「第87話 - 分身の力」
『分身を作るスキル』のゴブリンが楽しそうに手を叩いている。腹立たしいことこの上ないな。
いい感じに油断してくれているし、まずお前のスキルをもらってしまおう。
アキトは心の中で呟く。
アキトは集落に攻め入る前に『スキルのことがよく分かるスキル』で『分身を作るスキル』の入手条件を分析していた。
入手条件は『分身の手によって殺害されること』だった。
そんなことやりようがないので諦めていたが、『念力が使えるスキル』を見た瞬間、アキトは思ったのだ。
これなら、分身スキルの条件をクリアできると。これは絶対に手に入れなければならないと。
だから、彼は殺されかけた相手のもとにまで戻って、大部分のMPを消費してまで、念力ゴブリンを殺害し、『念力が使えるスキル』を手に入れたのだ。
分身スキルを持ったゴブリンは、血を吐きながら膝をついているアキトを見て、腹を抱えて笑っていた。いいぞ。お前の寿命はあと3秒だ。笑ったまま死ぬがいい。
「『火魔法スキル』!!!」
アキトの叫びと共に、ゴブリンたちの両隣の建物で猛烈な爆発が発生する。数十本の魔法矢を束ねて火魔法と一緒に置いておいたものを、今起動させたのだ。
「グオオオオ!!」
ゴブリンたちが怒りの声を上げる。本体の両翼のゴブリンたちが急いで技を発動し、爆風を抑え込もうとする。
「『念力が使えるスキル』......やれ!!!」
アキトはその隙に、分身ゴブリンの隣りにいた気ゴブリンの右腕を全力で操作し、分身ゴブリンの顔面を叩き潰した。
「ギャアア!」
か弱い悲鳴と共に、ペキャッという間抜けな音が響く。分身ゴブリンが灰になっていく。気ゴブリンたちの目が見開かれているが、アキトの意識は分身スキルのスキルオーブの行方に集中していた。
「来い!スキルオーブ!」
アキトは念力でスキルオーブを手元に手繰り寄せる。数瞬遅れて、気ゴブリンが彼の意図に気づいたのか、オーブを追うが間に合わない。
アキトの手が、スキルオーブを掴み取る。気ゴブリンが数匹、そんな彼に飛びかかってくる。アキトは急いでスキルオーブを吸収する。
「『分身を作るスキル』......」
ひとまず2人自分の分身を作った。
「「「念力魔法矢マシンガン!」」」
分身の存在によって人数分だけ密度が増した矢の魔法が、気ゴブリン共に直撃する。
ゴブリン共は後方に大きく吹き飛ばされたが、それほどのダメージを負っているようには見えなかった。やっぱりこいつら強いな。
相棒を殺されて、気ゴブリン共はこちらをすごい形相で睨んでいる。すまんな。
それにしても『分身を作るスキル』を持ったゴブリンが死んでも、分身が消えたりしないんだな。分身はスキルの効果でこの世界に存在しているのではなく、このスキル自体が、分身という存在を生み出すスキルということなのか。
つまり、例えば『銃を作るスキル』、『剣を作るスキル』があったとして、そういうスキルで作ったものも基本消えない感じなのだろうか。いや、分身も消そうと思えば消せる感覚があるな。
このあたりはレイさんに聞いたほうが話が速そうだ。
分身を作るためのMP消費が1人あたり5程度とそこそこ大きかったので、とりあえず追加で1人、合わせて3人、アキトの分身を作った。4人の馬力でこいつらを殺せるだろうか。
アキトは不安を感じつつも、分身たちと共に気ゴブリンに立ち向かう覚悟を決めた。
命懸けの戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。
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