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第一章<次のアクションのために>

「あ~~もう嫌~~~~!」

そう叫んで机に突っ伏したのは玲奈だった。

いつもの地下の会議室の机には夕飯が並んでおり、今日も夕飯を食べながら家族会議を行っている。


「昨日も同じこと言ってなかったっけ?」

味噌汁を飲んだ陸人が言う。


玲奈が水仙ヶ丘学園に入学して数日、玲奈はすでに潜入捜査に限界を感じていた。


「だって高2の授業なんて理解できるわけないじゃん!私は高1で、普通の公立校にしか行ってないのに~。」

涙目の玲奈はやけ食いのように白米を口の中に詰め込む。


「いや、そもそも姉ちゃんの頭じゃ高1の授業も無理でしょ。」

冷静に突っ込む陸人。

確かに玲奈は少し…いや、随分と勉強が苦手だ。


「それもそうだけどぉ~こんなダサい髪型と何もないネイル、きちんとした制服なんて我慢できない!」

いつもギャルな姿である玲奈にとって素材の味を活かした今の格好はストレスらしい。


秋鷹や源五郎からすると、それくらいの大人しい格好が良いとは思うのだが乙女心は難しいものだ。



「玲奈ちゃん、よく頑張ってるね。偉いよ。今日も大好きなたい焼き買ってきたから後で食べよ?」

凛子は玲奈の頭を撫でながら慰める。


「うわ~ん、ママぁ~!」

玲奈はそう言って凛子に抱き着いた。


「はいはい、母さんは玲奈に甘すぎ。さっさと今日の報告始めるよ。ねぇちゃんから!」

陸人はクールにそう言い放つと、箸で玲奈のゴテゴテとデコレーションされたノートパソコンを指した。


それを見た源五郎は箸で物を指さないように陸人に注意をする。



「無慈悲かこのヤロー!」

玲奈はそう言いながらも凛子から離れ、PCを大きなモニターに映し出す。


「えっとぉ…まずは学校内の報告からするね。普通の進学校がどんなのか知らないけど、水仙ヶ丘は明らかに欠席者が多いとは思う。平均1クラス5名は欠席してるみたい。教室内には目が虚ろで行動が異常な生徒も多い。」


その話を聞いて、次に口を開いたのは大量の白米とおかずを食べている秋鷹だ。

「…違法薬物が蔓延しているからか。俺は陸人の指示で休んでる生徒の動向を探ったが、盗みや売春に明け暮れる奴ばっかでその金を薬の購入に当ててるらしい。薬物による死亡者はまだ出てねぇが、これは時間の問題だぞ。」

秋鷹は大きなため息をつく。


「実際、他の学校では薬物による死亡者や逮捕者も多発してるみたいじゃな。」

老眼鏡をした源五郎が手元の資料を見ながら言う。


「それにしてもどういう手口で薬を流行らせてんだ?」


「う~ん、行動を観察するに佐田っていう先生が関係していることは確かよねぇ。」

凛子が首を傾げる。


「姉ちゃんが揃えてくれた資料や校内の監視カメラを見たけど、佐田に進路相談をしたり勉強の相談をしに行く生徒が異様に多い、化学準備室や進路相談室の密室で薬の取引をしているみたい。」

