「第64話 - 密林での死闘」
「マッチング成功。戦闘フィールドへ移動します」
システムのアナウンスが響き、アキトの視界が真っ白に包まれる。
次の瞬間、彼は深い緑に囲まれていた。湿気を帯びた空気が、肌に張り付く。
「戦闘フィールド、密林。10秒後に戦闘を開始します。10...9...」
カウントダウンが始まる中、アキトは周囲を見渡す。
(この環境は、俺にとって不利だな...)
彼は内心で呟く。火魔法は、湿気の多い密林では効果が薄れてしまうのだ。
アキトは『スキルのことがよく分かるスキル』を発動し、敵の気配を探る。
(今度は遠いな。150メートルは離れている。『柔よく剛を制するスキル』?柔道系のスキルかな?近づきたくないな...)
彼は眉をひそめる。接近戦を得意とする相手は、厄介だ。
(良く考えたら、普通の人は相手の索敵から始めないといけないんだよな。そう考えると、かなり自分は有利な気がする)
アキトは自分の能力に感謝する。索敵に時間を取られずに済むのは、大きなアドバンテージだ。
「3...2...1...戦闘開始」
システムの声と共に、戦いが始まった。
(密林は湿っぽいからな。正直、火魔法とか効果薄そう)
アキトは戦略を練る。
(近づいていって、最大火力で攻撃しよう。ダメなら死...)
彼は覚悟を決める。
(よく考えると、まだ『火魔法スキル』を全然使いこなせてないよな。こういうとき、その道10年のベテランだったらどうやって戦うんだろうか?)
アキトは思案する。自分の魔法の腕には、まだまだ磨きが必要だ。
(まぁ、実際は相性が悪そうなら逃げるのが一番の選択肢に来るんだろうけどね)
彼は苦笑しつつ、前に進む。うーん。奇襲で勝っても面白くないし、収穫もすくない。ちょっと練習してみるか。
「ファイアバレット!」
アキトは手を突き出し、炎の弾を放つ。樹木の一部を弾け飛ばしたが、さっきよりも明らかに威力は弱い。
(ジメジメしてるしなぁ。近づかれていたら、倒しきれるか不安かもしれない)
彼は眉をひそめる。
その時、アキトは敵の動きに気づいた。
(あ、バレた。こっちに近づいてくるぞ)
彼は身構える。
(速射性を意識しても、ファイアバレットで戦うこと自体がうまい戦略じゃなさそうだ。どうするか)
アキトは思案する。弓があれば、密林ごと吹き飛ばせるのだが。
(あ、やべ。もう来てるわ)
彼は咄嗟に、近づいてくる相手に火炎放射を浴びせる。
炎は密林の湿気に阻まれ、威力は抑えられている。それでも、相手には十分なダメージを与えられたようだ。
(延焼はしないし、火力も抑えられてるけど、キツイだろ)
アキトは手ごたえを感じる。
(スキルの性能に対して、正直無理をしている。その分MPは削られるが、思ったより効果的だ)
炎に包まれながらも、相手はこちらに向かって突進してくる。
(体術系の戦闘能力は持ってないから、つかみ合いになったら負けだ)
アキトは右手で火炎放射を出しながら、左手を相手に向ける。
「ファイアバレット!」
直線的な動きになった相手を、炎の弾が捉える。僅かにノックバックした相手に、アキトは容赦ない追撃を仕掛ける。
「ファイアブースト!」
両手を相手に向け、バズーカのような一撃を放つ。火炎放射数秒分の火力を、一撃に込めるのだ。
「ぐあっ!」
肩が外れるかと思うほどの反動があったが、攻撃は見事に命中した。
相手の胴体に穴が開き、白い人影がかき消えるように消滅する。
「アキト様の勝利です。アーティソンに帰還します」
システムのアナウンスが響く中、アキトは安堵の息をついた。
密林という不利な環境でも、何とか勝利を掴むことができたのだった。




