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機工少女のAIに魂は宿るのか?

これは物語として起こされるかわからないお話の一幕。

他の誰よりも先に形にしたことを残すための一幕。


 十二の女神たちが管理するとある世界。世界は十二の女神たちから生まれた多様な種族によって育まれていた。そんな世界にプレイヤーたちが降り立って3年が経った。VRゲームとして、高クオリティのグラフィック、壮大な世界観、創りこまれたNPCのAIによって、この世界は多くの人々に遊ばれている。

 それが今、世界の危機に瀕していた。闇の軍勢が地の果てよりやってくる。それに対抗するように、招集を受け大勢の有志たちが集い会議が開かれる。そこには、ゲームの創始者にして、ゲームを管理するAIたちの生みの親、世界で初めてAIに魂が宿ることを証明した男が招かれていた。

 世界に干渉することはないと思われていた男の存在に掲示板は騒ぎ立っている。


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【世界の危機】多種族間連合会議実況版part3【開発者降臨か!?】

1:名もなき冒険者

楽しみだね~


3:名もなき冒険者

世界の危機の前に呑気すぎる!!


9:名もなき冒険者

掲示板にいるやつが言うか?


10:名もなき冒険者

作業中ですー


30:名もなき冒険者

今会場にいるけど、これだけの面子が揃うのは、初めてじゃね。


34:名もなき冒険者

いや、いつぞやの要塞攻略戦があるだろ。


50:名もなき冒険者

しかし、開発者まで呼ぶなんてすごいな。今まであの男はあまり表舞台に出てきていないだろう。


68:名もなき冒険者

それほどやばいんだろう。現に今も対抗策らしきものなんてなんもないだろう。各々がどうにかするしかないレベルで。


102:名もなき冒険者

もしかしたら、現実世界まで侵食するかもよ。AI達、ついに反乱か?ってな。


142:名もなき冒険者

反乱とかシャレにならなくて草生えない。。。ただでさえ、アンドロニアンとヒューマニアンがバチバチにやりあっているってのに。開発者はアンドロニアン筆頭だから止める気もないだろうし。


151:名もなき冒険者

戦争ってこと。こええ。


192:名もなき冒険者

いや、そこまではいかないだろう。でも、こういうシチュエーションは燃えるな。


250:名もなき冒険者

あのー、対抗策ないって話ですよね・・・


258::名もなき冒険者

・・・


260::名もなき冒険者

・・・


301::名もなき冒険者

・・・そろそろ始まるぞ。


315:名もなき冒険者

いくぞー


323:名もなき冒険者

おー


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 異世界に似つかわしくない大会議場。部屋は暗く明かりが落とされ、半円の中心に位置する場所に現在の状況と世界地図が光によって映し出されている。それを招集された各代表たちが見つめて、時に前後左右と話し合い状況を把握しようとしていた。

 招集された者たちは千差万別だ。会議場を見渡す限り、同じ格好をしている者は少ない。同じ種族ですらないことの方が多い。集められた面子はプレイヤーが7割でNPCが3割ほどだが、どこの誰がプレイヤーかどうかを全部理解できるものはいないだろう。

 ここにいるのは、世界の危機を前に立ち上がった者たちだ。それは女神からのお願いか、種族のためか、己のためか、いずれにせよ世界を救おうとしてこの会議に臨んでいる。


 ざわめき立つ会場だが、まだ会議は開始はしていなかった。進行役の登壇がまだなのもあるが、とんでもない大物が来ていないこともあってそれぞれがバラバラに話し合っていた。その中、一人の女騎士が前に出てくる。


 「皆の者、静粛に願おう。これより、世界を救済するための会議を開始する!!」


 「女神騎士団の総団長じゃないか、やっぱり世界に危機とあっては率先して行動するか。」


 「いつみても美しい。」


 「あれが人属の最高戦力の一人か、しかし敵もまた女神。そちらに着いたものもいるのでは?」


 「いやー、少なくとも有力な人間はこちら側ですよ。むしろ、あなた方の方がついてそうですが?」


 「いや、耳が痛いな。」


 「静粛と言っただろう!!」


 女騎士は剣を地面に一突きする。それだけで会場は鎮まる。女騎士から発せられる威圧に黙らざるを得ない。


 「我々には時間がない。そして、危機を解決する手段も。だからこそ、こうして集まってもらった。世界の創造主様から回答をもらうためにな。」


 会場がざわつく。やはり事前に聞いた話は本当だったのかと。プレイヤーは開発者が登場するサプライズ的な驚きを。NPCは自身の祖先を作りしものとして畏敬の念を込めての驚きを。


