「第85話 - 無双の嵐」
「あー......もうしばらく動きたくねぇ」
アキトは呟く。
さすがの彼も、ここまでの戦闘で体力を......いや、精神力を使い果たしていた。
『肉体の損傷を再生するスキル』をなんとか手に入れたこと。
一方的にゴブリンを嬲り殺しにする予定が、『気を使えるようになるスキル』にボコボコにされるは、呪いで右足が腐り落ちるわ。
『念力が使えるスキル』を持つゴブリンとの死闘。
空高くまで飛び上がり、必死の思いでゴブリンの体をねじ切ったあの瞬間。
そして、落下する最中にオーブを掴み、ゴブリンの家に叩きつけられた衝撃。
アキトの脳裏に、激しい戦いの記憶がよみがえる。
全身に走る痛みと疲労感が、彼の意識を蝕んでいく......ってダメだダメだ。ここは敵地だぞ。
「MPも切れそうだから、とりあえず、100単位でゴブリンを殺していって、レベルアップでMPを回復させないと」
アキトは呟きながら、ホルダーから矢を取り出そうとする。
しかし、そこで彼は気づいてしまう。
「あれ......?」
ホルダーに矢が一本もない。
というか、ホルダー自体がぶっ壊れている。
「そりゃそうか......」
アキトは苦笑する。
あれだけの激戦を繰り広げれば、装備が壊れるのも無理はない。
「あ、でも魔導ポーチは大丈夫だったか。いや、残ってなかったら泣いてるって。1000匹分のゴブリンの魔石が入っているんだぞ。買い取り価格で100万円は超えるんじゃないか?壊れたなんて言われたら泣くぞ?」
アキトは安堵の息をつく。
冒険者にとって、魔導ポーチは命綱のようなものだ。
それが無事だったことが、何よりの救いだった。
「それにしても装備品が壊れるような冒険って、他の冒険者はどうやって対応しているんだろうな」
アキトは首をかしげる。
過酷な戦いの中で、いかに装備を維持するか。
それは、冒険者にとって重要な課題なのかもしれない。
「よしよし、まだありそうだ」
彼は魔導ポーチを探る。
冒険に来る前に、魔法が込められた矢を大量に格納しておいたのだ。
「1万匹のゴブリンの集落を襲撃しようというのに、数百本程度の矢しか持っていかないなんてありえないからな。作っておいてよかった」
アキトは数十本の矢を手に取ると、ゴブリンたちに向かって放つ。
「『念力が使えるスキル』......行け!」
彼の意思に呼応するように、矢が浮き上がり、ゴブリンの方に射出される。
『矢をたくさん打てるスキル』と『魔法がチョットだけ大きくなるスキル』のコンボにより、矢は3本に増え、込められた魔法も強化されている。
「ギャアア!」
数匹のゴブリンが、矢に貫かれて息絶えた。
苦痛の悲鳴が、戦場に木霊する。
「......こりゃあいい。火魔法よりも数倍使いやすいな。このままいくか」
アキトは満足げに呟くと、手に持つ矢を次々とゴブリンに向けて放っていく。
大工のバイトのときに見た、ロール釘と鉄砲を思い出す。ロールケーキのように束になった釘を、鉄砲とよばれる釘打ち機で次々打ち出していくことで、人の手でやるよりも数倍早く釘を打つことができるのだ。
要はマシンガンである。念力スキルによって、念力魔法矢マシンガンが完成したのだ。
アキトは手に持てるだけの魔法矢を持ち、構えて、ゴブリンの群れに向けて容赦なく、念力で矢を発射していく。
『念力が使えるスキル』の力で、矢は彼の意思に呼応し、生物のように宙を舞う。
『矢をたくさん打てるスキル』と『魔法がチョットだけ大きくなるスキル』の相乗効果により、一本の矢が三本に増え、込められた魔力も強化される。
