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55/59

55、デートの時間です




「情報収集はこんなもんか。シュナイクの話も聞けたしな」


「そうですね、今頃はカエルレウムでしょうか」


「元気でやってくれてたら、いいな」



 テオとレイシーは獣人族の種族や習性など、今まで調査できなかった部分まで調べていた。

 その調査の際に、シュナイクの情報まで拾ったのだ。


 主に貧困層の獣人族を人助けしていて、みんな一様に感謝していた。

 そのうちのひとりが漁師をしていて、海王が治る魚人族の国、カエルレウムに送っていったらしい。


「よし、それじゃぁ、そろそろ買い物の時間にしようか」


「はい! それでは、後ほど宿屋で」


 そういった瞬間、すでに姿は見えなくなった。


「アイツ……加速(ブースト)まで使いやがって……よっぽど楽しみだったんだな。ククッ」


 そういうテオも、とても軽い足取りで先ほど見つけた、ブルトカールの土産物屋にむかっていった。




     ***




「ノエル様……あの、本当にこれで観光に行くんですか……?」


「うん、もちろん。よく似合ってるよ」


 ノエルは速攻で、洋服屋にアリシアを連れていった。試着室から出てきたアリシアは、恥ずかしそうにスカートをつまんでいる。

 ミントグリーンの花柄のワンピースに、レースのボレロを羽織っていた。サイドだけ編み込みにしておろした髪がサラサラと肩から落ちる。


「じゃぁ、行こうか」


 ノエルは、いまだに戸惑っているアリシアの手を引く。そのまま何気なく手をつないで、メイリルの街へ繰り出した。




(ど、どうしよう! どうしよう! ノエル様と手をつないでる! 現在進行形!! 何ですかコレ、私を萌え死にさせるつもりですか!?)


「アリシア、どうしたの?」


 あまりにも無口なアリシアに、ノエルは声をかけた。

 理由はわかるけど、折角ふたりきりになれたのに……何とかアリシアを笑顔したい。


「そうだ、魔道具専門店に行ってみる?」


「えっ! いいんですか!?」


「ふふ……いいよ。アリシアが喜ぶなら」


 そう言って、すでに笑顔になっているアリシアにつられて、笑顔になった。

 仕事も何も関係ない、気も張らなくていい、こんな貴重な時間はほとんどない。そんなノエルの笑顔にアリシアは、一瞬、確実に心臓が止まった。


(はうああ!! 何、いまの笑顔!? 一瞬、心臓止まったわ!! ノエル様が天使すぎるっっ!!)




 魔道具専門店を出たあとは、メイリルで人気のお店に入った。そこで話題のスイーツを注文して、ひと休みしている。


「ねぇ、アリシアは結婚とか考えていないの?」


「へ? 結婚ですか? いや、まったく考えてませんね!」


「…………そう」


 アリシアの父親から出された条件は、口説いたり気持ちを伝えたりせずに結婚する気にさせたら認める、というものだった。たまに聞いてみるけど、全っ然、その気にならないらしい。


「僕はアリシアならいい奥さんになると思うよ」


「そうですか? うーん、想像できません。それに……」

(結婚したら、ノエル様とこんな風に過ごせなくなる)


「誰か好きな人でもいるの?」


「すっ! 好きな、人!」


 わかってるけど、僕もそろそろ我慢の限界なんだよね。多少強引でも、条件さえ破らなければ問題ないでしょ。


「好きな人がいるなら、その人と結婚すればいいんじゃない?」


「いやいやいや! 無理ですよ!」

(私ごときがノエル様と? いやいやいやいやいや、釣り合わないから!)


「なんで? 相手は平民なの?」


「いいえ」


「じゃぁ、王族?」


「いいえ」


「じゃぁ、身分差は問題ないよね。あ、まさか既婚者?」


「いいえ!」


「じゃぁ、相手にすでに婚約者がいるの?」


「……いいえ」


「じゃぁ、なんで無理なの?」


「……なんでって、私じゃ釣り合わないですよ……」

(こうしてふたりで過ごせる時間があるだけで、充分なんだから)


 ほんとコレ、いますぐ口説きたい……! ていうか、あの条件、体良く断るための条件なんじゃないかとすら思うね。


「いや、条件的にも問題ないし、アリシアはあの二番隊の隊長なんだから、問題ないんじゃない?」


「…………そう、ですかね」


「その好きな人に他の婚約者ができる前に、気持ちだけでも伝えてみたら?」


「…………っ!」


「別に直接じゃなくても、父君に相談してみたらいいんじゃない? 結婚したい人がいるとか言ってさ」


「他の……婚約者……」

(そうだよね、ノエル様くらい素敵な人なら、すぐに他のーーーー)


 ノエルは最後に少し元気のないアリシアに、ゴールドのラインの入った青いリボンをプレゼントした。それはすごく喜んでくれている。


 これで少しは貪欲になってくれるといいんだけど……そもそも、僕の気持ちに気づいてないのが問題だよね。どうやって口説かず告白せず、僕の気持ちに気づかせようか……?



 この後、エレナがいい仕事をすることになるのを、ノエルはまだ知らない。




     ***




「ただいま戻りました……」


「あら、おかえりなさい。楽しめた?」


 同室のエレナが優しく出迎えてくれる。

 宿屋に戻って、アリシアは部屋のベッドに倒れ込んだ。バックやら、途中で買ったお土産やらも、ベッドの上にドサッと置いたままだ。


「はい……楽しみました」


「あら、このリボン……」


「あ、それ、ノエル様が私に似合うからって、プレゼントしてくれたんです」


「あらあら、それはもう我慢の限界が近いのね」


「……? 我慢? ノエル様に何かあるんですか?」


 もし私のせいで我慢させてるなら、なんとかしないと! まだノエル様の側にいたいんだから! せめて、ノエル様に婚約者ができるまではーーーー


「えぇ、アリシアは気がつかない? リボンの色」


「青と……ゴールド……ノエル様の色ですね?」


「そこまではわかっているのね。男性が自分色の贈り物をするって、独占欲の表れよ」


「……独占欲? ノエル様が? 私に? なぜ?」


 この調子だものノエル様も苦労するわね、と思いながらエレナは、そっと背中を押してやることにした。


「好きな相手だからに決まってるでしょう?」


「ええっ!! まさか! そんな訳……」


「アリシア、()()そう言っているの。間違いないわ。ヴェルメリオに帰ったら、お父上に相談してみなさい。きっと上手くいくわ」


「いや……そんな……」


「わかったわね?」


「はいっ!!」



 エレナの強い押しもあり、ヴェルメリオに戻ったアリシアは父親に相談すると、翌日にはノエルの正式な婚約者になっていた。アリシアはその事実を聞いて、あまりの衝撃で三日間も寝込んでしまった。




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