「第52話 - 真相の追求」
レイは爆心地を入念に観察していく。破壊の痕跡から、複数の属性魔法が使われたことは明らかだった。
「どう考えても、一つの属性の痕跡じゃないのよね」
レイが呟く。
「草魔法、火魔法、電気魔法...少なくとも3つの魔法が組み合わさって、この惨劇は引き起こされている」
アキトは冷や汗をかきながら、ちょっと嘘くさい感じで言う。
「そ、それは大変だ」
レイは彼の反応を見逃さない。
「順番にというわけじゃなく、3つの魔法が同時に炸裂しているわ。この壁を見なさい」
彼女は焼け焦げた壁を指差す。確かに、ぱっと見でも複数の魔法が同時に炸裂した痕跡が残っている。
「ほら、ここの焦げ跡に草の茎のような模様がいくつも混じっているでしょう?でも、その周りの電撃の痕跡は上に重なっているものも、模様の下にあるものもある。明らかに同時に魔法が炸裂した証拠だわ」
レイの鋭い指摘に、アキトはしどろもどろになる。
「え、ええと...そ、そうですね...確かに...」
彼は必死で動揺を隠そうとするが、うまくいかない。
「3種の魔法を扱える人間なんて絞られるわ。二つ名がついてくるくらい有名だものね」
レイは続ける。
「賢者ダーウィン・アークライト、魔法少女りりか・桂木とか...でも、彼らが暴れたらこんなダンジョン崩壊してるわ」
アキトは内心で冷や汗をかく。自分の仕業だとバレているのではないか?いや、まだ重要参考人のはず......
そ、そうだ!証拠がない!推定無罪の原則もあった!
そんな彼の不安をよそに、レイは別の点に注目する。
「結構高級な矢を持っているわね」
彼女はアキトの矢筒を見つめる。
「緑樹の矢、炎爆の矢、雷撃の矢...いっぱい持ってるわね。それに弓も......矢を3本束ねて発射することもできる珍しいものじゃない?」
アキトは心臓が飛び出そうになる。まさか、自分の装備から疑われるとは。
「緑樹の矢、炎爆の矢、雷撃の矢、3本束ねて放ってみてくれない?どんなふうになるか、見てみたいのだけれど」
愉しげなレイの提案に、アキトは冷や汗が止まらない。
「そうね。もちろんタダでとは言わないわ。ストアで買ったら矢だけでも400万近くするんでしょ?」
彼女は続ける。
「私の魔法学講習に招待してあげる。『火魔法スキル』、まだ使えないんでしょ?」
「そ、そんなこともわかるんですか!?」
アキトは思わず声を上げる。『も』ってなんだ。じ、自白したわけじゃないぞ!
「わかるわよ」
レイは淡々と言う。
「ちなみに、『火魔法スキル』だけど、ある程度使えるようになれば、矢に込められた魔法の威力も強化できるようになるわ」
アキトは葛藤する。魔法学講習に参加できるのは魅力的だが、自分の力を見透かされている気がして怖い。
「私の講習は大人気でね。最低でも半年待ちなのよ。こんなチャンスがなければ、あなたが受講できるのは1年後くらいなんじゃない?」
レイがドヤ顔で語る。
「それを特別に、すぐに受けられるチャンスをあげているの。お金じゃ買えないわよ、こんなチャンスは。むしろ感謝してもいいくらいよ」
「...わかりました。あっちの壁でいいですか?」
アキトは覚悟を決める。彼は弓を構え、3本の矢を束ねて放った。もちろん、『矢をたくさん打てるスキル』と『魔法がチョットだけ大きくなるスキル』はオフにしている。
矢が壁に命中すると、魔法が混じり合い、混合魔法を構成する。しかし、威力は及ぶべくもなかった。
「......あなたが画期的な発射方法を発明していて、それを隠している可能性もあるし、たくさんの矢がたまたまダンジョンの奥で暴発した可能性もあるわね。3人の魔法使いが同時に魔法を発動したかもしれない」
レイは考えを巡らせる。
「悪かったわね。これ、名刺。これを出せば、いつでも講習に参加できるわ」
彼女はアキトに名刺を手渡す。
「あ、はい...」
アキトは恐る恐る受け取る。
「じゃあ、帰りましょう」
レイが言う。
ば、バレなかったのか......?
二人は爆心地を後にし、ダンジョンの出口に向かう。
アキトの心は複雑だ。自分の仕業がバレずに済んだことに安堵しながらも、レイの鋭い観察眼に戦慄を覚える。
(俺みたいな新米が、上級冒険者になるなんて夢のまた夢だな......)
彼は内心で思う。しかし、同時に希望も感じていた。
「でも、チャンスをもらえた。魔法学講習に参加できるんだ」
アキトは名刺を握りしめる。これが、彼の成長への第一歩となるのかもしれない。
ダンジョンの出口が見えてくる。外の世界は、いつもと変わらない日常が広がっている。
しかし、アキトの心は大きく変わっていた。上級冒険者への憧れ。強くなりたいという願いが生まれていた。
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