4.グランパ
悠久を生きる我々にとって、年月とは余り意味をなさないが、子供がいると中々そうとも言い切れなくなる。
子供の成長は早い。
あれから3年が経った。
マリオンも18才となり、帰省してきた。
「リッチー今日は、家族を連れて戻って来たよ。びっくりしないでね」
と言って、奥さんと双子の子(2歳)を連れて来た。
奥さんは、ノブアロの元メンバーで、ユームンと言う。
ノブアロは、あの後マリオンをメンバーに加え、5人で活動していたが、ユームンがお腹が大きくなったので、今は、4人で活動している。
3年も過ぎるとさすがにD級冒険者になっていた。
マリオンは、ことある毎に一人でリッチーの根城に帰ってきていた。
いつも“グリーン母さんの手料理が恋しくて”と言って帰ってくる。
もうグリーンは大はしゃぎだ。
「あらあら、私まだ若いのにお婆ちゃんになっちゃった。」
とニコニコ顔だ。
お前何千歳だよ。
グリーンとユームンは、グリーンの手料理を教わるため、調理場に行ってしまった。
あの娘全くスケルトンを怖がらないな。
「リッチー、お願いがあるんだけど。
実は、子供が生まれたら何か凄く実の母親の家に行って見たくなったんだ。
今は、侯爵家は無いみたいなんだけど、母親の消息も分からないし取り敢えず見に行きたいのと、ユームンの実家にも挨拶してこようかなと思ってね。
まあ、出来ちゃった婚だったから、新婚旅行も兼ねて行ってこようと思ったんだ。
それでさ、子供預かってくれない。」
「グリーンが知っているなら構わんが、身分は、絶対ばらすなよ。
マリオンと言う名前は、当時の王子時代の名前そのままだ。
何かあった時を考え、子供を置いていくのは賢明な判断だな。
覚えている奴もいるかも知れん。」
二人は、子供たちを名残惜しそうに見ながら帰っていった。
「ブラック、今回は危険だ。5人程腕の立つ奴を裏で付けてやれ」
なぜ危険かと言うとちょっと長くなるが説明しておこう。
当然、ここ数年の王国の大まかな動きは調べていた。
王は、あの後持ち直したが、ほぼ寝たきり状態になってしまった。
実権は、宰相が執り行うようになり、第一王子派が有利な展開になっていった。
昨年、王が崩御し、第一王子が王となった。当然、第二王子と前王の王妃派は、猛反発したが、国の大臣たちを多数抱き込んでいる宰相派には、あと一歩及ばなかった。
一旦、第一王子が王となったが、国の領地の半分は、公爵派が抑えているのでいつ内乱が起こってもおかしくない。
今も実家の公爵家を中心に転覆の機会を狙っている。
戦のための準備を両陣営が行っているので、徴兵や増税を課し、国民を苦しめている。
今、国は荒れに荒れた状態なのだ。
こんな時に、第三王子が現れたら、マリオンは邪魔なだけの存在なので即殺されるだろう。既に実家の侯爵家について調べたが、母親は、追手に捕まる寸前だったのだろうか、自分の短刀で首を切り裂いたらしい。
マリオンの祖父母は、娘の亡骸が街道で発見された翌日、自ら命を絶った。
遺書には、マリオンが生きている事を信じている。自分たちが足枷には絶対にならないと書かれていたそうだ。
もう一つ問題がある。当然ブラックは、ユームンとマリオンが付き合っている時代から二人の事は知っている。
ユームンもあまり人には知られたくない過去がある。
ユームンは、子爵家の娘が生んだ貴族の子なのだが、元王妃の実家、つまり公爵家当主が父親なのだ。
年は離れているが、元王妃とは、異母姉妹という事になる。
公爵家当主は、ユームンの母親を側室に望んだが、夫人が難色を示した。娘が王妃なのに淫らな事をして足を引っ張るなという事である。
仕方なく、公爵領の子爵の家にそのまま母親は住んでいた。
ユームンは、出生も明かせないことから、貴族の扱いもされない状況になってしまった。10才から、王都にある冒険者学園に通い、冒険者となった。
ここまで調べたが、マリオンには一切話していない。
彼に話してもどうにかなる問題でもないし、知らずに生きた方が当人の為だろう。
もし、知りたくなれば自分なりに調べ、結論を出した方がいいとリッチーは思った。
・・・・・・
だいたい、冒険者になって今3年という事は、2歳に10月10日を足すと、マリオンの奴、冒険者になって1,2か月くらいで子作りしてた計算になるぞ。
「グリーン、お前あいつに性教育したのか」
「自分には現物が無いので、見せることは出来ませんでしたので、雄しべと雌しべの話はしましたが」
現物を思春期のエロ猿に見せたら大変な事になるぞ。
ここにいる間は、骨しか見たことないんだから、雄しべと雌しべで解ったら、リンゴが落ちるだけで引力発見する天才物理学者になれるわ。
これは、食われたと見たな。ユームン初物食い恐るべし。よっぽどマリオンを気に入ったのだろうし、スケルトンを見ても物怖じしないあの娘は、以外に肝が据わってるのかも。
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グリーンは、大はしゃぎだ。
2人を風呂に入れたり、ご飯食べさせたりと大忙しだ。
骨にかっぽう着は、裸エプロンの進化版のように思ったが、全くエロさが無いので誰も得をしない。
2人は、男の子と女の子の二卵性双生児だ。
付いてるか付いてないかでしか区別できん。
まあ、また煩い家族が増えてしまった。
私の事をリーチお爺ちゃんと呼ぶ。今直させているが、2才児なのでおいおい直るだろう。
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翌朝、二人は外に遊びに行っている。
マリオンとは違って、男の子は、ゴールドが大好きらしく、ずっと背中におんぶされている。そのまま、ゴールドは、腕立て伏せをしているが、楽しそうだ。
女の子は、ブルーが大好きだ。ブルーが羽織っているマントの裾をずっと持ってくっ付いている。ブルーが毒の作り方を教えようとしていたが、止めなかった。
この子、涎垂らしながら聞いてるし、何か目が据わってるよ。
二人ともシルバーには、ぺこりと挨拶している。何か尊敬のまなざしで見ている。
ブラックには、“お婆ちゃんの彼氏?” “お婆ちゃんのこと好き?”と何度も聞いている。絶対グリーンに言わされてるな。
マリオンたちが帰って来るのに、1,2カ月は掛かるだろう。
地下壕も面白いので連れて行ってやろう。
今日の日記は、ここまでだ。