幾重にも重なり合った魔法の力が、破壊的な威力を生み出していた。
「ドドドドドドド!!」
念力で発射する反動にアキトの体にも力が入る。
存在しない銃口から魔力の火花が散っているようにも感じられる。
手元からは7.62mm NATO弾をM60機関銃で発射するようなスピードで矢が発射されていく。
炎と雷、氷と風の魔法が渦を巻きながら、ゴブリンの群れへと降り注ぐ。
念力の力によってアキトは1匹単位でゴブリンを狙って倒すことができるようになった。
ゴブリンの頭を狙えば脳天を貫き、胸を射れば心臓を穿ち、腹を狙えば腸を断ち切り、発動する魔法効果が周辺のゴブリンをまとめて殺害していく。
彼は微妙に狙いをずらしながら、無数の矢をばらまいていく。
逃げまどうゴブリンの群れをすりつぶしていくように、丁寧に魔法を炸裂させていく。
「ギャアアアア!!」
「ウボォォォ!!」
凄惨な断末魔が、戦場に木霊する。
頭蓋骨を破壊された者、胸腔をえぐられた者、腹腔を穿たれた者。
ゴブリンたちは一瞬で命を奪われ、その死体が灰になっていく。
「バタンッ!」
「ガシャーン!」
ゴブリンの悲鳴だけでなく、建物が倒壊していく音も響き渡る。
魔法矢は、ゴブリンだけでなく建物をも容赦なく破壊していた。
脆い木造の壁は砕け散り、土の床は抉れ、石造りの柱は崩れ落ちる。
まるでハリケーンが通り過ぎたかのように、集落は瓦礫の山と化していく。
血も肉片も灰になって消えていくため、魔石混じりのがれきだけがのこっていく。
一面に広がる阿鼻叫喚の地獄絵図など、数瞬で消えていく儚い光景だ。
そして、その死と破壊の嵐の中心で、アキトは歓喜に震えていた。
「ははははは!!ざまぁみやがれ!!この念力スキル、ハンパじゃねぇぜ!!」
彼の瞳は、復讐の炎で燃え上がっている。
ゴブリンに痛い目に合わされてきた恨みを、一気に発散しているようだ。
魔法矢の威力もさることながら、MPの消費効率の良さも凄まじい。
アキトは数多の魔法矢を放ちながらも、まだ充分な魔力を残していた。
(こりゃあ楽勝だ。どんどん殺って、レベルアップでMPを回復しながら進軍すればいい)
彼は有頂天になりながら、さらに矢の雨を降らせ続ける。
ゴブリンの集落が、一瞬にしてスクラップと化していく様を愉しむかのように。
アキトは何度もレベルアップの感覚を、彼の体に感じながら次々と区画を移動し、破壊の限りを尽くしていく。
「どれくらいレベルアップしたかな?」
アキトは冒険者カードを確認する。
冒険者カード
-------------------
プレイヤーランク ★★
プレイヤーレベル 28
次のレベルまで 7
累積経験値 13413
ステータス 0
HP 127
MP 17/65
スキル 0
『スキルのことがよく分かるスキル』 -
『矢をたくさん打てるスキル』 ★
『魔法がチョットだけ大きくなるスキル』 ★
『火魔法スキル』 ★
『ステータスを偽装するスキル』 -
『肉体の損傷を再生するスキル』 ★★
『念力が使えるスキル』 ★★
-------------------
「レベルアップによるMP回復がやっぱりいちばん美味しいな。休むより攻めるほうが効率的ってわけだ」
2~3分にも満たない時間で、アキトは1000匹近くのゴブリンを抹殺していた。
「楽しい時間はもう、終わりか」
アキトの『スキルのことがよく分かるスキル』は恐ろしい敵の気配を近くに感じていた。
■続きが読みたいと思った方は
どうか『評価』【★★★★★】と『ブックマーク』を......!
ポチッとお願いします!




