1.プロローグ
ここは、地球の中世ヨーロッパと似た風情がある異世界だ。
ちょっと違うのは、服の露出度がやたら高い。
マントを纏う者が多いが、男も女もマントを脱ぐと女性は、超ミニ、おへそ丸出しでも誰も何とも思わない。
一体この世界に誰がどんな指導をしたのか些か聞いてみたいものだ。
オウトン王国のハーズレの町から北に15kmの距離の大森林がある。その中を20km程進んだ所に半径20kmが枯れ木になった場所がある。
この枯れ木の森の周りは、北東から北西までを山が覆っている。
言い換えると、人里から見れば、枯れ木の森の後ろ側を扇形に山が覆っている。
枯れ木の森中心には、生きた人は誰も近寄らない建物がある。
30m四方位の石で積み上げられた3階建ての建物だ。
建物の周りには、半径100mに渡り、草木は生えず、真っ黒の土が剥きだしになっている。
カラスが不気味に“かーかー”と鳴きそうだが、実際は生き物など何もいない。
この枯れ木の場所から建物に近づける生者はいないはずなのだが、例外と言うか灰色と言うか、2,3日で死にそうな者は、間違って入って来ることがある。
この建物の主は、潔癖症であった。
いつからそうなったのか、最初からそうだったのかは分からない。
真っ白なかっぽうぎを着て、白い手ぬぐいを被り、マスクと軍手をして床を四つん這いで掃除する者がいた。
「もう、ゾンビは入れるなよ。まだ生肉付いてるから血が落ちるんだよ」
床を“拭き拭き”しながら染みにならないか心配する黒い骸骨の男?が居た。
「おい、スケル机のペンは、右の線の上に置けって言っただろ。何で曲がって置くかなー。
やっぱり首吊った奴は、首が曲がって真っ直ぐ置けないのか。
お前、地下に戻れ、お前首な。今度は、首が曲がってない奴にしよう」
「ふー、何とか綺麗になったか」
・
自己紹介しよう。私は、ノーライフキング?らしい
どうやって生まれたかって?そんな昔の事は忘れた。
数万年前を聞かれて覚えていたらすげー脳みそだ。
あ、脳みそあったかな?頭の中でコロコロしてる。
ここ数百年は覚えている。まあ、数千年ならちょっとは、覚えがある。
お前“ぼっち”なのかって、私には、昔から仕える者達がいるのだ。
執事のブルー、数万年?仕えるスケルトンだ。あまり強くないが、前は、どっかの国の宰相だったらしく頭が切れると自分で言っていた。いつも、“直ぐ殺しますか”と聞いてくる殺人狂だが、周りの者は、皆死んでるので意味が無い。毒、薬などが得意で自分で試していたら青くなったようだが、青い花を摘んできては、唸りながら踏みつぶしている。青が好きなのか嫌いなのかはっきりしない。
軍団長のゴールド、黄金のスケルトンだ。前は、勇者だったようで、今でもスケルトンなのに聖剣を使っていて、聖魔法が効かない変な奴だ。こいつは、夜の娼館でしている所を昔捨てた女たちに、大事な急所を滅多刺しにされ、死んだらしい。
勇者でも下の急所は鍛えられないのだろう。
刺した女が、100人以上いたらしいから、相当御盛んだったようだ。
そんな奴だが、皆から信望が厚く、熱い男だ。
ただ、今でも女のスケルトンと話す時は腰が後に引けている。
暗殺部隊長のブラック、闇に紛れ微塵も気配を感じない凄腕の暗殺者だ。酒が大好きで酔っぱらってドブに嵌って溺死したらしい。
今でも街に行って酒をクスねてきて、私に持ってくるが、骨しかないのにどうやって飲んでいるのか分からないが“骨身に染みる”と言いながら良く酔っぱらっている。
部下達にも飲ませ、新人は必ず急性アルコール中毒で死んでいる。死んでいるのに殺すとはすごい奴だ。翌日になると新隊員は二日酔いで訓練を受ける羽目になる。
刺客のシルバー、刃物のスペシャリストだ、昔剣聖から大剣豪となり、全ての剣士の頂点にいたが、切れるものに傾倒し、全ての刃物に精通して行ったと当人が言っていた。いつの間にか自分の体で切れ味を試しているうちに快感を覚え、切り過ぎて死んでしまったナルシーな奴だ。
ちょっと引いてしまう。
今は、ゾンビからスケルトンになる時に、肉や皮が残っている奴のそぎ落としと骨磨きを趣味にしている。
刃物も骨も研いだり、磨いたりするのは芸術レベルだ。
数千年前、するなと言っているにも拘らず、街に行って試し切り (切り刻むだけで殺しはしない) をして来るので、頭にきて吊るして鞭で叩いたら、“もっと”と言い出してしまった。目覚めたらしい。
それ以来、ブルーと仲がいい。
部屋から、“ほれ、座骨のこの当たりか、尾骨のこの辺をゴリゴリするか”
“駄目だ。ブルーそこは・・・”
近頃はいつも一緒に寝ている。趣味は自由だ。
私は、彼らの寝室には絶対に近づかない。
