5.地下壕それは
子供たちが、外で遊んでいるのを見ながら紅茶を飲んでいる。
ブラックが、
「報告がございます。北の山で、金鉱脈、鉄鉱石等の鉱物が発見されてしまいました。
今朝、山師達が持ち帰った鉱石を街の領主に報告したようです。
街はその話題で持ちきりです」
何だ、北の山に行くには、この枯れ木の森を通過するのが一番早い、彼らは、枯れ木の森の端を尾根伝いに北へ行ったのだろう。
困った。
この場合、二つの問題が発生する。
一つ目は、山の外側から金脈を見つけたのだろうが、実は既に内側から金脈は全て掘ってしまっている。
スケルトンの地下壕を掘っているうち、金脈と鉄鉱石の脈に三千年前にぶつかってしまい全て掘り出してしまったので、外側から掘ると地下壕が見つかってしまう。
二つ目は、掘り出した金鉱石は、どんなに含まれても10㎏に10gの含有量しかない。
つまり、山の尾根などアップダウンの激しい所を製錬もしないで持ち出すのは、重すぎて不可能なのだ。
実際には、20mも掘ると地下壕になってしまうのだが、彼らは知らない。
すると、真っ直ぐ最短で下せる枯れ木の森が最も手間がかからずお金もかからない。
当然、枯れ木の森攻略を始めるだろう。
彼らに、”もうありませんから掘っても無駄ですよ”と言ってあげたいが、スケルトンの地下壕が在る事がばれてしまうのは、防衛上危険で、数万年築き上げて来た地下壕が無くなるのは、大変困る。
色と欲の塊の人間にとって宝の山を目の前に指をくわえて見てるだけ、などあり得るはずがない。
では、地下壕を埋めてしまえば?と思うだろう。ちょっと出来ない。
私の家から地下10m~100m下には、大きな地下壕がある。
東西南北四方八方に掘り巡らしている。
距離は、良く解っていないが、1坑道だけで、数十キロは、あるはずだ。
これは、数万年前からスケルトン達が増えるたび、自分の住処を確保するためにスケルトン自身が掘って来たのだ。
スケルトンは、骨なので、湿気が多いと溶けてしまうし、乾燥すると脆くなる。
そこで、適度な湿度と温度の高低差が少ない事が何万年も生きる為には重要になる。
当然劣化はするので、骨パウダーや治療魔法でのケアが必要だが。
人里に近い南の細い地下壕群は、地下水の通りも多く、湿気が多いので、今は、街へ行くための通路と敵を挟み撃ちするための通路としか使っていない。
東西、及び北の地下壕には、多くの居住地兼、娯楽施設がある。
だいたい地下壕が大きくなったのは、元工夫たちが増えた、3000年前だろうか、元山師が金脈と鉄鉱石、ミスリルを見つけた時だろう。
(ミスリルを人間は、発見できなかったようだ)
スケルトン達は、ゴールドラッシュに沸いた。
ゴールド達は、金の泥みたいな風呂に今でも入っている。
ブラックは、年の初めには、金粉入りの酒を皆に振舞っている。
元幻の名匠が作った金のネックレスなどは、芸術品として外国にも輸出され、お金は、結構持っている。
シルバーがプロデュースする刀剣類は、切れすぎる為、今はお蔵入りになっている。
人間の耐久力だと持ってる者の指が刃に掠っただけでぽろぽろ落ちるので、巷で妖刀などと呼ばれている危険な刃物なのだ。
北には、温泉街もある。
皆は、仕事が終わると温泉街に行って汗を流す。
汗出ないけど。
温泉には、骨骨パウダーが混ざっており、温泉のミネラルと共に肌ならぬ骨に吸収され、骨太になる。
そこに、イエローチームの治癒師のマッサージが癒しと強化を加わえ、皆、恍惚(硬骨?)の表情を浮かべるのだ。
そう、イエローチームは、この地下壕を管理するチームで、裏の実力者と呼ばれ、誰も逆らえない。イエローの行動力は半端ではなく、地盤が緩くても地下壕を掘らせる。落盤で生き埋めになろうがお構いなしだ。
まあ、後で掘り返してイエローたちがケアすれば元通りになるのだが、お尻ばっかり掘る奴も混じっているので要注意だ。
この地下壕には、舞台、酒場、ヨガ、球技場など色々な娯楽施設がある。
習い事では、絵画教室、舞踊、演劇、剣舞、書道、娯楽版(ゲーム的なもの)など数万年前から至高の存在と呼ばれた者たちが教えてくれる。
学問では、地水学、天文学、物理学、医学、農学、錬金術、化学(主に毒ブルーが教えている)、数学、国語、歴史、政治などその分野のスペシャリスト達が研鑽し、教壇に立っている。
そりゃあ数万年もあればいろんな奴がスケルトンになるから歴史を感じさせるどころかどの時代だかミックスされて解からなくなる。
中には、裏で賭博をやっている奴がいる。ブルーが取り締まっているのだが、潰しても潰しても後を絶たない。
お金とか賭けるのかって?
スケルトンにお金など重要ではない。そこで、配給される骨骨パウダーを賭けるのだ。偶に酒を賭ける奴もいるが、殆どはパウダーだ。
ゴールドがぼやいていた。「万年弱小兵は、だいたいギャンブル好きが多い」と。
骨骨パウダーは、毎日刷り込むことが重要で、一度にたくさん塗っても効果は無い。
どこにでも止められない奴はいるものだ。
双子を連れて良く来るのが、マリオンも大好きだったお風呂だ。25mくらいあるお風呂は、子供たちにとって温水プールと同じだ。
お風呂は男女別になっているが、子供たちは、女性に連れていかれる。
男女共、子供は、可愛がってくれるのだが、女性の圧力にだいたい負ける。
「マスター、私が預かるからゆっくりお風呂に入って下さい」と言って連れ去られる。
だいたい、普段骨だけで真っ裸なのになぜ男女別なのか疑問に思うが、こういう所を見ると昔を思い出すのか、女の子同士の方が長風呂だし落ち着くのだろう。
風呂から出ると演劇鑑賞だ。喜劇、恋愛ものなど沢山公演があるのだが、子供たちには勇者もの一択だ。
モンスターが出てくるし、アクションものでないとすぐ寝てしまう。
ここ地下壕は、数千年から数万年の時をかけ、この世界の人間が到達する事は不可能な叡智と文化を持った大都市なのである。
それでも、普段は皆スケルトンとして私の配下で警備や色々な仕事をしている。
この築き上げた都市を埋めるには惜しいし、この数万年築き上げてきたのは文化だけではない。
何処から攻められても決して落とすことは出来ない難攻不落どころか絶対防御の都市国家なのである。
そう、この地下壕を持ったスケルトン王国の王こそ私、リッチーなのだ。
「取り敢えず保留で、何か行動があったら対応しようか。
殺すと余計来る奴増えるから、対応方法をシルバーに考えさせて」
丸投げ大好きリッチーだった。
今日の日記はここまでにして子供たちと一緒に寝よう。