絶対負けない一つの方法
アミティに手を引かれて走りながら、振り返る。
先ほどコイツが倒した現国王の銅像。その周囲にはよく整備された芝生が広がっており、そこに聖母リースを始めとした歴代王の銅像が立ち並んでいる。付近には王城の案内地図と『戦勝記念公園』という看板。それらの向こうにそびえたつのは王城を囲う堅牢な城壁。案内地図を見るに、どうやら俺たちは王城中庭の東端に出たらしい。
目指す“梟の塔”は海の上、つまりは王城の西端だ。たどり着くには広大な中庭を東西に突っ切る必要がある。
正面に向き直る。視界に映ったのは無数の篝火で照らし出された百にも及ぶ建築物群――“万神殿”。
立ち並ぶ建築物の規模は祀る神の格や信徒の数により様々だ。そこらの村にもありそうな祠程度のものから、何百人も収容できる大聖堂を備えた教会まである。その造形も祀る神の教義によって多種多様。金箔で装飾された煌びやかな商い神の神殿もあれば、質素倹約を旨とする神の厳かな教会もある。
このどれかが女神ラデカの“祝福の教会”なのだろう。立ち止まって観察するわけにもいかないので分からないが。
「時間がありゃゆっくり観光したかったけどな! くそ!」
西海岸都市群でも思ったようなことを走りながら吐き捨てて、大通りに入る。そこは俺たちと同じように新郎新婦の格好をした男女の群れでごったがえしていた。通りの左右には軽食や土産物の出店が軒を並べており、声を張り上げて客を呼び込んでいる。祝福の順番待ちをしている連中と、それを目当てに出店している商売人だろう。
まるで祭りのような喧噪と高揚。その群衆をかき分けて、アミティと共に俺はひた走った。
どうやら“祝福の教会”は中庭の東側にあったらしい。西に近づくにつれて人込みはまばらになり、篝火の数も減った。そのうち西側の城壁も見えてくる。
気づけばその城壁の上に、月明りに照らされた象牙色の塔の先端がひょっこりと顔を出していた。
あれが“梟の塔”か。
ついにゴール地点が視界に入った。空の闇の中に小さな赤い光が煌めくのが見えたのは、そんなときだった。
「ロートくん!」
「おうよ!」
アミティの警告を聴く前に、俺は身を投げ出していた。
直後、寸でまでいた場所で爆発が起こる。《火球》だ。夜の闇のおかげで飛んでくるのが見やすかったのもあるが、ここ数日で何度も間近で見たので単純に慣れた。慣れって怖い。本当に。
湧き上がる悲鳴。立ち込める黒煙の向こうで、群衆が散っていくのが分かる。相変わらず無茶苦茶やるが、周囲に被害は出ていないのだろう。この《火球》を放ったのがあの陰キャ魔術師であるならば。
「なるほど、新郎新婦。――ふふ、予想できて然るべきでしたね、これは」
厭味ったらしい聞き覚えのある声は、すぐそばの建物の上から聞こえた。
さらなる危険を予感した俺はそのまま地面をゴロゴロと転がる。が、狙われたのは俺の方ではなかった。
アミティがいた方から金属の打ち合う音がする。
「花嫁衣装、お似合いですよ、お嬢様」
「あら、そう。ありがとうございますわ、メルヴィル。でも式の招待状は送ってなくてよ?」
何度か転がってから、立ち上がる。黒煙の向こうで、どこかの建物の上から降ってきたと思われるメルヴィルの片手剣をアミティが聖銀の短刀で受けていた。
あちらは任せ、周囲を見渡す。ラナがどこかにいるはずだ。あるいはいつだかの時のように風景に溶け込むように偽装しているかもしれない。
――と、辺りを見ていた割に次の回避行動は迅速に行えた。
俺のすぐ横にある、どこだかの神殿の敷地を囲う石壁。そこが突然破砕し、司祭服の筋肉ダルマが姿を現す。
「ごきげんようですぞぉ!! ロート殿ぉ!!!」
「だから非常識な登場すんじゃねえよおおお!!!」」
