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第7話

全10話ほどを予定しています。17時ごろ更新予定です。

 この学校には緑を楽しむというテーマから、校舎の外には多くのベンチが作られていた。しかし当然それらは昼休みに利用されることも多く、つまり競争率が高い。

勢いでベンチと約束してもどのベンチかも分からないし、そもそも簡単に座れるかも分からない。


 校舎の外に出た俺は一先ず手当たり次第ベンチを確認して回った。しかしその全てがもう別の誰かに陣取られており、使えそうなところは見当たらない。それに竹原の姿も見えない。もしかしたら竹原もベンチを確保するために動き回っているのかもしれない。

 

 まずいなぁと思っていた時、ベンチの一つに見知った顔を見つける。そこには和泉が一人でベンチに腰掛け、本を読んでいた。騒がしい音もなく、静かな風の音が聞こえる場所で穏やかに本を読む和泉にしばらく目を奪われた。


 だが直ぐに我に帰り、和泉なら竹原の居場所も知っているのではないかと思い近づく。


「よ、よう」


「あ、高崎君」


 呼びかけに和泉は本から目を離して答える。


『和泉が木元と映画に行くらしい』


 一瞬浮かんだ言葉を何とか抑え込む。ここで余計な事は考えたくない。


「どうしたのこんなところで?」


「ちょっと人を探してて」


「誰?」


「竹原なんだけど見なかった?」


「え……それって紀美ちゃんのってあわッ!?」


 すると和泉は持っていた小説を手から落としてしまう。


「そうそう竹原紀美香。昼にベンチに来いって呼ばれたんだけど見つからなくて」


 俺は落ちた本を拾い、和泉に手渡す。


「ご、ごめん」


「それで、今竹原がどこにいるか知らないか?」


 正直早くここから立ち去りたかった。今の和泉と一緒にいる事は何か辛かった。


「えっと紀美ちゃんなら今飲み物買いに行ってるから直ぐに戻ってくるとは思うんだけど」


「は?飲み物を買いに行ってる?」


「うん、結構前に出てったんだけど中々帰ってこないの」


 どういうことだ。俺は今朝確かに竹原に昼休みベンチに来いと言われた。てっきり二人っきりで何かを話すのかと思った。だがその竹原は何故か和泉を連れており、そして当の本人は飲み物を買いに出て行ったきり帰っていない。


 ますます竹原が何をしたいのかが分からなくなってきた。


「えっとその……」


 俺が黙っていると和泉が言い難そうに呟く。


「もしかして高崎君と紀美ちゃんてそういう関係なの?」


「は?」


「だって二人で一緒にお昼食べるなんて……あ、それだったら私邪魔だよね。いや、でももしかしたら今日はそのことを私に伝えるためにこんなことを仕組んだのかも」


 どうやら盛大な勘違いが始まっているようだ。


「待て、落ち着け。俺は竹原とそんな関係では無い。そもそも俺が竹原を知ったのは昨日が初めてだ」


「紀美ちゃん時々空気が読めない発言する子だけど悪気はないから多めに見てあげてね」


「話を聞けッ!?別にそんな関係じゃないんだけど!」


 ここは絶対に譲れないことだ。何が悲しくて好きな女子に最悪の勘違いをされなければいけないのだ。


「え、違うの?」


「だからそう言ってるだろ」


 思わず頭を抱える。


「じゃあ高崎君は何しに来たの?」


「さっきも言った。竹原に呼ばれたんだよ。何の用かは俺にもわからない」


 図書委員の時は本の話題などのローカルなことしか話さなかったために分からなかったが、和泉はかなりの暴走思考の持ち主のようだ。


「あ、そう言えば本ありがとうな。」


「おお、高崎君にしては結構早かったね」


「早かったって、急いで返してもらいたかったのはそっちだろ?」


 すると和泉がぽかんとした顔をする。


「え?私そんなこと言ってないよ?」


「え、だって昨日竹原が俺のところに本回収に来たぞ。それでまだ読み終わってないって言ったらじゃあ早く読めって言われたんだけど」


「あれ~私紀美ちゃんに本貸したこと言ったかなぁ」


 和泉は首をかしげる。どうやら情報が錯綜しているらしい。


 しかし和泉は直ぐに笑みを浮かべる。


「何なんだろうね。まぁとりあえずここに座って待っていたら?」


 言いながら和泉は自分の横に置いていた弁当箱を膝の上に乗せる。


「じゃあそうさせて……」


 言葉に甘えさせて隣に座ろうとしたところで、俺は動きを止める。


「ん?どうしたの?」


 すると当然和泉は俺を見て首を傾げる。


 数瞬の葛藤の末、俺は白状することにした。


「いや、隣に座ったら悪いかなって思って」


「誰に?」


「木元」


「…………あ」


 そこで和泉は表情を固めた。凍らせたと言っていい。


 それを見て俺に自己嫌悪が襲うと同時に、今すぐこの場を去りたい衝動が復活してきた。


「悪いやっぱりまた今度に」


「ち、違うの!」


 踵を返そうとする俺に、和泉は慌てたように声をかける。


「あの、その、木元君はそういうことじゃなくてね」


 慌てたように口走る和泉に、僅かな苛立ちを覚える。しかしそれがまた自己嫌悪に繋がる。


 この苛立ちは単なる嫉妬、負け犬の無様な――


「木元君のはただの私の勘違いなの!!」


「……は?」


「木元君って、あの映画を見に行く話だよね?あれは映画見に行こうって言われて、私が何も考えずに良いよって言っちゃっただけで、だから私と木元君はそういう関係じゃないんですよ!分かってくれました!?」


「お、おう」


 立ち上がり、まくし立てるように話す和泉の口調に思わず押されてしまう。なんだ、いきなり語り出したぞ。


「それが次の日になったら皆知っていて、色んなこと言われて私も大変だったんですよ!今みたいに勘違いされて違うって言っても誰も信じてくれないし」


「そ、そいつは大変だったな」


「大変なんてものじゃなかったんですよ!知らない人に睨まれ、囲まれ、もう散々―っていったい!!」


 言葉の途中突然和泉は頭を抑え始めた。


「何勝手に暴走してんだか」


 その後ろには呆れた顔をした竹原の姿があった。


「紀美ちゃん痛いよ」


「はいはい、痛い痛いの飛んでけ。ほらもう大丈夫よ」


「全然心がこもってないよ!?」


「別にこもってても痛いもんは痛いんじゃない、高崎?」


「ん、あぁそうだな」


「高崎君まで!?」


 俺の返答に和泉は涙目になって震えていた。


「えっと、さっきの状況を見るに、もう事態は大体把握しているのかな?」

そんな和泉をよそに竹原は話を進める。


「事態って?」


「この子のアホな行動の結果」


「あぁ……うん」


「アホって認定された!?」


 なんだろうこれ、面白いな。そう思っていると竹原もニヤリと笑っていた。なるほど、この二人の関係をそんな感じなのか。


「つまりお前の話ってのはこのことだったのか?」


「そう。説明する手間が省けたね」


「いや、そうは言ってもまだ話の本筋が見えていないんだが。それを俺に説明して何をしたいんだ?」


「あぁちょっと手伝ってもらいたい事があるのよ」


「手伝ってもらいたいこと?」


「そうそう」


 なんだろう、何か嫌な予感がする。


「それって……何だ?」


「簡単だよ。今週末、彼氏のフリをしてもらいたいんだよ」

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