「第91話 - 聖なる陰謀」
ロンドン、テムズ川のほとりに聳え立つセント・ポール大聖堂。その荘厳な建築物は、イエリス教団の本拠地として世界中の信者たちの聖地であった。しかしこの日、大聖堂の静寂は緊急の報告によって破られようとしていた。
大聖堂の奥深くにある教皇の間。豪華な装飾が施された扉が開かれ、一人の聖職者が慌ただしく入室してきた。その姿は、まるで枯れかけた木のようにやせ細り、緊張で震えていた。
「教皇様、火急の報告がございます」
その声は、畏怖と緊張が入り混じっていた。
部屋の中央には、教皇の玉座があった。しかし、その玉座は空席であり、その隣に立っていた男は、その部屋の空気を支配している一人に見えた。男は、聖職者を冷ややかな目で見下ろした。
「一幹部が教皇様に直訴とは偉くなったものだな」
その言葉に、聖職者の全身が震え、冷や汗が額から滴り落ちた。
「お、恐れながら、日本国関東地方のダンジョンにて、未確認の★4低級クラスの魔力反応が確認されました。5回、立て続けにです」
その瞬間、部屋の空気が一変した。謎の男の表情が引き締まり、真剣な声で言った。
「続けろ」
「は、はい。5回の魔力反応はそれぞれ全く別の属性魔法でしたが、同一人物による発動であることが推定、いえ、ほぼ確実視されております。当該魔力反応は全世界の★3登録者には該当しませんでした。現在★2つの能力者にまで照合範囲を広げておりますが、該当可能性は低いかと」
「新しい★4能力者の可能性は?」
「極めて低いかと。日本国の実質支配地域においてスキル覚醒反応は教団関係者によって独占されております。明らかに強力なスキルであれば報告が来ることになっており、★3以上の見落としが発生したことは過去ございません。それに日本国における覚醒ストーン発生地点への教会の建設率は100%でございますゆえ」
「なら非戦闘、★1能力者からの覚醒というのか?それこそありえない!」
「スキルオーブを扱うスキルがまた、出現したのだろう」
そこで、部屋の奥から静かな声が響いた。どこからか教皇が現れ、口を開いたのだ。
教皇の言葉に、全員が膝をついて耳を傾けた。
教皇の姿は、まさに神々しかった。白銀の雪のような長い髪が祭服にかかり、その眼差しは慈愛に満ちていながら、どこか冷徹さを感じさせた。彼女の存在感は、部屋全体を支配していた。
彼女は玉座に座ると言葉を続けた。
「★の壁を超える異次元の成長はそれでしかありえない。5年前に続き......また日本か」
玉座の隣にいた男は恐る恐る口を開いた。
「恐れながら、そのようなスキルでも★4に匹敵する魔力反応が引き起こされるというのは......考えづらいのではないでしょうか」
「そのとおりだ。だから、こいつのようなものを監視に回したのだ」
地面に平伏する聖職者に軽蔑の視線が集まる。しかし、教皇は続けた。
「私はこいつの能力高く評価している。現状、スキルの★の数が教会においての地位では絶対視されているだろう。こいつはスキルこそくだらないが、最も賢く、それでいて最も愚かだ。自分の命も顧みず、私に直訴しに来るのだから」
「こういう人間が一番信用できる。だから、我々にとって最もリスクが大きい事象の監視を命じたのだ」
その言葉に、聖職者への視線の質が変わった。
「何が起きたのか、それとお前の考えをそのままに話せ」
聖職者は深く息を吸い、慎重に言葉を選んだ。
「......なんという御言葉を......それでは恐れながら申し上げます。これは★1つやそこらの人間が、常識もないままにダンジョンに潜り、力をつけ、その力を解放させた結果起きた事象と推測いたします」
彼は分析を披露し、結論を告げる。
「つまり、★1つ以下の冒険者が★4に匹敵する魔力反応を引き起こすまでに、短時間で成長した......そう考えられます」
教皇はその分析に満足そうな表情を浮かべた。
「よい推論じゃ。我々は何をすべきか?」
聖職者は躊躇なく答えた。
「★4クラスの魔法行使は核実験のようなものです。我々はこれを宣戦布告と受取り、当該冒険者を早急に特定し国際指名手配するのです。日本国内における捜査権を活用し、当該冒険者を殺害、可能であれば確保するようにいたしましょう」
「よかろう......しかし、まだ手ぬるいな」
「まさか......御力の行使を!日本が血の海と化しますぞ!」
教皇は俯き、そして立ち上がると、厳かな声で宣言した。
「......宣戦布告が終わり次第、我は詠唱を始める。十二使徒よ。お前たちは直ちに日本国に向かい、当該冒険者を殺害せよ。いいか殺害せよ」
大聖堂の中で、十二の影が一斉に膝をつき、「御意」と答えた。
■実は1章は、前話で完結でした!お読みいただきありがとうございました!
あと1話、2章の予告編を掲載させていただいております。
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