自分でも驚いたが、ガスチーニが姿を現す直前には、俺は後ろに飛び退いていた。それでも肩から突っ込んできたガスチーニに体の半分くらいは跳ね飛ばされたが、どうにか向かいの壁にたたきつけられるくらいで済んだ。
勢いそのままに少し通り過ぎてから急停止するガスチーニ。いつものうさんくさい笑顔でくるりとこちらへ向きなおる。
「ほっほっほ、やりますな。今のを受け流すとは、拙僧びっくり仰天ですぞ」
「お前の筋肉ワープ喰らうのも二回目だからな!」
這いつくばったまま叫び返すと、つばに混じって口から血が出た。内臓のいくつかがやられたのだろう。しかし吸血状態なので、じきに治るはず。激痛については我慢する。興奮状態による脳内麻薬のおかげで、耐えようと思えば耐えられる。
メルヴィルの初動をしのいだのか、アミティが俺のそばへやってくる。その手を借りて立ち上がる。
「おう、こらガスチーニ! ここは廃墟じゃねーんだ! 人様の神殿ぶっ壊してタダで済むと思ってんのか!? ああん!?」
「直せばいいのでしょう、直せば」
ガスチーニはまったく悪びれずに答えると、自ら破壊した壁の方を指さした。
そこではすでに再建作業が始まっていた。半透明の蚯蚓のような群体――大量の土精霊があちこちに散らばった建材の残骸を集めて、口から出した粘液質の接着剤で組み立てなおしている。
あれがここにいるということはつまり、そういうことだ。
俺たち四人を囲うように地面がせりあがり、俺の背丈の倍ほどはある土壁が瞬く間に形成される。これも土精霊を使役した精霊魔法だろう。
上からあの精霊使いのエルフの少女と陰キャ魔術師の声が降ってくる。
「チェックメイトだよ、アミティちゃん、ローくん」
「降伏しろ、降伏ぅ!」
見上げると左の土壁の上にニルダが、右の土壁の上にラナが立っていた。
前にはメルヴィル。後ろにはガスチーニ。
絶体絶命。
来るのが早すぎる。いや、このぐらいのタイミングで誰かに遭遇してもおかしくはないとは思っていたが、四人揃うのがあまりにも早い。王城の中庭は小さな町くらいはあるのだ。俺たちの最終目的地が“梟の塔”だと分かっていても、それなりに散らばって待ち受けなければならなかったはず。
……いや、この状況に陥った原因は薄々察しがついた。つまりは、そう、執事長の能力のせいだろう。
「これは勇者関連法第十六条に基づく適法行為です。皆様、落ち着いて避難してください。繰り返します。これは――」
ニルダが土壁の上から外に向かって呼びかけている。周囲の群衆のざわめきはおさまりつつあった。混乱によるまぎれは起こりそうもない。
メルヴィルが魔力を帯びた片手剣を右手の上で器用に回転させ、アミティに余裕の笑みを向けた。
「さて。ここからどうします、お嬢様。もう得意の策は打ち止めですか?」
「そうですわね。……ええ、ここから取れる策は、皆無です」
しっかりと言い聞かせるように言葉を発したアミティ。
だが、その顔は言葉に反して観念した様子はない。それどころか笑みすら浮かべている。強がりだろうと普通のやつが相手なら思うのだが、コイツの場合そうとも言い切れない。
メルヴィルも同意見なのか、アミティの笑みを見て、逆に表情を引き締めた。
圧倒的有利な相手側に、先に仕掛ける理由はない。圧倒的不利なこちら側に、先に仕掛けられる理由はない。
戦力差が生んだ奇妙な沈黙が、辺りを一瞬支配する。
それを破ったのは意外にもガスチーニだった。
「メルヴィル殿、ここは拙僧に任せてもらえますかな? ロート殿と一騎打ちをしてみたい」
「ほう? 省エネ主義の貴殿にしては珍しい。どういう風の吹き回しかな?」
