「第80話 - 強敵への挑戦」
アキトとレイは、ゴブリンの大集落の方を見ていた。
そこは、もはや都市と呼ぶべき規模を誇っている。1万匹ものゴブリンが集う、巨大な要塞だ。
「大層なスキルを持ったゴブリンね」
レイが呟く。
「そうだ。あの1万匹集落の中でもトップクラスの強さを誇るスキルだよ」
アキトは真剣な面持ちで告げる。
(それだけじゃない。さっきの4匹全員も、特に反応が強いゴブリンに該当する)
彼は内心で付け加える。
(そんな奴らが分身とはいえ自爆するという苦痛を背負ってまで俺達を殺しに来たのか?そんな......)
アキトの脳裏に、『分身を作るスキル』を持つゴブリンの姿が浮かぶ。
間違いない。あの集落の中に、未知なる強敵が潜んでいるのだ。
「なぁ、レイ。レイがここで......ここの2層で派手に狩りをしたのは今日が初めてか?」
アキトが尋ねる。
「そうよ」
レイが答える。
「......なら俺のせいだな。俺がマークされているんだ。奴らは俺を殺しに来たんだ」
アキトは自嘲気味に呟く。
「しかも、俺の場所がわかっている。俺と識別している」
彼は危機感を募らせる。敵は、アキトを特定し、執拗に追ってくるのだ。
「なら、俺が生きている限り、奴らは俺を殺しに来る......」
アキトの瞳が、覚悟に満ちていく。
「殺さなきゃ。奴らを殺さなきゃいけない」
アキトは拳を握りしめる。
生き残るためには、強敵を打ち倒すしかない。
「なぁ、レイ、取引をしたい」
アキトが切り出す。
「何?」
レイが怪訝な顔をする。
「向こうを向いてくれ、首を触るぞ」
アキトは彼女に告げる。
レイは戸惑いながらも、言われた通りに背を向ける。
アキトは、そっとレイの細い首に両手を添える。
(レイの体内を流れるMPを把握する)
彼は目を閉じ、精神を集中させる。
(俺の意思で、彼女のMPを操作する)
アキトはレイの魔力を感じ取っていく。そして、彼女のスキルの在り方を読み解く。
(『紅蓮魔法:マグマキューブ』はスキルのポテンシャルを最大限発揮できる形になっていない)
アキトは確信する。もっと効率的な魔法の形があると。
「矢の先をイメージしろ。やじりだ。あの形が最も効率が良い」
アキトはレイに語りかける。
「『紅蓮魔法: 炎獄の矢』」
彼は新たな魔法の名を紡ぐ。
レイの手から、無数の光点が生み出される。
しかし、それは矢ではない。鋭利なやじりの形をした、マグマの塊だ。
流線的な二等辺三角形の形状をしたそれは、空気を切り裂きながら高速で発射されていく。
まるで炎の雨のように、大量の鏃がめくれ上がった地層へと降り注ぐ。
「......!!」
レイは驚愕に目を見開く。声すら出ないほどの衝撃を受けているようだ。
(って俺が首を持ってるから声が出せないんだろう)
アキトは我に返り、慌ててレイの首から手を離す。
「どうだ。前よりも2倍はMPの変換効率がいいはずだ。発射速度も上がってるだろ?」
アキトが尋ねる。
「ええ。ええ!......どうしてこんなことが」
レイは信じられないという表情で問い返す。
「『スキルのことがよく分かるスキル』のおかげでね」
アキトは得意げに告げる。前見たときから感じてはいた。レイのスキルの本来のポテンシャルが毀損されている、そう感じていた。
「......そういうこと。首を持たれたときは何か、私にスキルを移そうとしてるのかと思った」
レイは複雑な心境を吐露する。
「......まぁスキルオーブがほしいなら、それでもいいが」
アキトは肩をすくめる。その発想はなかった。でも......まぁできないこともない気がするな。
レイの視線が泳ぐ。まるで、アキトの真意を探ろうとしているかのようだ。
彼女は一度深呼吸をすると、改めてアキトに尋ねた。
「......で、何をしてほしいわけ?」
「今から、あの集落に、いやあれは都市か。あのゴブリンの巣窟に乗り込むことにした」
アキトは宣言する。
「俺が死にそうだったら、連れて帰って欲しい」
彼は真剣な眼差しでレイに頼む。それは、レイになら命を預けられるという信頼の証でもあった。
「いいけど......さっきの爆発みたいなのは助けられないわよ?スキルなんてものがある以上、何が起きるかなんてわからないんだし」
レイは眉をひそめながら、真剣な表情でアキトに警告した。彼女の瞳には、心配と覚悟が混ざっていた。
レイの言葉には重みがあった。ダンジョンでは、想像を超える危険が潜んでいる。彼女は幾度となくそれを目の当たりにしてきたのだ。
「わかっている。明確に助けを求めたらでいい。死んでも文句は言わない。自分の命は、自分で守る」
レイは苦笑しながら、髪をかき上げた。
「中途半端に生き残られるのが一番困るんだけどね」
金森も怒るだろうし、再起不能な半死半生が、一番迷惑か。死んでしまえば死人に口なしだから、むしろ楽か?
