青春の欠片 【月夜譚No.299】
授業中の手紙のやりとりが好きだった。
ノートの端を切り取って数行を書き、宛先の友人までクラスメイトに回してもらうのだ。
正直、内容はどうでも良いことばかりだった。昨日のテレビが面白かったとか、さっき先生噛んでたねとか、次の体育の授業がかったるいとか。何も授業中に手紙まで回してするような話ではなかった。
今思えば、内容よりも先生に見つかりやしないかというハラハラ感を楽しんでいたのだろう。大半は無事に相手に渡ったが、何度かはしっかり見つかって叱られた。
思い出して顔に出てしまいそうになるのを堪えて、私は黒板に向き直った。
今も昔も、子どものやることは変わらないらしい。スマホという便利なアイテムがあるというのに、わざわざ紙片を使うのは、スリルを味わいたいからだろう。かといって、叱られるのは嫌に決まっている。
私が叱られた先生は特別厳しい人ばかりだったから、きっと多くの先生が目溢しをしてくれていたのだろう。
本当は良くないが、これもまた思い出の一つになる。
私は密かに息を吐き、何事もなく授業を続けた。