「いえ、考えてみると拙僧、ロート殿とまったく戦っておりませんものでな。執事長殿にお仕置きされないためにも、最後にポイントを稼ぎたいなと」
俺たちの頭ごしに話しながら、司祭服を脱ぎ捨て彫像のようにたくましい上半身を露出するガスチーニ。
筋肉ワープで二回も人を半殺しにしといて『まったく戦ってない』とは何事だと思ったが、あれはこいつにとっては本当にただの移動手段でしかなく、攻撃したつもりはなかったのだろう。
同僚のらしくない発言に、メルヴィルは怪訝そうな顔をしている。
「ほんの僅かとはいえ、まぎれの確率を上げるようなことを提案するとは感心しませんね。まさかわざと負けてあげるおつもりではないでしょう?」
「もちろんですぞ」
「では万一――万に一つもないでしょうが――ガスチーニ殿が負けたとしても、連帯責任で我々にも手を引けなどとは言わないでしょうな?」
「それももちろんですぞ。もうお嬢様たちとの勝敗は決した。これから始まるのはあくまで茶番ですな」
ガスチーニが本当の意図を話しているようには見えない。
メルヴィルもそう思っただろうが、存外あっさりと片手剣を下ろして一歩下がった。
「いいでしょう。その意思、尊重しますよ」
ガスチーニの言う通り、他の三人だけでも勝敗はまず変わりはしないのだ。無理に反対する理由もないということか。
同僚の了承を得たガスチーニは両手の骨をポキポキと鳴らしながら、いつものにこやかな笑顔で近づいてくる。
ふいに俺の耳元でアミティが囁いた。
「ロートくん、受けてくださいまし」
びっくりして振り返る。
アミティはほくそ笑みを浮かべて、何歩か下がった。
なんだ? 策はもうないとかいう言葉は嘘ではなさそうだった。なのに、なぜこんなに楽観的な顔をしている?
首をひねりながら、ガスチーニの方に向き直る。こいつもこいつだ。今更俺と一騎打ちだと? 絶対に負けない必勝法があるとか言ってたのはなんだったんだ?
さっきアミティは執事たちの中で思考法が一番近いのはガスチーニだと言っていた。だからお互いに考えてることは読みやすい、と。
これから戦わされるのは俺だというのに、二人は俺を蚊帳の外にして駆け引きをしているように感じる。俺にはこいつらの考えはさっぱり読めない。
……なんだか無性にムカムカしてきた。なんで俺がこんな思いをせにゃならんのか。
八つ当たりのような気持ちでタキシードの蝶ネクタイを投げ捨て、上着を脱ぐ。
右手の親指の腹を噛み、そこから出した血で赤い長剣を生成して構えを取る。
「いいぜ、ガスチーニ! まずはお前からぶっ倒してやる!」
「よろしい、ロート殿! この大きな胸に飛びこんで来なされ!」
ガスチーニがクソぶっとい両腕を広げる。
道端で灰色熊に突然遭遇したような、凄まじいプレッシャー。刹那の間、体が硬直する。
その隙を見逃すはずもない。ガスチーニは言葉に反して先に仕掛けてきた。
「マッスルパァンチ!!!」
一足で間合いを詰めてきたガスチーニが巨大な拳を振り下ろす。
上半身を反らしてどうにかそれは躱す。
拳が空を切る風圧が俺の髪を揺らした。得物をとらえ損ねたガスチーニの拳が石畳を粉々に粉砕する。
当たればひとたまりもない。だが相手が化け物なのは元より覚悟の上。体勢を立て直される前に、動く。
「俺の勝ちだ! ガスチーニ!」
無駄なのは承知で宣言して、無防備なガスチーニの肩に剣を振り下ろす。
待っていたのは、岩を斬りつけたような手ごたえ。常在型の補助魔法のせいだろう。かろうじて表皮は切り裂けたが、やはり《帰還》の効果は発動しない。“負けた”と思わせられていないのだから当然だ。
後ろに跳んで距離を取る。
攻撃は通らない。能力も通らない。
どうする? 目潰しでもするか? それとも背後に回って首でも締めるか?