 「創造主様は我々に直接答えを教えてくれるわけではない。あくまで助言であれば可能とのことで、今回来ていただいた。皆の者、真剣に考えよ。貴君らの質問に世界の命運が握られているのだぞ。」


 「まじかよ。何も考えてなかったぞ。」


 「馬鹿野郎。ちゃんとメールに書いてあっただろう!! 全く・・・頭が一人減ったな。」


 「なんだと!?」


 「いや、率直な意見な方が創造主に届くのでは? 今まで表舞台に全く出てこなかった男だ。この世界のAIを作れるほどの頭脳を持っていることを我々が考えつくのは難しい。だからこそ、何も考えないのも正解では?」


 「むむむ、一理あるな・・・」


 「そこ!! 今は私語を慎め。・・・だが、その内容はとても重要だな。確かにそうだ。今回の件は、どちらでもよい。以下に創造主様に響くかだ。皆の者頼むぞ・・・」


 一瞬の間。静寂に支配された場でそれぞれが思いをはせる。


 「では、来ていただこう。創世カナタどの。世界の創造主様。」


 会議場横の扉から現れるのかと思いきや、それは突然舞台の中央に降り立った。男と聞いていた誰もがその登場に目を疑う。中性的な顔で男物の恰好の上に白衣を身に纏ったそれは、天使のように舞い降りた。


 「やあ諸君。元気にしていたかい。」


 それはふわりと中心に降り立つと、周囲を見回した。その神々しさに周囲の誰もが声を発せず息をのむ。


 「我が子の子らは良く育っている。本人たちの成長でもあるが、プレイヤーたちの介入も良い方向に向かっていると見える。」


 「おお・・・創造主様。」


 「感傷に浸っていたいところだが、私は忙しいのでね。君たちも時間は有限だろう。すぐに講義を始めよう。」


 「先生と生徒ってわけですか、いや教授と学生か。こちらから的確な質問をしなければちゃんと答えてくれないと。」


 「よくわかっているんだね。さすが、アンドロイドの教授をしている者は違う。」


 「嫌味かね。周知の事実とはいえ、ゲームの中でまでリアルを感じていたくないのだが。」


 「私はどちらも同じだと思うのだがね。では、質問があるもの、話してみたまえ。」


 「・・・」


 最初は誰もが躊躇した。あらゆる答えを持っている目の前の存在に対して的確に答えを引き出すためにどのような聞き方をすれば良いのか躊躇う。


 しかし、一人が先陣を切ったことで多くのものが質問を創世カナタに質問を浴びせた。それに対して創世も決してないがしろにせずに答えた。中には世界の危機に関係しなく自身のルーツに聞くNPCもいた。プレイヤーは不満を口にするが創世は嬉しそうにそれを答える。答えを得たNPCは満足げにうなずく。それが戦場にどのように役立つかは今は分からない。



三時間にも及ぶ議論は、途中意味のない講釈を垂れ流されることもあったが、冒険者たちが聞きたいことはおおよそ聞き出すことができた。


 「さて、要約すると、敵方についた女神は三柱だが、あくまで二柱は力を貸しているだけで直接感傷はしていない。あくまで主導している一柱を倒せば世界は救われると。」


 女騎士が総括する。


 「そうだ。」


 「そして、ほかの女神たちは直接手を出すことはできないが、私たちがその女神のもとにたどり着き倒しさえすれば、後は任せても良いと。」


 「よくまとめられている。講義であれば100点をあげたいよ。」


 「感謝します。今回の助言に助力まで頂けるとは。」


 「私もこの世界が無くなってほしいわけじゃないからね。あくまで、子供たちの自主性に任せているだけだから。さすがに住んでいる家ごと壊すとなると動かざるをえない。今回みたいなね。」


