「第70話 - 勝利の余韻」
アキトは再戦を終え、結果を確認する。
「3勝0敗となりました。これにて勝負を終了いたします」
システムのアナウンスが響く。
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アキト・サトウ
Rank 603925→402678
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「めちゃくちゃ上がるじゃん」
アキトは驚きを隠せない。一気に20万近くもランクが上昇したのだ。
「さっきの人のランクは?」
彼は相手のランクを尋ねる。
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Rank 36165
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「マジか。そんなに離れてたのか。かなりやり込んでいる人だったんだな」
アキトは感嘆の息を漏らす。自分との実力差を痛感させられた。
(よしよし、負けた分はやり返したし、学びはあった。でも現実世界だったら、負けられないんだよな。負けたら死ぬってことじゃん?)
アキトは真剣な面持ちで呟く。ここでの戦いは、あくまで仮想現実だ。しかし、現実のダンジョンでは命を賭けた戦いが待っている。
アキトは3戦目を思い出す。完全に必敗の状況だったが、全てのスキルを活用することで乗り切ったのだ。
(まぁ、『火魔法スキル』の練習ってことで利用していたのだが、『スキルのことがよく分かるスキル』も使っていたし、他のスキルを使わない理由もない)
彼は自分の戦略を反芻する。状況に応じて、柔軟にスキルを使い分けることが重要なのだ。
「それにしても、『ファイアアロー』にも『矢をたくさん打てるスキル』が適用されるんだな。『魔法がチョットだけ大きくなるスキル』ももちろん適用されていたし」
アキトは新たな発見に喜ぶ。スキル同士の組み合わせによって、より強力な魔法が生み出せるのだ。とはいえ、150万円近くする炎爆の矢と比較すれば威力は劣ると感じた。ダンジョンでは、炎爆の矢に込められた魔法を強化することに『火魔法スキル』を使うほうが良いのかもしれない。
あとは、ファイアアローのほうが速射性には優れている感じがあるな。とっさに矢をつがえるのは難しいから、緊急時に使う魔法になりそうだ。
あとは3つどころか10くらいなら全然同時に出せる感じがするのがよかった。『矢をたくさん打てるスキル』を使えば3倍、30くらいに増えてくれるから、ダンジョンで使うのが楽しみだ。
(まぁ、フィールドが極端に不利でもない限り、アーティソンでは『火魔法スキル』と『魔法がチョットだけ大きくなるスキル』の2つだけを使うことにしよう)
彼は決意を新たにする。
(『矢をたくさん打てるスキル』を使っちゃうと、『ファイアアロー』だけ極端に強いからそれしか使わなくなるし、それじゃ『火魔法スキル』の練習にならない)
アキトは自分に戒めを込めて呟く。あくまで、『火魔法スキル』をマスターすることが目的なのだ。
「このまま、頑張るかぁ」
彼はアーティソンの営業時間が終了するまで、夢中で仮想戦闘にのめり込んでいた。
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講座最終日の3日目。生徒たちのほとんどが、複数回魔法を使えるようになっていた。
アキトは教室を見渡す。皆、著しい成長を遂げている。
『石兵魔法スキル』を持った女の子は、3体のゴーレムを召喚し、1体の肩に座っていた。
(あのスキル、便利で良いなぁ)
アキトは羨望のまなざしを向ける。ゴーレムは戦闘だけでなく、荷物運びなどにも活用できそうだ。
(壁にもなるし、偵察もできるかもしれない。ああいう便利なスキルもほしいなぁ)
彼は考えを巡らせる。
(というより、スキルって物理法則に反している感じがあるけど、もはや、魔法に近いような、そういうスキルってやっぱりいいよな)
アキトは魔法的なスキルへの憧れを感じていた。
「今日はパーティー戦闘を行うわ」
レイが告げる。
「さすがに運動場で行うのも危ないし、アーティソンという施設を貸し切って行います」
生徒たちは期待に胸を膨らませる。実戦に近い環境での訓練は、彼らにとって初めての経験だ。
アーティソンは、最新の魔法技術を駆使した戦闘訓練施設だ。ダンジョンを再現した様々なフィールドが用意されており、安全に実戦的な訓練ができる。
「戦闘後には負傷と使用したMPが回復するから、実際の戦闘だと思って戦ってみてちょうだい」
レイの言葉に、アキトは驚く。
(マジか。あれ、パーティー戦闘もできるんだな)
彼はアーティソンの機能の高さに感嘆する。これなら本番さながらの訓練が可能だ。
「チーム分けをするので、そのチームで今日は戦うように」
レイが続ける。
「チームワークの練習と作戦を立てる時間を1時間取るわ。その間、自由に練習しなさい」
生徒たちは興奮気味に、チームごとに集まっていく。
しかし、アキトは1人取り残されていた。
「......俺は一人なんですか?」
彼は不安げに呟く。ソロでの戦闘を想定していたアキトにとって、チーム戦は未知の領域だった。
「仲間が必要?」
レイが近づいてくる。彼女の笑顔は、いつもの優しさに満ちている。
「戦えるんですかね?★2つ、それも複数人相手に」
アキトは懸念を口にする。どんなに実力をつけても、数の不利は覆しがたい。
「......この講座が終わって、人と一緒にダンジョンに挑むつもりがあるの?」
レイが真剣な眼差しで尋ねる。
(言われてみれば、そんな予定はなかった)
アキトは内心で認める。彼は基本的に、1人で行動することを想定していたのだ。『スキルのことがよく分かるスキル』に関して突っ込まれても、利用されるのも嫌だった。
「ないなら必要ないわよね」
レイは即答する。彼女の言葉には、強い説得力があった。
「昨日の戦闘記録、見せてもらったけど、大抵のダンジョンの1層なら問題ないわよ」
彼女は自信たっぷりに告げる。
「えっ!?」
アキトは驚きを隠せない。自分の戦いぶりを、レイに見られていたとは。
「安心して、私以外には見えないから」
レイは優しく微笑む。彼女の言葉に、アキトは少し安堵する。
「えー......はい」
彼は渋々了承する。
「この1時間は、私と1対1で戦ってみましょうか」
レイが提案する。
アキトは緊張で喉が渇く。レイのランクは★3つ。昨日戦った『斬撃スキル』持ちの冒険者も★2つくらいだろう。これほどの高みにいる上級冒険者との戦い。それは彼にとって、未知なる領域への挑戦だった。
「わ、わかりました...!」
彼は震える声で答える。
こうして、アキトとレイの特訓が始まった。
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