第一章~熊と悪いお薬~:<ミッション内容>
ハンバーグ会議が続く中、一向に資金調達の目途が絶たず場には重苦しい空気が立ち込めている。
そこに口を開いたのは意外な人物、玲奈であった。
「そういえば面白い話聞いたよ。」
ネイルのお手入れを終えた玲奈は自分の髪を触りながら言う。
「何?」
陸人が尋ねる。基本やる気のない玲奈だが、だからこそ時々鋭いことを言うので聞いてみる価値はあるだろう。
「最近近くの学校がハチャメチャになってんだって。それが面白くてさ、違法ドラッグが流行ってるらしいの。」
玲奈が言う。
「は!?それが俺たちと何の関係がっ…むぐっ!」
イライラしている秋鷹の言葉を凛子が無理やり阻止する。この家で力に凛子に敵う者はいない。秋鷹はすでに失神寸前だ。
「…ねぇちゃん、続けて。」
陸人がそんな両親を横目に続きの話を促す。
玲奈はパソコンを取り出すと、目の前のモニターにいくつかの資料を映し出した。
「面白そうだから、色々調べてみたのよ。そしたら、この国と敵対するA国のマフィアが首謀者で全国の偏差値の高い高校や大学の生徒を中心にそのドラッグをばら撒いてんだって。おかげで、その界隈では違法薬物を買うために学生の窃盗や売春が横行してんのよ。」
他4人は静かにモニターの画面を見つめる。
「…成程。」
「そういう手もあるか。」
陸人と源五郎が言う。
秋鷹と凛子は何のことかわからず首を傾げるだけだ。
「悪者はたくさんのお金を持ってるってことだね。」
陸人はそう言うと、玲奈と話し始めて他の資料も確認している。
「つまり、その悪徳ターゲットから金を巻き上げるということか。」
と、源五郎。
陸人は頷くと、
「悪い奴はお金をたくさん持っている。しかも、表に出すことの出来ない汚い金だ。警察が追って来る可能性も低いね、汚い金がなくなっても表の人間は見えないし。」
と言った。
「よっしゃ、任せとけ!玲奈に敵のアジトを調べてもらったら、すぐに俺と凛子で行ってくるわ!マフィア共は凛子が倒して、俺がその隙に金目のもの全部盗んでくる!」
「はい、相手に顔を見せる隙も与えず殺してくるわ!」
元大泥棒秋鷹と元暗殺者凛子が久々の大きな仕事に目を輝かせている。
それを見た玲奈と陸人も満足そうに頷いていた。
「待て待て、子どもの前で簡単に殺す等という言葉を言うでない。それに、お前らはこの家族が結成されたときに約束したことは忘れたのか?」
源五郎が厳しい表情で4人を見る。
そう言われた4人は気まずそうに顔を見合っていた。
”もう悪事は働かない。以前の自分達は忘れること”
それが5人の家族が結成された際の契約の一つである。
「でも、父さんも玲奈が持ってきた話には納得してただろ。契約を変更したって…」
「駄目じゃ。もうそれ以上手を汚すな。」
源五郎がはっきりと言う。
「でも、私には殺ししかできないし…皆も自分の得意分野のことしかできないわ。」
凛子が眉を下げて困った表情をした。
「皆の類まれなる才能と経験を使って悪を打倒する。しかし、それは悪を倒すための悪事であって、被害者にも十分な金を渡し救済するんじゃ。もちろん殺生や不必要な盗みは禁止。」
「…わかったよ。」
そう静かに答えたのは陸人だった。
「じゃあ、私たちの生活費はどうすんの!?欲しい服あったのに~!」
玲奈が嘆いた。
「もちろん、悪者であるターゲットからは被害者へのお金と一緒に僕たちも報酬として活動費を頂戴しよう。これからは協力して人を救っていくんだ。」
陸人が言った。
その言葉で5人は暫く見つめ合うと、皆納得したようで空気が軽くなった。
こうして異質な世直し集団熊野家が誕生したのである。