑うことを知らず 見え透いた嘘に何度も騙された
太客とイチャついても ただ悲しそうな目をするだけでいつも俺の身体を心配していた
OLのあいつは店に来るたびボトルを入れてシャンパンタワーをしてくれた
とうとう貯金も底をついて店に通えなくなったあいつを俺はツケでいいからと売り掛け
に誘導したんだ
払えないなら風俗で働いて返してくれと脅した俺にショックを受けて 追い詰められた
雪はビルの屋上から飛んだ…
こんな俺に騙され…て…
恨みのひと言も残さずに逝っちまった
二ヶ月後…雪にどこか面差しが似ている男が入店してきてやたらと俺にまとわりついた
太客にも口座にもなれそうにない昼職の客を色営で夢中にさせていた俺に央は何か言い
たげだった
俺に惚れた女たちは役に立てるなら泡姫になることもいとわなかったが胸は少しも痛ま
なかった
あいつが…央がヘルプに着いた時 俺の客に「もう来ない方がいいです。手遅れになら
ないうちに目を覚ましてください」と説得していたと後輩から聞いて俺は頭に血がのぼ
った
お前の行為は爆弾だろう
俺は当たり前の事をしただけだ
綺麗ごとほざくんならホストなんて辞めちまえ!
でも…雪がお前の姉だと知って妙に納得したよ
お前らきょうだいはバカがつくお人好しだもんな
央 お前は俺が光だと知っても平気なのか?
んなわけねえよな…
ん? ガス臭い…雪がガスを消し忘れたんだ
ヤバい…気付かねえのかよ!
雪は気付かずうたた寝している
嘘だろう 「 おい、ぱんき子、あんた、こいつらを守りたいって言ってたよな 」
「 ぱんき子…動けない…そこまでの力はないの… 」
くそっ… このままじゃ…央は 央はどこ行ったんだ?
「 さっき出かけたみたい 」
嘘だろ……このままじゃ 雪が 雪が死んじまう
いいじゃない…あなた一度彼女を殺したんだし
真理の声だ!
おい、真理さん、頼む! 雪を助けてくれ
あなたがガスを止めたら?
くそったれ!! 俺は動けねえんだよっ
どうして…助けたいの?
せっかくあんたに蘇生してもらって生き返ったのに
こんな終わり方ってないだろう!!
俺は 俺はまだ こいつに謝ってない…
央に殺されるわよ
構わねえよ! 早く早くなんとかしてやってくれ! 助けてくれ!
出来ないことはないわ その代わり…条件がある
何でも言うこと聞くからお願いだ…雪を こいつらも助けてやってくれ
ぬいぐるみは逃げたくても動けない
こいつらはずっとふたりを見守って来た
頼む! 頼むよ! あんた、魔女なんだろう? 何でもするから助けてくれ!!!
わかったわ あなたの命と引き換えよ
頼む…俺はどうなってもいい
いいわ…
真理の瞳が真紅に染まり光の意識が薄れていく
これで…いい…最後にマシなことが出来て…お前は幸せに…なってくれ…
雪…ごめんな…本当は…好きだった…優しい…お前…に…甘えたかった…
天使…みたいに清らかなお前に…惹かれていたんた……ひどいこと…して…ごめんな…
光はクマ助から人間の姿に戻り体温が下がって徐々に冷たくなっていった
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