「第31話 - スキルオーブの真実」
アキトは緊張した面持ちで、金森に向かってオーブを差し出した。
「...オーブはこれです。『爪がきれいになるスキル』のオーブです。実際ゴブリンの癖に爪がトゥルントゥルンだったので、そういう効果が得られると思います」
金森の顔がひきつる。アキトの言葉に、彼女は明らかに動揺していた。
「スキルオーブをギルドに売ろうとしたことはありますか?あるいは人に?そういう相談を、その他の人にしたことは?」
金森の問いに、アキトは首を横に振る。
「ないですけど...」
彼女は深く息を吸うと、真剣な表情でアキトを見つめた。
「スキルオーブの歴史の話をしましょう」
金森は語り始める。スキルオーブのドロップが初めて話題になったのは、ダンジョンが出現して1年2ヶ月が経った頃だという。
「ゴブリンからドロップしたオーブを使用した冒険者は......その......手当たり次第、周辺の女冒険者に襲いかかり、警察に捕まりました」
「なぜ!?」
アキトは驚きを隠せない。
「仲間の冒険者カードを確認したところ、『性欲が極大化するスキル』が追記されていたそうです」
「うっわ...」
アキトは顔をしかめる。確かに、そんなスキルもダンジョンで見た記憶がある。
「というわけで、スキルオーブの危険性が認識され共有されるようになりました。スキルオーブが手に入ることなんてめったにありませんが、冒険者の数の増加、質的な成長もあり、年間では万単位でオーブがドロップしていると言われています」
「へぇ...」
アキトは驚きを隠せない。
オーブの使用の危険性が認識された後、オーブはコレクターの間でだけ取引されるようになったという。ギルドも買い取りを行っているが、魔石数十個分程度の価格だ。記念に持っておく冒険者が多いそうだ。
「リスクが大きすぎるため、使う人間、機会は限定されます。リスクを受けいれられる人間であること。あるいは、戦闘した相手が有用なスキルを使っていたことです」
確かに。もしあのゴブリンメイジからオーブがドロップしてたら確認無しでも使うと思う。あいつのファイアボール、普通の大きさじゃなかったもんな。
金森はさらに続ける。
「その後、超大国ステイツで大発見があります。『鑑定ができるスキル』によって、スキルオーブによって得られるスキルがわかるようになったのです」
「あらま」
「有力な冒険者にスキルオーブを提供することで、彼の国のトップ冒険者の水準が一気に引き上がりました」
アキトは息を呑む。スキルオーブの価値が、一気に高まったのだ。
「もう一つ。欧州を拠点にする冒険者組合、イエリス教団の聖女も『鑑定ができるスキル』を有していると言われています。★★★以上の能力を持つ冒険者のみで構成される聖光騎士団のダンジョン攻略実績、強さは常軌を逸していると言われています」
金森の言葉に、アキトは驚きを隠せない。世界の力関係が、スキルオーブによって大きく変わろうとしているのだ。
「日本にも『鑑定ができるスキル』を持った人間がいました。ご存知ないですか?2年ほど前、ニュースになっていたのですが」
「ああ...そんな気がする。あれ...でも...」
アキトは記憶を辿る。確かに、そんなニュースを見た覚えがある。
「そうです。行方不明になりました。正確には、正体不明の冒険者集団にギルド本部が襲撃され、連れ去られました。まあ、ステイツか教団か、その両方なのですが」
「...マジですか」
アキトは愕然とする。スキルオーブ、というか、鑑定スキルをめぐる、国家レベルの争奪戦が始まっているのだ。
豪華な部屋の中で、金森から明かされる真実。アキトは自分が、というか、自分のスキルがとんでもない渦中に巻き込まれうるものであることを悟った。
なんのスキルかわかった上でスキルオーブを売る。それは、自分が世界の秩序を揺るがすほどの存在であることをアピールしていることと同義なのだ。
「さて、アキトさんにお持ちいただいたオーブが何でしたっけ?」
金森の問いかけに、アキトは冷や汗がとまらない。『スキルのことがよく分かるスキル』が、どんな価値を持つのか。彼にはまだ見当もつかない。
アキトは運命の歯車に巻き込まれていく。彼の選択が、冒険者としての未来を大きく左右することになるだろう。
ど、どうしよう...
アキトの脳裏に、様々な思いが駆け巡る。金森との取引に応じるべきなのか。それとも、この場から逃げ出すべきなのか。
彼の心は迷いに満ちていた。スキルオーブの真実を知った今、アキトは重大な決断を迫られているのだ。
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