「第86話 - 分身集結」
「ああ......楽しい。このままずっとこの雑魚ゴブリン共を殺し続けられたらいいのに......」
アキトは有頂天になりながら呟く。彼の目の前には、無残に切り刻まれたゴブリンの死体が山積みになり、魔石と灰になっていた。グロテスクな光景だが、アキトにとっては至福の時間だ。
ゴブリンたちを蹂躙し、復讐の欲望を満たしていく。その感覚は、まるで麻薬のように彼の脳を刺激する。アキトの意識は、破壊と殺戮の快楽に染まっていた。
しかし、彼のこの幸せな時間もそう長くは続かない。
『スキルのことがよく分かるスキル』は、恐ろしい敵の気配を近くに感じていた。それは、今まで倒してきたゴブリンとは比べ物にならない強大な力だ。
「ああ......来てるな。『気を使えるようになるスキル』『分身を作るスキル』今度は本体か」
アキトは舌打ちする。先ほどまでの高揚感は影を潜め、緊張感が全身を支配し始める。
『気を使えるようになるスキル』の反応は、感じる限りで10体を超えていた。おそらく、分身ゴブリンが増やしたのだろう。
「ふざけやがって......」
アキトは忌々しそうに呟くと、念力魔法矢マシンガンを構える。強敵を迎え撃つ準備を整えるのだ。
ゴブリンの姿が見えるのを待ちながら、アキトは自分を奮い立たせる。どんな強敵が現れようと、彼は負けるわけにはいかない。仲間を守るためにも、この戦いに勝たなければならないのだ。
やがて、視界の先に人影が現れた。戦闘用の『気を使えるようになるスキル』を持ったゴブリンが2体、これは分身か......こいつら体格もめちゃくちゃ良いんだよな。腹立たしい......
姿が見えた瞬間、アキトは躊躇なく矢を発射する。先程よりも矢の発射ピッチを上げているので、平均的な火力は増しているはずだ。
「グオオオオ!!」
ゴブリンが何かの技を発動させる。まさに、それを狙っていたのだ。
「ああ......ダメか」
しかし、状況は思わしくない。魔法が炸裂しているのは間違いないが、それは分身のゴブリンの後方であった。まるでスローモーションのように滑らかに動くゴブリンの技によって、矢の軌道がずらされてしまったのだ。
つまり、分身のゴブリンに当たっているようで当たっていないのだ。アキトは舌打ちする。
(さっきと違うのは、俺に反撃してくるほどの余力が残っていないという点かな。これならどうだ?)
アキトは新たな戦術を試みる。矢に火魔法を込めて、ゴブリンに当たる直前にそれを炸裂させるのだ。魔法効果を、敵に直撃させるためだ。
同様に受け流そうとしたゴブリンの手元で、矢が炸裂する。魔法がゴブリンたちに襲いかかった。
「ギャアアア!!」
分身のゴブリンが悲鳴を上げる。すべての矢をそのようにする必要はない。数本、そういう矢を混ぜるだけで、防御を維持することは数倍困難になるのだ。
「「「「「グオオオオ!!」」」」」
後方から、ゴブリンたちの技名の詠唱が聞こえてくる。そして、その直後、アキトが発射した矢がことごとく弾き落とされ、ゴブリンのところまで矢が届かなくなる。
2匹の分身のゴブリンに追い打ちをかけようとしたその時、後方から気のゴブリンの本隊が登場し、技でアキトの矢をまとめて打ち落としたのだ。
(なんて嫌な光景だ...)
アキトは愕然とする。8体の気のゴブリンが遅れて到着し、合計10匹となる。2層のゴブリン都市の最大戦力が集結したというわけだ。
本隊のゴブリンの横で、『分身を作るスキル』のゴブリンがニタリと笑っているように見えた。いいぞ。これは、真剣勝負だ。
「念力魔法矢マシンガン!!!」
アキトが雄叫びを上げる。それに呼応するように、ゴブリンたちも技の詠唱を始める。
「「「「「グオオオオ!!」」」」」
アキトとゴブリン共の中間地点で、双方の技が炸裂し、相殺する。いや、相殺するとはいえ、相性が悪い!!!
ゴブリンの技は衝撃波のようなもので、アキトの矢に触れると、矢の魔法が炸裂してしまう。奴らの衝撃波は多くのものを破壊してくる過程で減衰しているとはいえ、10匹の技が重なってアキトの体にまで届く。
「ぐうぅ!!」
アキトは苦痛の呻き声を上げる。肺や消化器が軋むように押しつぶされ、口から血が吹き出す。『肉体の損傷を再生するスキル』があるとはいえ、苦しいものは苦しい。アキトは膝をつく。
『分身を作るスキル』のゴブリンが、楽しそうに手を叩いている。腹立たしいことこの上ない。だが、いい感じに油断してくれているようだ。
(まずお前のスキルをもらってしまおう)
アキトは心の中で呟いた。
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