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 私は夕食を食べ終えて、広間で料理の余韻に浸っていた。


 もう料理のせいなのか目の前の美形のせいなのかは分からないが、ドキドキが収まらない。


 すると──。


 ガチャッと広間のドアが開いて、男性が入って来た。


「──帰っていたのか、ネイ」


 男性がそう言うとネイが応えた。


「久しぶり、兄貴。前線に聖女見習いを連れて行く予定だったんだけど、橋が壊れたからしばらく滞在させてもらうよ」


「聖女見習い……? では、貴女が?」


 男性が私にそう言ったので、私は立って挨拶した。


「あ、あの、聖女見習いのカレン・ウィスタリアです。お邪魔しています」


「ああ、レグホーン家へようこそ。私はネイの兄、当主のジョアン・レグホーンです。当家ではくつろいでお過ごし下さい」


「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 私はお辞儀をした。


 すると、ジョアンさんはネイに向かって言った。


「で? お前は今は何をしている? 護衛ということは騎士団に入ったのか?」


「いんや、今はフリーの傭兵。あとボクシングとかで稼いでる」


「はぁ。ネイ、その日暮らしもいいが、私はお前にそろそろ帰って来て欲しい。領地経営は私一人では荷が重い」


「人手が足りないならオレじゃなくてもいいじゃん」


「レグホーン家が領地を治めるためにはお前が必要だ」


「はいはい。お客さんの前で家族の話は無粋だよ」


「……そうか。分かった。また話そう。失礼する」


 そう言うと、ジョアンさんは広間を去って行った。


 私は口を出すべきでないと思って黙ってた。


 すると突然、ネイが口を開いた。


「さて、カレン。明日は町を案内するよ」


「え?」


「まだ出発は出来ない。だからデートしよ」


「デ、デ、デートぉ!?」


 ネイは私の反応を見て笑ってた。





 翌日の午前、ネイは私を玄関に呼び出した。


 私がドアの外で待っていると、ネイは馬に乗って現れた。


「おはよう、カレン。行こうか」


「行こうか、て、馬車は?」


「大丈夫、この馬はとても大きい。二人でも乗せてくれるよ」


「え、ということは密着する感じ……?」


「さ、オレの手を取って」


 そう言ってネイは馬上から私に手を差し出した。


 私は戸惑いながらも手を握ると、ネイはぐいっと私を引き上げた。


 私はあぶみに足をかけて、ネイの前に座った。


 私の背中からネイが腕を回して手綱を握る。


「こ、これって……」


「うん? どうした?」


「後ろから抱きしめられてるみたい……」


「ふふ。抱きしめられたい? じゃあ、抱きしめてあげよっか?」


「ば、ばか、恥ずかしいじゃない」


「ふふ、赤くなって可愛い」


 くーっ、私、手玉に取られちゃってる。


「さあ、行こう」


 そう言ってネイは馬を進めた。




 

 町の中心部までの道中、ネイが私に聞いてきた。


「なぁ、聖女と聖女見習いって何が違うんだ?」


「あーそれね。聖女はこの国に一人しかいないの。

 聖女は30歳くらいになると力を失い、次の聖女に力が引き継がれる。

 次の聖女は私達、聖女見習いの中から啓示を受けた者が選ばれる」


「へー。聖女って聖女見習いよりすごいんだ?」


「すごいなんてもんじゃない。一度に傷ついた兵士100人を回復させることだって出来るのよ」


「そりゃすごい。国の宝だね」


「でも聖女になると命を狙われることも多い。だから、聖女になってしまうと王都の塔でずっと王立騎士団に守られて過ごさなきゃならないの」


「はー、それは窮屈だね。カレンは聖女になりたいのか?」


「私は、孤児だから成り行きで聖女見習いをやってるだけで、聖女になりたいとは思ってない。でも、選ばれてしまったなら拒否権はないわ」


「大変だなそれは。もし、カレンが聖女になったら、オレが一緒に塔にいてやろうか?」


「ばっ! なんであんたが一緒なのよ」


「オレと一緒じゃ嫌?」


「い、嫌とかそういうんじゃ……。まだ私達会って日が浅いし……」


「ふーん。出会ってからの時間なんて関係ないんじゃない?」


「か、考えとく……」


「ふふ。ありがと。さ、町の中心部が見えてきたよ」


 くーっ。こいつのペースに乗せられてばかりだ!





