6.クランはクランクラン
朝、ノブアロのメンバー三人がやって来た。
「旦那、大変です。ここに冒険者A級、B級を率いるクラン・ジェノサイ総勢70名がやってきます。
彼らは、この街最強の軍団なんです。
この前、オークキング率いるオーク村100匹を一人の損傷もなく倒してのけました。
早く逃げた方がいいです。
彼らの通った後にはぺんぺん草も生えねー程、女子供だろうが関係なく無茶苦茶にしちまうんです。
ブラックの兄貴含めて相当強いことは知っていますが、10数人程度じゃ、あの軍団には太刀打ち出来ねーです」
何か勘違いしているようだ。そう言えばこいつら俺達しか知らないんだった。
それにしても、心配してくれるいい奴なんだな。
金づるだと思ってかも知れんが、マリオンも世話してくれたし有難い事だ。
「ありがとう、まあ、ここに愛着あるし、死んじゃうとマリオン帰ってこれないしな、適当に地下に潜ってやり過ごすよ、いつもありがとう。」
気持ちが嬉しかったので、金貨を10枚ずつ渡して、しばらくここには近寄るなと帰した。
・・・・クラン・ジェノサイ・・・・
クランの事務所にて、長のジェノサイが話す。
「今回の仕事は、リッチの討伐になる。
ここ百年の分析から、リッチと部下が10匹から20匹程度と思われる。
偶に森でリッチやスケルトンを見かける事はあるらしいが、襲って来る事はないので気にかけていなかった。
目撃例は殆どないが、隠れるように住んでいるようだ。
リッチは、知っての通り軍団を作られると数の暴力で厄介だが、スケルトン、ゾンビ20匹程度では脅威にもならない。
問題は、枯れ木の森にある。侵入すると方向感覚が麻痺し、入口に戻ってしまう。
そこで、上空から鷹匠に位置を探らせながら進む計画だ。
質問はあるか。」
「クラン長、枯れ木の森は、火に燃えず、伐採しても直ぐ元に戻ると聞いてます。今回の目的は、金脈までの道を確保する事じゃないんですか」
「その通りだが、学者によれば、枯れ木の森を管理しているのがそのリッチらしいのだ。リッチが居なくなれば、自ずと森は開けると思われるので、我らはリッチ退治をする事になったのだ」
「だいたい、そんな弱い奴だったら俺ら70人も要らないんじゃないですかね」
「今回は、領主の依頼だ。金鉱の件では、国、領主、商業ギルドが動いている。金鉱の恩恵は計り知れない。ここは、過剰戦力だろうと領主は、最初に唾を付けて利権を取りたいそうだ。
だから、早ければ早い程報奨金の額は大幅に増える事になっている」
こうして、クラン・ジェノサイは、森へ入っていった。
枯れ木の森に到着した一行は、十分な休憩をとり、3班に分かれた。
三班に分かれたと言っても、森の中で見える距離(約30m)を保って移動を始めた。
進行方向に向かって逆三角形の形で進む。
これは、弓矢などの乱れ撃ちを防ぐためである。
空には、鷹が方向を示しながら旋回している。
5kmくらいは中に入った所で、一旦休憩に入った。
鷹も疲れたのか、鷹匠の所に降りて来た。
鷹匠は、3人いて交代で飛ばしている。
「クラン長、本当に方向が分かりませんね。鷹がいなかったらお手上げでした」
「ああ、ただ警戒しながら進むと中々先に進めんな」
「ああー」
鷹匠の3人全員が叫んだ。
良く見ると3羽の鷹は、泡を吹いて息絶えていた。
ジェノサイが駆け寄る
「どうした、何があった」
「肉を啄んでいたんだが、突然泡を吹いて絶命した。
肉は、飼い主以外食べない様に訓練している。この森には、いったい何があるのか」
ジェノサイは、鷹匠の持っている生肉を見てみたが、特に変わった様子は見当たらない。
しかし困った。ここまで来て後戻りとは、しかし、戦闘においてここは敵地だ。
相手が弱くても気を抜くと全滅もあり得る。
しかし、一瞬物凄い臭いがするが何だろうか、人間が嗅いではいけないような。いや、今はそんな事を考えていてはいかん。脱出に集中しなければ。
「よーし、皆撤退する。荷物を纏めよ」
指揮官として賢明な判断だ。この判断力で今まで勝ち進んできたのだろう。
「ええー、また始まったよ。クラン長の臆病風が」