「わかった、わかった!とりあえず、頼んだ!」
アキトは背中から炎の翼を展開した。翼は鮮やかな赤と金色に輝き、周囲の空気を揺らめかせる。アキトは力強く炎を出しながら、ゴブリン都市へと飛び立った。
地上に残されたレイは、アキトの姿が遠ざかっていくのを見つめながら溜息をついた。
「まだ、早いと思うけど......」
彼女の脳裏には、様々な思いが駆け巡る。(もし彼が死にでもしたら、金森に殺されるんじゃないか?でも、彼の行動を妨げて嫌われるのも良くないわ......)
レイは複雑な表情を浮かべながら、自分の体を炎に変えていき、やがて地面に溶け込んでいった。
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空高く舞い上がったアキトは、ゴブリンの都市を見下ろしながら、心の中で決意を固める。
(敵に次の手を打たれる前に反撃する。先手必勝だ)
風を切る音と共に、アキトの脳裏に戦略が浮かび上がる。
「まずは俺の場所がわかるゴブリンを殺さないと、やりたいことができなくなるかもしれない」
(『スキルのことがよく分かるスキル』......ここにいる俺を識別できるスキルを持った敵の場所を教えてくれ)
アキトは精神を集中させ、スキルを発動する。すると、都市を囲うようにそのスキルを持った敵が配置されているのが見えてきた。まるで赤い点が地図上に浮かび上がるかのように、敵の位置が明確になる。
(考えられているなぁ......さすがだ)
彼は舌打ちし、額に汗を浮かべる。敵も、攻撃が来ることを想定して万全の態勢を整えているのだ。緊張感が背筋を走る。
アキトは深呼吸し、全身にマナを巡らせる。彼の周りの空気が、わずかに歪んだ。
「氷河の矢......行け!」
アキトは雄叫びを上げ、取り出した氷河の矢を両手で前に突き出す。紅蓮の炎が彼の掌から吹き出し、瞬く間に氷河の矢は前方へ飛んでいった。
当該スキルをもった8体のゴブリンに向けて、矢がまっすぐに進んでいく。最も遠くの敵の場所は700m先。アキトにとっても、これほど遠くの敵を狙うのは初めての経験だった。緊張と興奮が入り混じる。
氷河の矢には『火魔法スキル』の力をかなり込めた。まるでミサイルのように、矢が加速していく。空気を切り裂く音が響き、矢の軌道に沿って霜の痕跡が残る。
ゴブリンの直上まで到達すると、アキトは火魔法を炸裂させた。氷河の矢が巨大な氷塊となって、ゴブリンめがけて落下していく。
「ドガガガガ!」
都市に、凄まじい衝撃が走る。氷塊が地面に叩きつけられる音が、空中のアキトにまで届いた。地面が揺れ、建物が崩れ落ちる音も混じる。
瓦礫と氷の破片が舞い上がり、周囲は一瞬にして混沌の渦に包まれた。
(レーダー系のスキルを持ったすべてのゴブリンを討伐することができた......か)
アキトは手応えを感じる。額の汗を拭いながら、満足げに頷く。これで、敵に自分の位置を悟られる心配はない。優位は確保できた。
彼の目が炎のように輝く。「さぁ......!ここからが本番だ!」
アキトは雄叫びを上げると、ゴブリンの都市に急降下していく。風を切る音が耳を突き、アドレナリンが全身を駆け巡る。
高度を下げながら、自らにスーパーバリアの矢を次々と放っていた。青白い光の矢が、アキトの体を包み込んでいく。
まるで隕石のような速さで、アキトはゴブリンの都市へと落下していくのだった。
冒険者カード
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プレイヤーランク ★
プレイヤーレベル 23
次のレベルまで 81
累積経験値 7873
ステータス 0
HP 122
MP 31/46
スキル 0
『スキルのことがよく分かるスキル』 -
『矢をたくさん打てるスキル』 ★
『魔法がチョットだけ大きくなるスキル』 ★
『火魔法スキル』 ★
『ステータスを偽装するスキル』 -
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飛行の消費MPは多いです。この移動でも結構削られていますね。1000匹まるっと倒したことでMP上限が伸びていますが、上限の伸びに対応して、上限が伸びた分だけ保有MPも回復しますが、レベルアップごとの全回復とかはありません。
HPとMPの上限の伸びは、レベルアップ時に生じますが、倒した魔物から魔素を経験値として吸い取る事によって発生するという理屈です。ダンジョンシステムみたいなものがステータスを作っているわけではないので、レベルアップで全回復とかは起こり得ないわけですね。




