「第56話 - 魔力開花の洗礼」
レイの言葉に、アキトは身構えた。魔力開花。それは、冒険者としての第一歩を踏み出す、重要な儀式らしい。
この世界では、魔法は生活に欠かせない存在となっている。モンスターと戦うためにも、魔法の力が必要不可欠だ。しかし、誰もが最初から魔法を使えるわけではない。
魔力を引き出すには、体内の魔力を解放することがまず必要となる。それが、魔力開花と呼ばれる儀式なのだ。
「はい、じゃあ鬼ごっこしまーす」
レイの言葉に、アキトは目を丸くする。鬼ごっこ?それが魔力開花の訓練だというのか。
レイに促され、一行は施設の外に出る。そこには、広大な運動場が広がっていた。
「えーっと、魔力開花っていうのは、魔力が込められた攻撃を食らうことで体内の魔臓っていう、魔力を保管している器官を目覚めさせること」
レイが説明を始める。
「魔臓を刺激することで、体内に眠る魔力を引き出すのよ」
アキトは真剣に耳を傾ける。魔力を引き出すには、魔力に満ちた攻撃を受ける必要があるらしい。
「これ、触ってみて」
レイが手のひらに、オレンジ色の球体を作り出す。ファイアボールだ。
「熱くない。結構ぷにぷにしてますね」
アキトが触れると、意外にも熱くはない。むしろ、柔らかくて弾力がある。
「これが2kg。これをこうやって」
レイはファイアボールを振り回す。
「ビュンビュン振り回して、これで君たちを思いっきり殴ります。正直......結構キツイと思う」
その言葉に、アキトは戦慄する。マジかよ、と内心で絶叫した。
「まぁ、腹と背中にプロテクターつけてもらったから、どちらかに当てるから」
レイが続ける。
「......俺、別に逃げないんで、今お願いしていいですか?」
勇気を振り絞って、アキトは申し出る。
「じゃあ、はい」
レイが微笑むと、彼女の手が振り上げられた。次の瞬間、アキトの腹部にファイアボールが炸裂する。
「ゴフッ!」
衝撃に、彼は膝をつく。嘔吐感に襲われ、その場でピクリとも動けなくなった。
「うーん......失敗してるな。やっぱり不意をつかないと、体が避けちゃうから......ちょっとズレちゃってダメなんだよね」
レイは苦笑しながら言う。う、嘘でしょ!?
「みんながへとへとになるまで逃げ回って、ちゃんと魔臓が開放されるまで、何発でも殴るから安心してね」
「じゃあ、始めようか」
レイは残る生徒たちに目を向ける。
「あの......なんで室内じゃなくて、外でやるんですか?」
一人の少女が尋ねる。
「掃除が大変だからだよ。いくよ〜」
レイは笑顔で答えると、ファイアボールを放ち始めた。
次々と生徒たちが吹き飛ばされていく。あの美少女も、あのイケメンも、みな嘔吐して地面に倒れ込んでいる。
痛みに悶えるアキトも懸命に逃げ回る。
なんか、俺、結構うまく避けられてるんじゃね?
そう思った瞬間だった。
「見える!見えるぞ!」
「ゴフッ!」
容赦なくファイアボールを叩き込まれ、アキトの意識は刈り取られた。
こうして、魔力開花の洗礼は終わりを告げた。地面に倒れ込む生徒たち。嘔吐と苦悶の声が、運動場に木霊する。
アキトもまた、魔力開花の洗礼を受けたのだ。過酷な儀式だったが、これで彼も一人前の冒険者への第一歩を踏み出したのだった。
「ふぅ、みんな、お疲れ様」
レイは満足そうに呟くと、倒れた生徒たちを見渡した。
彼女の瞳に、楽しげな光が宿っているようにも見えた。
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