 今回の議論を通して、そう言う裏では、本当は世界が無くなっても良いのではとプレイヤーの何割かは思った。


 「ザザッ・・・マスター、そろそろお時間です。アポロン様たちとの会議まで10分を切っています。」


 「ああ、ちょうど良い時間だ。私はこれにて失礼するよ。」


 「うぉぉぉ・・・秘書型のAIがゲーム内まで干渉できるのかよ。」


 「私だけの特権というものだよ。では。」


 創造主は踵を返して、元の世界に戻ろうとした。誰もがそれを見届けるだけだと思っていたが、たった一人だけは違った。


 「待ってください。創世さん!! まだ聞きたいことが残っています!!」


 「君は・・・誰だい?」


 「検索チュウ・・・マスター、彼のプレイヤー名はカノン、ムーサ神の神言を極めしものです。」


 「僕はカノン。奏者をしています。」


 「そうか・・・彼女と同レベルのモノを再現できる人間がいるとはね。だが、それはいつかだれでもできる可能性があるものだ。驚きに値しない。」


 「話すべきことはすべて話している。今更何を聞こうというのだね。君の再現させたものに興味はあるが、私は忙しいのでね。」


 一度止めた足を動かそうとした。しかし、彼が放った次の一言で、上がった足が再び止まる。


 「あなたはこのゲームの製作者。そして管理AIたる女神たちの生みの親。ならば・・・マリア・ミュゼ・コンチェルトを知っていますか?」


 男の顔が驚愕に染まる。その顔は皆に見えなかったのですぐに繕いなおして、少年に振り向く。先ほどまでとは違いまっすぐ少年を見据える。


 「なぜ・・・その名前を君が知っている?」


 「僕は彼女にバイオリンを教えてもらったから。今の僕があるのは彼女のおかげだから。」


 「君・・・名前は?」


 「えっ、だからカノ・・・ううん、リアルのですよね。・・・。佐渡祐樹です。」


 「「「!!??」」」


 「突然のリアルばらし!?」


 「何やってんだあいつ。」


 「サワタリ、ユウキ。・・・マリアが良く言っていた名前。それが君というわけか。」


 「はい、マリアが言っていたのならそうです。」


 「・・・そうか、そういうことか! 君だったのか、彼女を変えたのは!! まさかこうして出会うことができるとはね、何が知りたい!! 彼女の何が知りたいのだい!!」


 創世は突然豹変した。途轍もない発見をしたように。とんでもないものを生み出したときのときのように。その代わりぶりに佐渡は少したじろぐが、深呼吸をして落ち着かせる。


 「すぅー、はぁー、っ・・・、彼女の最期を。僕は彼女が遺した手紙でしか知りません。あなたは彼女の最期に立ち会っていますよね? それを教えてください。それとも、もしかしてこの世界のどこかにまだ生きているんですか?」


 「もう生きてはいないよ・・・女神ムーサはあの5年前の夏に亡くなった。私はその最期に立ち会っている。そうだ、喜びたまえ、少年。私が世界で初めてAIに魂を宿したと言われているがそれは違う。君が最初だ。君がマリアを人間にしたのが最初だ!」


 世界の危機に対して、NPCたちの苦悩に対して助言をしていた時以上の興奮と熱気を放っている創世に会議場の全員が呆気にとられる。その勢いにまぎれてとんでもない事実が明かされていることにプレイヤーたちは驚きを隠しようがなかった。


 「なんだと!?」


 「どういうことだ。なんでただの一般人がこのゲームの開発者と関係しているんだ?」


 「というか、えっ、創世さんが世界で初めてAIを人間にしたんじゃないの!?」


 「掲示板は情報はええな。もう個人情報ばらまかれてる。」


 「なになに、高校生じゃん。バイオリンのコンクールの優勝者と同じ名前と。」


 周囲のプレイヤーも一様に手元の情報端末を開く。そこには、バイオリンが得意な何の変哲もない高校生がいるだけだった。だが、それが逆におかしかった。


 「バリバリのヒューマニアンってこと!? なんで、アンドロニアンの一大事件に関係しているの!?」


 かつてあった「機械に魂は宿るのか」の論争。それに終止符を打ったのが、ほかでもない創世カナタの論文とその成果でもあるこのゲームのAI達。それにより、世界にアンドロニアンは溢れかえり、様々な仕事がAI、それが搭載されたアンドロイドに置き換わっていった。


