「第33話 - 変わりゆく日常」
「私はこのままの生活を続けられるのですか?続けて大丈夫なのでしょうか?」
アキトは不安げに金森に尋ねる。
「続けられますよ。私が口外することもないので」
金森は微笑みながら答える。
「例えば頂いたスキルオーブは、鑑定希望に出すつもりです。まあ、半年くらい経って鑑定が完了すれば、『爪がきれいになるスキル』として通常の取引ルートに乗せます。鑑定コストで数千万かかりますが、『爪がきれいになるスキル』だったら高く買う方もいると思います。私も数百...もしかすると数千万ほど儲かる取引です。私はたくさん鑑定希望を出してますので、怪しまれることもないです」
加えて言うなら、このスキルはゴブリンをよく観察すれば分かるものであることも大きいですね。爪がきれいなゴブリンなんて珍しいでしょう?と金森は補足した。
アキトは驚きを隠せない。鑑定コストが数千万もかかるとは、相当な金額だ。
なるほど、鑑定コストは高い。『腐肉が食べられるスキル』とかだったら、価値もほぼ0だろう。何のスキルかわかっていれば安心して鑑定希望を出せるし、儲けられるわけか。見た目でわかるスキルであるなら鑑定に出してもそこから芋づる式にバレるということも少ない。商流に乗りやすいオーブだ。それに......
アキトは合点がいったように頷く。
「鑑定済みのスキルオーブが、富裕層の間か何かで取引されているんですね」
金森は真剣な表情で、彼を見つめた。
「そうですよ。★3つ以上の冒険者や、富裕層を対象にした話です......話が戻りますけど、強くなれるなら強くなった方がいいですよ。一刻も早く。それは間違いないです」
彼女の言葉に、アキトは背筋が凍る思いがした。
「どんなことがあって、あなたの存在が他国や他人にバレるかわかりません」
金森は続ける。
「バレたと思ったときは私に連絡いただければ、スピーディーに対応しますよ。でも、間に合わないかもしれませんからね」
「自己防衛できる力は必要ですよ」
「わかりました...」
アキトは深く頷いた。彼にはまだ、自分の力を過信できない。強くなること。それが、今の彼に求められていることなのだ。
「最後です。金森さんは、なんでそんなにたくさんスキルを持っているんですか?」
アキトが尋ねると、金森は一瞬、言葉に詰まった。
「......なぜかと言われたら、私も昔冒険者だったからです。オーブを鑑定せずに使用するのは危険と言っておきながらなぜ使ったのかと言われれば......対人、対モンスターの戦闘のためです。稀にスキルを封印するスキルを持つ者がいます。何のスキルを使っているのか、把握に時間がかかればその間に殺せますからね。特定のスキルに依存していると思うなら、気をつけたほうがいいですよ」
彼女の言葉に、アキトは頷くしかなかった。多くのスキルを持つこと。それが、冒険者としての生存戦略なのだ。
「取引用に専用の口座とカードをご用意しておきました。800万円、自由に使えるようになっています。また、何かございましたら、いつでもお電話ください」
金森はアキトに、書類とカードを手渡す。
「わかりました」
アキトは大切そうにそれらを受け取った。これが、彼の新たな人生の始まりなのだ。
「不安なら、私が常にご一緒することも可能ですよ?」
金森が不意に言う。
「勘弁してください......」
アキトは苦笑しながら、首を横に振った。彼にはまだ、自分の力で立ち向かいたいという思いがあるのだ。
さっきの軽バンに見える高級車に乗って、アキトは家まで送り届けられた。
車窓から見える街の景色は、いつもと変わらない。しかし、アキトの心は大きく変わってしまった。
「これからは、今まで以上に気を引き締めないとな...」
彼は心の中で誓う。スキルオーブとの出会いが、アキトの冒険者人生を大きく変えようとしているのだ。
家に着いたアキトは、ベッドに倒れ込むと天井を見つめた。
「強くなる...か」
彼の脳裏に、金森の言葉が蘇る。
「明日からは、今まで以上に厳しい修行だな...」
アキトは意を決して、目を閉じた。彼の冒険は、新たなステージに突入しようとしているのだ。
窓の外では、いつもと変わらない街の喧騒が聞こえてくる。しかし、アキトにはもう、普通の日常には戻れないのだった。
彼の運命は、スキルオーブと共に動き出したのだ。新たな冒険の幕開けである。
■続きが読みたいと思った方は
どうか『評価』【★★★★★】と『ブックマーク』を......!
ポチッとお願いします!




