第一章<父と母の帰宅>
「ただいまぁ~」
午前12時を過ぎた頃、熊野家の玄関からいつもの凛子の声が聞こえた。
それを聞いた陸人達3人がすぐに玄関へと駆けつける。
笑顔の凛子の後ろに、顔色の悪い秋鷹がフラフラで立っている。
「遅くなってごめんね。さ、ハンバーグ食べましょうか。」
凛子はそう言うと、買ってきたハンバーグ弁当を見せた。
その言葉で5人は階段下の収納庫から地下の会議室へと移動する。
「ママぁ~!」
会議室に入るなり、涙をボロボロと流す玲奈が凛子に抱き着く。
「あらあら、怖かったわよね。もう大丈夫よ。」
凛子は玲奈の頭を撫でる。
「うっ…ひぐっ……」
玲奈は泣きじゃくってしまい言葉を発することが出来ない。これまで我慢してきたものが爆発したようだ。
「で、何があったの?」
陸人が席に着きながら尋ねる。
凛子の服には返り血がついており、秋鷹は顔面蒼白で体調が悪そうだ。何かあったことは一目瞭然である。
「ん~、ちょっと大人の事情でカメラとイヤフォン止めちゃってたけど、問題はなかったわよ?佐田を利用して青葉のアジトを突き止めただけ。ただ、私は死んだことになってるから、明日からは水仙ヶ丘学園には行けないわね。もちろん玲奈ちゃんの潜入も終わり。」
凛子がニコニコとして言う。
「いやっ、だからちゃんと経緯を説明し…」
「お父さん、大丈夫だったわよね?」
凛子が陸人の声を遮って言う。
秋鷹はコクコクと頷くだけだ。先程のホテルでの凛子と佐田の部下の光景を思い出し、何も言えないらしい。
「…第一の目的であるアジトの発見が出来た良かった。温かいうちにご飯を食べよう。」
何かを察した源五郎が言う。
まだ陸人は何か言いたげだったが、これ以上聞いても何も話してくれないことは明白であったために諦めるしかなかった。
5人はいつものように作戦会議をしながら、夕食を取った。
そして、夕食を終え地上の部屋に戻ろうとしたとき
「あの…」
陸人が声を振る絞るように声を出す。
4人はそんな陸人の姿を静かに見守っていた。
「みんな…ごめん。次はもっと気を付ける。」
陸人が小さな声で言う。
凛子を佐田に接触させようとした作戦について謝っているらしい。
最初に動いたのは凛子だった。
「いいのよ。誰でも苦手なことや失敗はあるんだから、補いあえば良いの。」
凛子は優しく陸人の頭を撫でる。
陸人は俯いたまま、方を震わせている。泣いているのかもしれない。
「お母さんの言う通りだ、俺たちは家族なんだから。」
やっと回復した秋鷹も笑っている。玲奈は静かに陸人に抱き着き、源五郎も頷いていた。
「うん…」
陸人は小さくそう答えた。