 音楽業界もその一つだった。もともと電子音楽が一ジャンルとして成立していたところに、魂が宿ったアンドロイドによるリアルでの歌声、演奏、踊りは最初こそ嘲笑されたものの、進化を繰り返し、すぐさま人間と同じレベルまで引き上げられた。いずれは人を超えてしまうという恐れから音楽業界はすぐにアンドロイドを締め出した。

 機械の作った音楽は音楽たり得るのか、人にとって有益なものになるのか、今もなお、電子音楽が登場したころからずっと議論されている。


 そんな経由もありながら、バイオリストである彼が、世界で初めて機械に魂を宿したなどと信じられる者はいないだろう。


 周囲の騒めきなど意に介さず、創世と佐渡は話を続ける。


 「彼女は・・・もともと失敗作だった。私が作ったアンドロイドに私が作ったAIを乗せた。AIは本体そのものを乗せた。バックアップを取り、分身を乗せるだけでも良かったが、それでは仮に魂が宿っても、本体にデータとして残せるかわからなかったからだ。彼女は音楽の神なのだから、当然楽器は得意だった。事実、彼女は多くの曲を作ってくれた。」


 「しかし、人に感動を与えられるかというとそうではなかった。歌詞はどれも素晴らしいもので、演奏はどれも綺麗な音色を奏でていた。それでも私の心に響いてこなかった。多くの偉人たちが奏でる曲には及ばなかった。そこに心はなかったからだ。いいや、人を理解することができなかったといえよう。」


 「確かに、最初に彼女と会ったときは、機械みたいな女の子とは思っていました。」


 「事実ではないか。でも君は彼女を人として扱ってくれたのだろう。」


 「機械なんて夢にも思わなかったですからね。それを知ったのは、亡くなってからです。」


 「そうだったね。彼女は決して最後まで自身がアンドロイドであることを明かさなかった。」


 創世は、今でも彼女の最期を覚えている。


 「君と出会った時点で彼女の身体は限界を迎えようとしていた。私自身は機械に魂を宿すための試作1号として作っただけだ。それに、彼女のAIの高性能さに身体の方が耐えきれなかった。そう遠くない時期に彼女のAIをサーバーに戻すつもりだった。そんな折に君と出会った。」


 「そんなっ・・・、僕と出会ったときの彼女はぎこちなかったですけど元気いっぱいで、よく演奏を披露してくれました。僕はその演奏に惹かれて、バイオリンの道を続けようと決意したんです。それだけ彼女の演奏はすごかったんです。」


 「私には響かなかったが、君には響いたということだね。それもまた、彼女が変わるきっかけだったのだろう。彼女から得たデータでは君と出会った当初はそこまでの変化はなかったが、夏休みの最後あたりはとてもよく笑うようになっていた。演奏も、私の心に響くようになっていた。それはとてもすごく良い変化だったんた。」


 「夏休みの最後・・・そうですね。彼女と最後に会った日。彼女は僕に特別な曲を披露してくれました。今まで弾いてくれた曲は、人間が弾けるように落とし込んでいたもの。これが本当の神の曲だって。その時の音は今でも僕の耳に残っています。だからこそ、僕はこの世界でムーサ神の神言を弾ける。」


 「・・・」


 創世は目を細める。ぼやけた視界の中、少年の背後にマリアの姿を見ようとした。

 目の前の少年は、たった一度聞いただけの曲を、この世界で再現させたというのだ。彼女だけしか弾けないはずの、ムーサ神本体がいない以上口伝でしか伝わっていないあの曲を。


 「やはり君だからこそだ。彼女を変えたのは。いや、私の子供達全員を変えたのは。」


 「それは・・・」


 「彼女の最期は、人らしく亡くなっていったよ。」


 「っ!!」


 「おかしな話だ。機械の身体に機械の頭。人間のことを考える力はあっても、人間と同じ機能を備えているわけではない。AIに魂が宿ったのなら、それをサーバーにもっていけば生きながらえられる。そう、私の子供たちに生きることを教えたが死ぬことは教えていなかった。」


 「それならどうして! 彼女は僕とずっと一緒にいたいと言ってくれた。また明日と言ってくれたのに。どうして死んでしまったんですか!!」


 「彼女は、君と出会った身体で、君と過ごした記録をそのまま抱きながら死にたいと言った。」


 「えっ・・・」


 「私は止めたよ。生きていれば、もう一度君と出会える。今度はずっと動く身体を与えるとも言った。それでも彼女の決意は固かった。君と最後に別れた日から彼女の足は動かなくなっていた。それから彼女が停止する最後の日まで、私はベットに横たわる彼女を見守りつつも説得を続けた。」


