詫び石6つ目
するり。
布地の擦れる音が、2人きりの空間で小さく響く。
「ルロちゃん、もう一度聞くよ……本当にいいんだね?」
「は、はい……っ」
ルロちゃんは透き通った白い肌に朱色を浮かべると、恥じらいながら目線を逸らし小さな手をこちらに伸ばした。
「こ、“これ”を、ください……お願いします、ご主人様……」
艶やかな唇を震わせてそう言った彼女に、俺は喉を上下させて生唾を飲み込むことしかできない。
「わかった……じゃあ、」
そして――……先に試着室を出た俺は、片手を上げつつ店員さんに声をかけた。
「すみません、これください」
「はい、かしこまりました〜!」
服屋を出た後、弾む足取りで後ろをついてくるルロちゃんに目をやる。
「本当にそれで良かったの……?」
「はいっ!」
彼女が「どうしてもこれがいい」と言って譲らなかったのはメイド服だ。
もう誰かに仕える立場じゃないんだから自由な服装でいいんだよ、と宥めたところ「ご主人様に仕えておりますが!?」と予想外の勢いでキレられたため何も言えなかった。
ルロちゃんは可愛いのに怒ると怖いらしい……そんなところも可愛いな。
「ふんふんっ♪」
(可愛い……)
綺麗に伸びた長い白髪も店員さんが厚意で結ってくれたのだが、それもお気に召したらしくえらく上機嫌だ。
たしか、三つ編みと言っただろうか……とにかく可愛さが引き立っている。
「良かったね、宇宙一似合ってるよ」
「……!! そ、そんな……宇宙一だなんて……」
足を止めたルロちゃんは、2本に分かれた三つ編みの先をそれぞれ両手で持ち、自身の髪の毛で口元を隠すような仕草をしたのだがあまりに可愛すぎて心臓が一瞬止まった。
その桃色の瞳は涙で潤み、エルフ耳が先まで真っ赤になっている。
「ご、ご主人様は褒めすぎです……もうっ……」
「ン゛ッ゛!!」
もうっ、だって。もうっ。
聞いた? 宇宙一可愛い「もうっ」。
舌を噛む勢いで可愛かった。俺の内なる幸福メーターが振り切れそうだ。これもバグの影響だろうか?
「はぁ……ルロちゃんは本当に可愛いね、よしよし」
「!?」
頭を撫でた瞬間、ルロちゃんはなぜか硬直して両手の行き場を失ったかのように空中で漂わせる。
「……? どうかした?」
「あっ……」
手を離すなり、切なそうな声をあげて俺を見上げる可愛いルロちゃん。
「……あ、あの……」
「うん?」
「……も、もう一度……撫でて頂いてもよろしいでしょうか……? その……このように褒めて頂けるのが、は、初めてで……」
「もう一度どころか1分おきに撫でようか? それとも30秒間隔がいい?」
次の目的地へ向かう道中、俺は明日から毎日ルロちゃんのことを1日24なでなでしようと心に誓ったのであった。