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37、逃れられない策略




「ほんとだって! オイラこの前国に帰った時に、珍しい獣人族を見たんだよ!」

「でも、そんなの聞いたことないぜ。黒い翼の獣人族なんて……」

「だから変異種らしいよ。しかも、翼が六枚もあるんだって!」

「へぇ、そりゃすごいな! あれかな、鷹かワシかその辺りの変異種かな?」

「だとしたら、すごいレアだな!」


 奴隷商人はいつも来ているレストランで、いつものように食事をしていた。従業員が噂話をしているのが耳に入ってくる。金の匂いのする話だ。


(黒い翼の、獣人だと……? 本当にそんなのがいたとして、奴隷にしたらいくらの価格がつくんだ!? 私が捕まえて、ドルイトス伯爵に声かければ……グヒヒヒヒ)


 奴隷商人は販売先まで目処をつけて、ウェイターに声をかける。いつものイライラした態度はではなく、気持ち悪いくらい馴れ馴れしかった。


「あぁ、君。さっき珍しい獣人族の話をしてなかったかい?」


「えっ、オイラですか? あぁ、はい。してましたけど……?」


「もう少し、詳しく聞かせてくれないか?」


「いや、大した事知らないですから! すみません、チーフに叱られてしまうので、失礼します」


(クソゥ、普段からノロマなんだから、こういう時くらい役に立たんか! これだから悪魔族はキライなんだ!)


 またいつものイライラした態度に戻って、噂の獣人族をどのように手に入れるか考えていた。




     ***




 クリストファーは、バルコニーに通じるテラスドアを開けたまま、ソファーで読書をしていた。今夜は()()から来客の予定がある。

 部屋の時計が、十二時をさした時だった。



「お初にお目にかかります、ブルトカール国王陛下。アルブス総帥、ノエル・ミラージュでございます」



 バルコニーに降り立ったのは、六枚の純白の翼を広げた天使だった。貴族の盛装をしていて、金糸で刺繍されたダークブルーの上着がよく似合っている。膝をついて、最大の敬意を示していた。


「時間通りだな」


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。結界を施したいので、入室を許可していただけませんか?」


「うむ、入れ」



 ノエルは部屋に入ると、いつものように防音と防視の結界をはる。


(これは……ここまで高密度の二重結界を、いとも簡単にはってしまうとは……相当な実力だな)


「それで、内密な話とは何だ?」


 時間が惜しいとばかりに、クリストファーは本題に入った。深夜とはいえ、いつ邪魔が入るかわからない。


「率直に申し上げます。奴隷商人と奴隷を囲っている貴族の討伐を、私を初めアルブスが協力致しましょう。手柄は全て国王陛下に差し上げます」


「ずいぶんとストレートに来るな。では、見返りに何が欲しいのだ?」


 こちらの欲しいものを、これだけスパンと言われては隠すことに意味はない。おそらく、私の状況など全て調べがついているのだろう。


「討伐の際に、戦力として必要な人物がいます。ですがその人物が、このブルトカール城の独房に収監されています。その者を解放していただきたい」


「そうか……だが、その者が罪を犯しているなら解放するわけにはいかんな。無実の証拠はあるのか?」


「奴隷商人が絡んでおります。その者にハメられたのは、その場にいた悪魔族に確認済みです」


「なるほど、それが真実だと言う証明はできるのか?」


「これをご覧ください」



 そう言って出してきたのは、映像を記録できる魔道具だった。ノートくらいの大きさの鏡で、魔力を通してる間は鏡に映ったものが記録される仕組みだ。


 その映像には立派な一軒が映っていて、裏庭に進んでいくようだった。建物の影から出た先には、積み上げられた檻が多数あり、その中には首輪をつけられた様々な種族がいた。


 その前でひとりのトカゲの獣人族が、首輪をつけられた獣人族を檻から出していた。そこには目の前にいるノエルも映っていて、男と会話している。


 よく見ると、間違いなく隷属の首輪がつけられていた。そう、この首輪がついた獣人は奴隷なのだ。やがてノエルはその場から去り、男は特殊能力を使って、数々の檻を跡形もなく消し去った。



「……わかった。その者が無実だと信じる。その収監されているのは何者なのだ?」


「ルージュ・デザライトの大魔王ルシフェル様と配下のグレシルです」


「なっ……大魔王だと……な……?」


「お気持ちはわかりますが、間違いなく大魔王ルシフェル様です」


 つい最近、ルージュ・デザライトがひとりの悪魔族に統治されたと聞き及んだ。それが大魔王ルシフェルだと知ったのは四ヶ月ほど前だった。まさか、そのような身分の悪魔族が収監されているとは……。


「もうひとつ、全てがうまくいった暁には、同盟に加入していただきたい。そうすれば、ルージュ・デザライトとヴェルメリオが国王陛下の後ろ盾になりましょう」


 そう話しながら、ノエルは二通の封筒を出した。

 一通はヴェルメリオ国王からのもので、ノエルに全権を委任していると言うものだ。もう一通は大聖者からで、国の代表としてノエルを認めると書かれていた。



 ここまで、用意周到に準備してきたのか……奴隷商人や貴族たちを捕まえ、他国との同盟を結び国を安定させたなら、反対派も一掃されて、おそらく政治的な問題もなくなるだろう。


 アルブスの総帥は、私を逃がす気はないようだ。

 むしろ悩み事を全て解決してもらって、こちらが感謝しなければいけないな。



「ははは、参ったな。ここまでされては、頷くしかないではないか」


「ご理解いただき嬉しく思います」


「では、話を進める前に、一度大魔王ルシフェル殿と話す時間を作ってもよいか?」


「ルシフェル様とですか……?」


「あぁ、もうひとりの未来の盟友にぜひ会ってみたいのだ」


 どんな人物なのか、ずっと気になっていたのだ。あの悪魔族をまとめられるくらいだから、実力者なのは間違いない。


「……かしこまりました。私の同席も許してもらえるのなら、問題ありません」


「では準備ができ次第、連絡しよう」


「私はノスティモという宿屋におります。そちらにお願いいたします」


「うむ、よろしく頼む」


 ノエルとブルトカール国王の密会は、滞りなく終了した。ここから、ノエルの計画はサクサクと進んでいく。




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― 新着の感想 ―
[一言] 興奮して鼻血を出して欲しいので、 応援しますね
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