陸人はそう言いながら、玲奈に目くばせをする。


玲奈は手元のパソコンを操作すると、画面に隠しカメラの映像と音声を映し出した。



場所は化学準備室で、佐田が一人でパソコンを触っている。そこに一人の男子生徒がやってきた。


「先生、以前借りていた教材をお返しします。」

画面に映し出された男子生徒が震える手で化学の参考書を差し出す。目は虚ろでくまができている。

佐田は参考書を受け取ると、中身を確認している。参考書を捲っている際に一瞬ページに1万円札が挟まっているのが見えた。


「よく勉強してるみたいだね。次はこの参考書を使って勉強してみると良いよ。」


「ありがとうございます!!」

男子生徒は佐田に渡された参考書を奪うかのように受け取ると礼を言い、すぐに部屋を駆けだして言った。

その光景を見た佐田は心なしか笑っているように見える。


そうして、映像がプツリと切れた。



「…この映像では見えてないけど、おそらく佐田の渡した参考書の中に違法薬物が入っている。」

陸人の言葉に皆が重苦しく頷く。


「もう一つの映像あるから出すね。」

玲奈がそう言うと、またパソコンを操作した。



次に映し出されたのは進路指導室で佐田と女生徒が一緒に入室してくる。


「先生、今日はお声掛けいただきありがとうございます。」

真面目そうな女生徒が言う。


どうやら佐田は進路で悩んでいるこの女生徒に自ら声を掛け、進路指導室へと連れてきたらしい。

一通り女生徒の相談を受けると、佐田がポケットから小さな袋に入っている錠剤を取り出す。


「良かったらこれ飲んでみて。ストレスを和らげる薬でおすすめだよ。」

佐田が笑顔でそう言いながら、錠剤の服用方法を説明し始める。


こうして薬を受け取った女生徒は進路指導室を後にしたのだった。



「もちろんあの薬は俺が普通のビタミン剤に入れ替えといた。」

秋鷹が言う。


「わしは秋鷹の入れ替えた薬を知り合いに頼んで調べてもらったんじゃが、やはり巷で流行っている違法薬物と一致した。」

源五郎は小袋に入った薬を机に出す。


「やっぱり佐田は完全に黒だね…最初はストレスを和らげる薬と嘘ついて違法薬物を生徒に服用させ、生徒がその薬に依存した所で売りつける。お金も儲けて、若い目も摘む…一石二鳥ってわけだ。」

陸人は腕を組むと椅子に背中を預けてもたれかかる。


「学校のシステムにハッキングして佐田の経歴を見たけど、何度も高校や大学の進学校を転職してるみたいだよ。もちろんその学校の生徒を薬漬けにした後で転職してるみたいだけど。佐田がいた学校の地域での違法薬物蔓延率が異常に高い。しかも若者を中心にね…。」

玲奈がモニターに佐田の履歴書や資料を見せながら言う。


「姉ちゃん、佐田への接触は成功したの?」

陸人が尋ねる。

陸人は事前に玲奈が佐田に進路の相談をほのめかすよう指示をしていたのだ。


「りっくん!それは危険だからやめてって言ったでしょう!?」

「凛子、落ち着けって。」

立ち上がって興奮する凛子を秋鷹が宥める。


「…陸の言う通りちゃんと佐田には接触したよ。今全然授業ついていけなくて成績も悪いし、佐田も進路相談されることに違和感はないとは思う。明日の放課後進路指導室で佐田と会うことになってる。」

玲奈は冷静にそう答えるが、瞳は不安気にしている。


それを見た凛子はさらに心配そうな表情をしていた。


「よし、さらなる情報を得るには直接佐田に接触するのが一番だ。じゃ、今日はここまでで。僕は他にすることがあるから先に失礼するね。」

陸人はそう言うと会議室を出て行ってしまった。


「ちょっと、りっくん待って!やっぱり玲奈ちゃんに直接密室で接触させるのは危険よ!」

凛子はそう言いながら1階へと上がって行く陸人を追いかける。


陸人は頭脳明晰だが、人の気持ちを考えるのが苦手のようで玲奈の不安感には気付いていない。それに自分の考えた方法が一番だと思い込んでいるようだった。


源五郎はそんな凛子と玲奈を仲裁しようと席を立ち部屋を出ていく。



「…」

「…」

会議室に残された秋鷹と玲奈の間に重い空気が流れる。


今まで一人で行動してきた秋鷹にとってこのような場面でどういう声を掛けて良いのかわからない。

秋鷹は困った表情で頭をかいた。

「れ、玲奈…えっと、その時は母さんも俺もすぐ近くに待機しとくから心配すんな。母さんの強さはピカイチだ。だ、だから…」

秋鷹はしどろもどろに言う。


「パパ、ありがとう。」

秋鷹の精一杯の言葉に玲奈は微かに微笑んだ。


マフィアの一員である佐田に接触し薬を受け取るよう行動するのは不安だが、それが出来るのは水仙ヶ丘学園の生徒である自分だけだ。甘えずに頑張るしかない。

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