およそ効果的でもない戦術がいくつか頭に浮かび、それらをすべて却下する。
その間、ほんの一瞬。
つまり、次の異変が起きたのも俺の攻撃の直後だった。
「お、おおおぉぉ!」
ガスチーニが斬られた肩を片手で押さえて絶叫する。
搦め手を仕掛けてくるタイプだと重々理解はしていた。覚悟もしていた。だがその迫真の演技に思わず思考も体も停止してしまった。
マズいと気を引き締め直して攻撃に備える。
――が、ガスチーニは頭を抱えて膝を突いただけで何もしてこない。
視線誘導だ。この隙に他の奴らが攻撃してくる。これがこいつの必勝法か。
首を巡らす。どこから攻撃されてもいいように身を屈めながら。
背後のメルヴィルは棒立ちだった。先ほど以上に怪訝そうな顔で腕組みをしたままである。
土壁の上のラナとニルダはポカンと口を開けていた。共に微動だにしておらず、完全に傍観姿勢のままだ。
予想が外れ、また思考が止まる。
だからガスチーニが吠えると同時に立ち上がり、俺に向かって突進してきたのに反応するのが一瞬遅れた。
「クソッ!」
今度こそ攻撃かと、身構える。
そんな俺の頭の上をガスチーニは人間離れした跳躍力で軽々と飛び越えた。ついでにアミティも飛び越し、メルヴィルの前で着地し、巨大な右の拳を唖然としている同僚の頭めがけて振り下ろす。
「マッスルパァンチ!」
先ほどの再現のように粉々に砕かれる石畳。
大振りな攻撃だったため、メルヴィルは余裕を持って飛び退いていた。
「血迷ったか、ガスチーニ殿! ――――いや?」
一瞬声を荒げかけたメルヴィルだったが、すぐさまいつもの冷静な顔に戻る。
そんなメルヴィルに向けて、ガスチーニはにやにやと笑いながらまた両腕を広げて構えを取った。
「すまぬな、メルヴィル殿。拙僧は貴殿と戦わねばならぬ」
「……なるほど。ふっふ、これが切り札というわけですか。フリートラントくんの」
メルヴィルが俺を見る。
ガスチーニが首だけ巡らせて俺を見る。
ついでに言えば、アミティも土壁の上の二人も俺を見ていた。
口元に手を当て、笑いがこらえきれない様子でメルヴィルが続ける。
「斬りつけた相手を支配下に置く。つまりは魔術の《服従》が発動する能力でしょう。その強力さから考えるに発動条件は相当厳しいはずだが、前回遭遇した時にガスチーニ殿はまんまとそれを満たされてしまったわけだ」
「そのようですな。いやはや、このガスチーニ、一生の不覚」
視線をかわし、肩を揺らして笑う執事二人。
俺のことを話しているはずなのに、まったくついていけず頭が混乱の極致になる。
こいつらは一体何を言っている?
そんな能力、俺の剣にはない。
「ローくん! 覚悟!」
頭上から届いたのは芝居がかったニルダの声。その瞬間、俺も気づいた。ガスチーニがこっそりと片手でハンドサインを出していることに。
そういうことか。
地面に身を投げ出しながら、上から襲い掛かってくる少女へ向けて剣を振るう。
軽傷で済むように気を付けながら。
「うっ!」
着地をしたニルダは俺の剣がかすった右手を抑えながら、師匠の真似のようにその場にうずくまった。
「大丈夫か?」
駆け寄り、本人にだけ届くように語り掛ける。
ニルダは俺の方に目だけを向けて、王族らしい堂々とした声で囁く。
「ローくん、貴方の謝罪を受け入れます。……指示を」
謝罪――というのは“黒の隧道”で巻いたときの俺の謝罪だろう。あんなひどいことをしたのに許してくれたようだ。そして空気も読んでくれた。
限りない感謝を込めて頷く。
「ラナを抑えてくれ」
「うん!」
ニルダは片目を閉じて笑顔を浮かべ、指揮者のように両手を振った。
土壁の上に立っていたラナの肢体に縄状の土が絡みつく。その土の周囲には幾体もの土精霊の姿がある。
「な、なんスか!? なにが起きてるんスか!?」
拘束から逃れようとわめきながら、まったく事情が飲み込めていない様子でラナがわめく。
