「第16話 - 隠された試練」
眼の前のゴブリンはすべて討伐したわけだが、これでテストが終わりというわけではないことにアキトは気づいていた。実際5匹の仮想ゴブリンを倒したあと、テストが終わりというアナウンスが流れたわけでもない。
「油断は禁物だ...」
彼は警戒を緩めず、周囲を注意深く観察する。倒したゴブリンたちはどうやらスキルで作られたものらしい。アキトには『スキルのことがよく分かるスキル』があるので、そのことがよくわかっていた。
「いや、マジで便利だなこのスキル」
彼は内心で呟く。同時に、天井方向からまだゴブリンの気配がすることにも気づいていたのだ。
「上から来るのか...!」
アキトは身構える。すると、天井の気配が急激に彼に近づいてくる。
「くっ...!」
彼は咄嗟に、バリアの矢を地面に発射した。これは半径2メートル弱の防御シールドが、中にいる人間を守ってくれる魔法だ。
バリアに凄い音をたててゴブリンが激突する。
「奇襲ってなかなかエグいことしてくれるね」
アキトは苦笑しながら、次の一手を考える。天井からさらに2体のゴブリンが降りてきて、仲間を気遣っている。彼はその間に草魔法の矢を構えて発射した。
放たれた矢は3つに分裂し、ゴブリンたちに命中する。太い植物の蔓が、彼らを縛り上げた。
「これだけで倒せているような気もするが...」
アキトは念のため、炎の魔法が込められた矢を放つ。燃え上がる炎に包まれ、ゴブリンたちは悲鳴を上げながら倒れていった。
「テスト終了。お疲れ様でした」
再び音声が流れ、アキトは深く息をついた。彼は汗だくになりながらも、勝利の喜びに浸っていた。
テストルームを出ると、金髪の美女が待っていた。
「お見事でした。上からの奇襲にも対応できるとは...」
彼女は感心したように言う。 テストを終えたアキトの前に、金髪の美女が現れた。
アキトは首を傾げた。
「あれ、普通に危なくないですか?」
「ちょっと危なかったかもしれないですね。試しちゃいました」
美女は悪びれた様子もなく言う。アキトは内心で溜息をついた。
(スカウトの人たちがテストの内容を決めてるとか言ってたよな...)
彼は美女の言葉を思い出す。どうやら、彼女がテストの難易度を設定していたようだ。
「お渡しした名刺、電話番号も書いてあります。私に直通です。お困りのことがあったら、何でもおっしゃってくださいね」
美女は甘い声でアキトに言う。彼女の態度は、明らかに媚を売っているようだ。
「は、はい...ありがとうございます」
アキトは戸惑いながらも、礼を言った。美女は満足げに微笑むと、優雅な足取りで去っていく。彼女の後ろ姿は、非常に美しいと同時に艶めかしく見えた。
「何だったんだ、今のは...」
アキトは頭を掻きながら、試験会場を後にする。彼は冒険者の認定カードを手に入れた。星一つ、いわゆるシングルと言われているものらしい。
「初心者ダンジョンの入場資格も得られたか...明日、行ってみるか」
彼は心の中で呟く。冒険者としての第一歩を踏み出したアキトは、希望と不安が入り混じる胸の内を抱えながら、家路についた。
■続きが読みたいと思った方は
どうか『評価』【★★★★★】と『ブックマーク』を......!
ポチッとお願いします!