この屋敷の地下には、何十キロも続く地下壕がある。湿気は少なく骨に程よい環境だ。大体皆は、ゾンビやスケルトンは土の中に埋まっていると思っているようだが、もし本当なら4,5年でカルシウムが溶けて跡形も無くなってしまう。
お骨のケアをしないと魔力があっても何千年も持たないのだ。
その為、動物の骨などを収集したり墓地に行ったりして、地下で粉にしている。普段外を歩くときは、魔力でコーティングして歩いているが、休憩する時は、骨の粉を全身に浴びて擦るのがスケルトンの入浴なのだ。入浴後、魔力マッサージをして寝ると強靭で艶のある骨になる。
スケルトンの美容と健康には欠かせないケアなのだ。
何千年もやっているとドラゴンでも折れない骨になる。
剣などでは傷もつかない。
この骨収集は、グリーンの部隊が行っている。
グリーンは、元々エルフで、弓矢・風魔法・治療魔法に長けている。
森の調査や、侵入者の検知など幅広い任務があり、ブラックの部隊と連携したりする。
グリーンは元女性?らしくブラックにアタックしているが、酒にしか興味のないブラックは、言い寄られても良く解っていないらしい。
グリーンは、ゴールドを物凄く嫌っている。女の敵らしい。
マッサージを専門にしているのが、イエローの部隊だ。
イエローの部隊は、治癒魔法の専門家集団だが、気を付けないと大変な事になる。
目がピンクはいいが、中には土留め色をした奴がいる。
こいつは、死ぬ前は男だったはずだが、どうも男が好きらしい。決して人の性癖に口を出す気はないが、新人には、必ず先輩から説明を受けてからマッサージを依頼するように指導している。
スケルトンも骨格で殆ど男女の区別はつくし、生前の性格が死後も色濃く反映される。
死後3年ほど強制的に任務に付ける。
なぜ、3年間魂を縛るかと言うと、最初は、思いだけで動いているが、段々頭が冴えてきて自我が戻る。それには時間が掛かるのだ。
死後3年経って、輪廻に帰りたい者は昇天させている。
やる気のない者がいても指揮下がるだけだしね。
では、3年後皆居なくなるか、殺された奴の怨念的な奴、殺人、強盗など神様に申し訳が立たない奴が残るかと言うとそうでもない。
ゾンビを1年くらいしている間は、自分の思いがあって彷徨うか簡単な命令で動く程度だ。
スケルトンを1年くらいすると、念話が使えるようになり、今まで命令しか分からなかったのが、周りもよく見えるようになり、魂が段々と考えられるようになる。
2年ぐらいすると魔力も増え、今まで経験できなかった世界が見えるらしい。
まず、死なない。病気にならない。食べ物が要らない。年を取らないし、歳の差など関係ない。戦闘以外で痛い事が無い。
お金やご近所付き合いもない。親も子供も親戚もない。
しがらみが無いから自由に恋愛したり、魂からの信頼できる友達が出来る。
鍛えたい奴は無限に鍛えられる。
私的な怨念を持っても一介のスケルトンでは達成できない。そこまでのレベルになるのに数百年かかるから、怨念の対象は居なくなってしまう。
神様に申し訳が立たなくてもスケルトンでは挽回できないし、ストレスが溜まる。
意外に一般的な奴が残るケースが殆どだ。
後、研究大好きな奴、自分を鍛えるのが好きな奴は、絶対残る。
後、弟子が1人いる。元賢者だったが、100年前、リッチになる前に死んでしまった奴だ。
死因は老衰だったが、近くで研究していたのは知っていたのでスケルトンにしてやった。
まだまだ若いが、スケルトンからリッチになる研究をしている。今の所全く成果はない。
こいつが、俺の事をノーライフキングと呼んだのを思い出した。
現在地下には、ゾンビが2体と数万のスケルトンがいる。
これ以上増やすと、地下壕が溢れるので、数百年前からスケルトン化はなるべく控えている。拡張するのも大変だし。
私は、偶に変装して、町や他の国など旅したりしている。珍しい紅茶や変わった魔物が居ると昔話をしたりする。千年に一回はイエローと一緒にエンシェントドラゴンと話に行っている。
主に腰痛治療と食料を持っていく。いつもこっちが覚えていないのをいい事に、俺がお前をいつも助けたとか言って飯をせびるのだ。
私は、紅茶が趣味なので、色々な国から街経由で取り寄せている。
え?紅茶飲めね―だろって?
いいんだよ。匂いや雰囲気が楽しいし、口から飲むこともできるには出来る。
これでも元大賢者だ。嗅覚、舌の感覚や喉越しの感覚を魂に伝える方法などとっくの父ちゃんに会得している。
魔力は、ほぼ無限にある。
まあ、こんな感じで数万年の悠久の時を過ごしている。
私のもう一つの趣味は、日記をつける事だ。
何時からつけ始めたのかは分からないが、なるべく書くようにしている。
既に癖になっているようだ。
今日も紅茶を飲みながら、日記をつけている。