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第3話

初の恋愛小説です。短めで、10話ほどで完結予定です。毎日17時頃更新予定で行います。

 その日の夜、俺はベッドに横になりながら和泉から借りた本を目の前に掲げる。


「あの会話の流れって、映画に誘えたんじゃないか?」


 昼間に和泉と話していた時、和泉はまだ映画を見ていないと言っていた。あれは映画に誘う絶好の機会だったのではないか。


『なんなら俺と見に行かない?』


「いやいや無理無理、絶対できない」


 想像してみるが、できる気がしない。そんな陽キャでもないし。


「何やってんだよ俺」


 毒づくが、あの時はそんなことに頭が回る余裕もなく、ただ渡された本をちゃんと読めるかどうかが気になっていた。残念ながら連絡先も交換していないため、今更映画に誘う方法も無ければ度胸もない。休み時間に他のクラスにわざわざ会いに行くなんて無理だ。


「また来週……だな」


 とりあえずそれまでにこの本を読み終えることを目標にしよう。





 和泉から本を借りて一週間、途中で腐ることなくやっと物語を百ページほどまで読み進めた。ペースとしてはおそらくかなり遅いのだろうが、十ページほどで集中力が切れてしまう俺は必然と何回かのクールに分けて読むしかないためこれが最速だった。


 神姫もこの小説を読んだ事があるようで、「直ぐ読み終わるから早く読め!」という理不尽なメールを送ってきた。


 この小説は男女の恋愛を描いたものだった。文通が主流の時代、新聞に載っていた文通相手募集の広告に応募をした男は、そこで見も知らぬ一人の女性と文通をすることになる。手紙を交換しているうちに彼は見も知らぬ聡明な女性の文章に次第と引かれていく。画家見習いとして工房で働いていた彼だが、その仕事の傍らではいつも女性との文通の内容を考えていた。


 そんなある時、男に見合いの話がまい込んで来る。見合い相手は親の仕事仲間の娘であり、これがまた文通相手の女性とは正反対な容姿は美しくもおてんばな性格で、彼はそのことを文通相手に愚痴ってしまう。


「何故見合いの相手はあなたのような聡明な女性でないのか。あなたが私の見合い相手ならば良かったのに」と。


 するとその返事はいつまでたっても来ず、彼はその事が気がかりで仕事も失敗ばかり繰り返してしまい、また見合い相手とも上手くいかない関係を続けていた。


 という、主人公がどうしようもないろくでなしになっているという場面で止まっている。


 実のところ俺はこの主人公の気持ちが分からなくもない。文通をそのまま現代風にメールとすればそれは俺の状況に当てはまるのだ。


もっともその場合文通相手と見合いの相手の立場が反対であり、そもそも俺と和泉は見合いどころか連絡先すら知らない仲であるので、そういう意味では主人公よりは切羽詰った状況ではない。


 だがそれは逆に恋愛の壇上にすら立てていないということと同じであり、ヘタレ具合で言えば和泉を映画に誘えない俺の方がひどいのではないかと思えてしまう。

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