「第66話 - 敗北の分析」
アキトは敗北の衝撃から立ち直ると、冷静に戦いの振り返りを始めた。
「仮想戦って言ったよな。今の振り返りってできるか?」
彼はシステムに尋ねる。
「承知しました。戦闘フィールド・平原に転移します。巻き戻し、一時停止などが可能です」
システムが答える。
「わかった」
アキトは戦闘フィールドに再び立つ。燃え盛る草原が、彼の敗北の記憶を鮮明に蘇らせる。
「俺の火炎放射に相手が耐えられたのは、なぜだ?」
彼は問いかける。
「再現映像を見られるか?」
システムは戦闘の映像を再生する。そこには、アキトの予想外の光景が映し出されていた。
「ああ...なるほど。炎の下に潜り込んだんだな。俺は草の上を撫でるように火を出してしまっていたわけだ」
アキトは自分の失敗に気づく。
「地面すれすれを燃やし尽くすような形で、もっとトロトロしたというか、下から焼き殺すような炎を出すことはできないか?」
彼は新たな戦術を模索する。
「ガソリンを放水機で吹き出すように、火炎放射を行う......そうイメージしよう」
アキトは火炎放射のイメージを変える。
テレビで見たことがある自衛隊の火炎放射器をイメージする。
仮想敵の人形に姿勢を低くしてみてもらう。
「火炎放射」
向きとイメージを工夫して火炎放射を出すと、姿勢を低くしていた相手にもかかわらず後方に吹き飛び焼き焦げた。
「うん。姿勢を低くしても焼き切れる。やり方が良くなかったな」
彼は反省しつつ、次の疑問に移る。
「それじゃ、2つ目。ファイアブーストが切られたのはなぜだ?」
再び、システムが戦闘の映像を再生する。
「相手のスキルの影響はありそうだ。『斬撃スキル』...名前だけじゃ能力がわからないが、剣が魔法に触れていない。つまり、剣から何かがでているということになる。多分、斬撃効果」
アキトは相手のスキルを分析する。
「斬撃効果が俺の魔法を切り裂いて......ファイヤブーストの効果が左右に逃されている」
彼は魔法の性質を理解する。
「イメージとしては、試合のときの火炎放射は熱を放射していた。さっきのトロトロ火炎放射は、MPを燃えるものに変換して、それを撒き散らすイメージでやってる」
アキトは自分の魔法の仕組みを説明する。
「ファイヤボールは燃え続ける+推進力を込めたMPを射出しているし、ファイヤバレットはその密度を高めて、より早く射出したものだ」
彼は火球系魔法の原理を語る。ファイヤバレットで手を銃の形にするのはイメージしやすいからだ。
「ファイヤボールとバレットは、核が破壊された場合、効果がなくなる。能動的に当たって核が爆発した場合は別だが」
彼は火球系魔法の弱点を指摘する。だから、ファイヤボールとバレットが切り裂かれたというのなら理解できる。
「ファイヤブーストは、MPを俺の腕自体を銃にして、燃え続けるMPを発射するイメージだ。俺の体で反動に耐える分、威力を出せる。射程を殺す分、燃焼効果と威力に特化させている」
アキトは最大火力の魔法について説明する。
「ファイヤブーストが切られても、威力と燃焼効果自体は刀のすぐ後ろにいる本体にぶつかったはずだ。今回はそれがなかったことになるじゃないか」
アキトは疑問を呈する。
「つまり、斬撃スキルは一定の太さと厚みを持って、刀身をコーティングする。そうすることで、発動者自身を保護する役割を担っていることになるのではないか?」
彼は仮説を立てる。
「だから、ファイヤブーストは切られたうえで、威力も相手に届かなかった」
アキトは納得する。
「再現映像をもう一度」
彼は念のため、もう一度映像を確認する。
「うん。そのとおりだ。切り裂かれたファイヤブーストは、見えない壁のようなものに阻まれてベクトルがいじられている。しかも思ったより保護範囲が大きい。こんなのは斬撃スキルというより......見えない・受け流し効果を持った盾が突っ込んできているのに等しい攻撃じゃないか」
アキトは相手のスキルの恐ろしさを実感する。
「これだから★2つのスキルは...★1つとはレベルが違う性能を持っていることが多いな。★1つなら本当に斬るだけのスキルなのだろうが、★2つだと、攻防一体の効果を持っているじゃないか」
「......こういう奴と戦っていかないといかんのか」
彼は重い口調で呟く。
「うーん......そういうスキルとなると地面すれすれから燃やす火炎放射を出したとしても切られてたかもしれないな。もっと『火魔法スキル』を活かさないと......」
この敗北は、アキトに大きな教訓をもたらした。
単純な火力だけでは、上位の冒険者には通用しないのだ。
「もっと、戦略を練らないと...」
アキトは奥歯を噛みしめる。
魔法の使い方を工夫し、相手の隙を突く戦い方を身につけなければならない。
「もう一度、戦うことがあったら、メッタメタにしてやる......」
アキトは敗北の悔しさを胸に、再び戦いの場に立つことを決意する。
「......再戦申し込みってできるか?」
俺はシステムに聞いてみることにした。
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