 私達は町の中心部に着くと馬を降りた。


「さ、ここからは歩こう。人が多くて乗馬は危険だから」


 そう言ってネイは片手で馬を引いた。


 そして私にもう片方の手を差し出す。


「はい、カレン」


「はいって……?」


「手、繋がなきゃ」


「え、えー?」


「オレ、カレンの護衛だから」


「い、いや、護衛ならむしろ両手が塞がってると危ないんじゃ──」


「カレン。手、繋ご?」


 ネイは屈託ない笑顔で言った。


 くー。いい笑顔するなぁ。こんな笑顔見せられたら逆らえないじゃない!


 私は恐る恐るネイと手を握った。


「さ、行こう」


 そう言って私達は手を繋いで歩き出す。


 ああ、手が温かい。手を繋いでいるだけですごく安心する。


 手を繋ぐっていいなぁ……。





 私達が通りを歩いていると、ネイは町の人から次々と声をかけられた。


「おや、ネイ坊ちゃんじゃないですか!」


「きゃー! ネイ様!」


「ネイ兄ちゃんじゃん!」


 何だ何だこれは、道行く人がみんなネイに挨拶してくるぞ。


 人々がネイに声をかけると、ネイは丁寧に応えていく。


「ネイ坊ちゃん、旬の野菜を持って行きなよ」


「おー! 美味そうなトウモロコシ。ありがとな、ポールのおっちゃん」


「ネイ様ー、恋の相談にのってー」


「ごめんよベティ、今はデート中なんだ」


「ネイ兄ちゃん、勉強教えてくれよー」


「ニコラ、そういうのはハンスに頼みな」


 いやいや、ネイってばどんだけ町の人から慕われてんの!?


 と、その時──。


「──みんな、大変だ!」


 通りの先から男性が走って来た。


「よお、ハンスじゃないか」


 ネイが手を挙げて言う。


「ネイ! 帰ってたのか。あ、いや、そんなことより大変なんだ!」


「どうした?」


「教会の工事をしてた連中が、木材の下敷きになった!」


「何!? 何人だ?」


「五人。みんな重症だ。すぐに医者を呼びに行ったんだが、生憎、先生は隣町に出張してるらしいんだ」


「分かった。オレが馬で隣町に行って先生を連れて来る」


「隣町に行って戻って来るまでに何時間もかかるぞ」


「しかし、それ以外に手はない」


 と、そこで私が声を上げた。

 

「ネイ! 私を教会に連れて行って!」


「カレン?」


「私ならきっとその人達を治せる!」


「……分かった。馬に乗ってくれ」


 ネイはそう言うと、すぐさま私と一緒に馬に乗って走り出した。





 教会はひどい有様だった。屋根に積んでいたのであろう木材が落ちていた。


 幸い、集まった人達が木材をどかしたようだ。


 下敷きになった人達は助け出されて地面に寝かされていた。


 彼らのそばでは家族が心配そうに付き添っている


「あんた、あんたぁ……」


「ぐすっ、起きてよ、お父ちゃん……」


 私はキッと気合いを入れるとすぐに詠唱を始めた。


「神よ、生命の息吹と祝福をもたらし下さい──」


 私が必死に魔力を込めると、倒れている人達を光が包み始めた。


 一度に五人に力を使うのは私にとってはかなりの負荷だ。でもやるしかない。


「……はぁ、はぁ」


  私は呼吸が浅くなって来た。


「大丈夫か? カレン」


 そう言って、ネイは私の肩を背後から支えてくれる。


 大丈夫。これが私の責務なんだから。私よ、しっかりしろ。


 そう自分に言い聞かせて私は最後の力を振り絞った。


 すると、倒れている人達の生気が戻って来た。


「……こ、これで、もう、大丈夫だと、思いま──」


 私は、意識が朦朧とした。


「カレン! カレン!」


 ネイが私を呼ぶ声が聞こえた──。

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