「ここまで来たら、相手は弱い死霊使いだろ。一気に片づければいいのに、またここ来んのかよ」
と、文句を言う隊員もいるが、今までの実績からクラン長を信頼するものは多い。
「鷹を分析の為、持って帰りたいが疫病の可能性もある。二匹はここで埋めてくれ。一匹は、布で厳重に覆い、空気が漏れないようにして枯れ木の森を出るまで持ち帰ろう。
後で専門家に来て貰って分析して貰おう」
二匹を埋め、来た道を戻った。
ここまで来た印しとして白い布を50m毎に木に巻き付けてある。
他の者に悪さをされないよう結び方を特殊にしてある。
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暫く道を戻ったが何かおかしい、今最後の100本目の布を回収しが、出口が見えない。
皆に見える範囲で、周りを探索させた。
「隊長!来てください。」
そこには、先ほど埋めた2匹の鷹の墓があった。
この森は、おかしい。先ほど隊員を置き見える範囲で20mずつ一直線に200m程進み戻ろうとした。
しかし、行くときは直線なのに帰る時は、右に湾曲しているように見える。
最初の起点にいた隊員は、真っ直ぐ帰って来たと言っている。
もう一つは、足跡だ。全く足跡が無くなっている。
再度同じことを試みたが、今度は、左に湾曲している。
全く法則性が無い。
我々は、体力温存のため、ここで休むことにした。
考えが纏まらないのにやみくもに動くのは、大変危険だ。
偶に脳が“クラッ”とする臭いがするが、考えをわざと遮断するための攻撃かも知れない。
夜になり、火を起こそうと思ったが、薪になるような木が無い。
この枯れ木を切って火をつけても全く燃えない。
仕方がないので、持ってきた水を飲みながら半生の干し肉をほうばった。
食料は、5日分用意してある。この間に抜け出さなければならない。
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数分してから、皆が苦しみだした。
「おげーー、おごーー」
腹に凄い激痛が走り、嘔吐を繰り返した。
下痢もひどく、動けない。
このままでは、全滅する。
私だけ、水を飲んでみた。何も起こらない。
皆に水を飲むことを許可した。
これだけでも数日は持つだろう。ただ何日かだ。
全く解決策は見いだせず、その日は皆ごろ寝するしかなかった。
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3日は過ぎたろうか、少しは動けるが、どう動いていいのか全く分からない。
最初は、泣き出したり、奇声を上げる者もいたが今では誰も話もしない。
あと数日で皆死ぬだろう。
どうしてこうなった。・・・・・・・・・・・どうして
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「おい、おーい、起きろ」
と私の頬を叩く黒い骸骨がいた。
霞む目を開き骸骨を見た。
「どうだ、少しは懲りたか。
二度と来ないと誓うなら帰してやるぞ。
後、他も来るなと言っておけ。いいな」
ボーとしていると。
「こら、理解したのか。二度と来ないと誓うなら帰してやると言ったのだぞ
後、他も来るなと言っておけ。返事は」
私は、黒い骸骨にコクコクと頷いた。
ふと、後ろが明るくなったので、振り返ると、・・・・
そこは、枯れ木の森を出た所だった。
黒い骸骨が一言喋った。
「全く、勝手に入って来るから、こんな事になるんだよ。看板を立てて置くから皆にも話しておいてね。」
そこには、
“ここは、リッチーの森。関係者以外立ち入り禁止”
と立札が立っていた。
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森の途中でノブアロと言う冒険者に会い、九死に一生を得た。
70人は、何とか生きたまま街に辿り着いた。
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全く体力のない奴らだ。罠を用意している内に、何もせず終わってしまった。
今日の日記は三行で終わりだ。