メルヴィルが微笑を浮かべて得物を構え、説明する。
「今話したとおりですよ。二人はフリートラントくんの“奥の手”で操られている。と、なれば、我々はまず二人を排除するしかないでしょう」
「い、いや、アイツがそんな強力な能力持ってるわけないじゃないッスか! どう見てもガスチーニさんとニルダ様の猿芝居っスよ!?」
「おや、君にはそう見えますか? しかし仮にそうだったとして、我々がすることに何か変わりがありますか?」
「……えー!」
ようやくラナも現状を理解できたのだろう。
マジか、という目で俺の方を見てくる。しかしお門違いである。
この状況を作り出したのは俺ではなく、俺の横で誇らしげに胸を張っているアミティだ。こいつは四日前、あのアランダシルの街にいた頃から、この場面を思い描いていたのだ。
思い返せば、そもそもガスチーニは“必勝法”とは言ってなかった。そう言ったのは話を聞いたニルダの方だ。ガスチーニは俺たちに負けない方法があると言った。つまり俺たちとの戦いを放棄すればいいと言ったのだ。
ガスチーニとニルダが俺たちの味方をしてくれている。そしてメルヴィルは素知らぬ顔でそれに乗っかってくれている。
ありがたい、本当に。……ラナもまぁ、一人で無茶してこの状況に抗おうとはしないでいてくれるみたいだし。
「では、久しぶりにお手合わせ願えますかな、メルヴィル殿」
いつもと変わらぬ軽い口調のガスチーニ。しかしその大きな背中は、今まで感じたこともないような強烈な“圧”――闘気のようなものを発していた。
「ふんっ!」
両拳を握りしめてガスチーニが気合の声を上げると、平時でさえ見事な筋肉がさらに二回りほど膨張した。さらにガスチーニは短い呪文を唱え、自身の巨体を補助魔法の光で包み込む。
「どうやら本気のようですね、ガスチーニ殿。――いいでしょう、第六次大侵攻の時の決着をつけましょうか」
メルヴィルが“賢者の石橋”で俺に見せた構えを取る。姿勢を低くして開いた左手は前に出し、片手剣を持つ右手は背中に隠す、人を殺すための構えだ。その体をドス黒いオーラが包み込む。
そうか、あいつの前職は黒の国の黒騎士師団大隊長。あれは[暗黒騎士]の固有スキル、《影纏い》だ。
薄く笑みを浮かべて対峙する執事二人。その間にひりつくような空気が漂う。
やはりこいつらは、俺たちを追っている間はまったく本気など出していなかったのだ。それが今、はっきりと分かった。
今にも殺し合いが始まりそうな緊迫感の中、ガスチーニがふいに俺の方を振り返る。かつてないほど真摯な眼差しで。
「ロート殿、ご両親はその生涯に後悔などなかっただろうとおっしゃいましたな。自分もそれに倣い後悔をしない道を往くと。
……拙僧も後悔をしない選択をすることにしましたぞ。ロート殿に倣いましてな」
返答に詰まる。
ガスチーニはそんな俺を見てニィっと口角を上げると、腕をむんずと掴んで引っ張ってきた。そしてそのぶっとい両腕で重量挙げのように俺の体を持ち上げてくる。ちょうど数日前にアミティにされたのと同じ――一人胴上げの体勢だ。
猛烈に嫌な予感を覚える。ガスチーニを制止しようと口を開く。
が、俺が何か言う前にガスチーニはぐっと屈み、それからすぐさま爆発的な勢いで立ち上がった。その勢いを乗せて、俺を上空へと放り投げる。西――“梟の塔”の方角に向かって、周囲の土壁を越えるように。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!」
あまりの勢いに絶叫する。前にアミティに一人胴上げ作戦で投げ上げられた高さは、まぁ足から落ちれば命は助かる程度だった。
今度は優にその五倍は飛んでいる。
「……あ。補助魔法で筋力が上がった分を計算に入れるの、完全に忘れていましたな」
と、小さな点くらいになるまで遠のいたガスチーニが眼下で呟いたのが、なぜかはっきり聞こえた。