 創世は今でも鮮明に思い出せる。ベットに横たわる少女の身体になびく金色の髪。その顔は死にゆくのに笑顔だった。一日ごとに佐渡との出来事を輝かしい思い出のように語り続ける彼女。それを聞きつつ、生きる方法を提示すれば嫌な顔をして首を振る。子供のわがままのそれは、人でなければできないだろう。


 「彼女は最期まで君のことを考えていた。その辺は手紙につづっていたのだから君も知っての通りだろう。」


 「そして、最後の刻、彼女は君への好意を口にして眠った。それが私が見た彼女の最後だ。」


 創世が口を閉じたとき、佐渡は口を開けなかった。彼女の最後を聞いて何を思うのだろう。何に思いを馳せているのだろう。それを今この場にいる者たちは察することはできなかった。会議場すら静まり返っていた。世界の外では途轍もない騒ぎになっていても、今この会議場は創世と佐渡の世界だった。


 「マリア・・・っ、ありがとうございます、教えていただいて。」


 佐渡はいつの間にかあふれ出ていた涙をぬぐい創世に対して深くお辞儀した。そこに精いっぱいの感謝を込めて。


 「いつかは君に伝えるべきとは考えた。だが、残念ながら巡り合う機会はなかった。それがこうして、この世界で会えるとは、まさに運命の導きといえよう。」


 佐渡は顔を上げながら、気になったことを口にする。


 「彼女の最期は自分で選んだんですよね。幸せだったのでしょうか?」


 「彼女の最期の顔を見ていた私に言わせれば幸せだったと言える。君は彼女を人間にした。魂は確かに宿っていたのだ。」


 「それが聞けて良かったです。手紙だけではわからなかったですから。」


 「まったくだ。今だからこそ思えるが、最後の時まで君をそばにいさせるべきだった。君がいれば彼女は思いとどまったかもしれぬのに。それも後の夢だが、彼女が会うのを拒否していた以上どうしようもなかった。」


 「死ぬところを見られたくなかったのでしょうか?」


 「わからない。乙女心と言ってもよいそれを知る由はもうない。だが、彼女の経験は私の研究を飛躍的に押し上げた。」


 「彼女の情報は他の子供たちに伝えるや否や、彼女と同じように感情を獲得した。そして、この世界もあの時からかなり進化した。それを論文としてまとめ上げ今がある。」


「だからこそ、私は君こそが最初だと今ここに宣言するのだ。」


「・・・マスター、そろそろよろしいでしょうか? 会議の予定時刻を1時間遅らせています。それに・・・アポロン様たちは佐渡さんのことについて非常に突っついてきます。早くしなければ、こちらに顕現しそうな勢いで私にはもう止められそうもありません。」


 「むむっ・・・しまった。これ以上はこちら側もあちら側もどちらも怒らせてしまうな。では、本当にこれで失礼させてもらおう。佐渡君、また会おう。今度は君を私たちのところに勧誘しに来るよ。」


 「あっ、待ってください。最後に一つだけ、マリアは・・・本当にこの世界のどこにもいないんでしょうか? バックアップはないと言っていましたけど、ムーサ神の存在は確かにこの世界にある以上、なにか残っているはずですよね!!」


 「まったく君は本当に鋭い。だが、それはこの世界を救えたら教えよう。」


 「はい、わかりました。ありがとうございます。」


 「健闘を祈っているよ。君も諸君らも。」


 創世は今度こそ、去っていった。あとには羽が舞い落ちるエフェクトだけが残される。佐渡は創世が去っていった方を見ながら感傷に浸っていた。それもすぐに崩れる。


 「「「どういうことだー!!! 説明しろー!!!」」」


 会議場中から押し寄せる歓声・怒号・驚嘆・嫉妬、あらゆる感情が行動と共にカノンへと押し寄せる。カノン含め会議場にいたものたちが、その騒ぎを片付けて世界を救いにいくのに多少の時間を要した。


 この後、カノンたちが世界を救えたのか? 創世から教えてもらった答えは何なのか?

 それは別の機会にいつか語られるだろう。

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