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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第二章 外界は如何にして存続しているのか
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龍を殺した者達 その4『魔獣討伐の報酬』


 教会での時間を過ごし終えた頃には、約束の刻限が迫り私は冒険者管理組合へと移動する事とした。


 中に入ると、ザンクと管理組合の査定人が私を出迎え、早速商談を行う運びとなった。通された個室で椅子に座るや否や、真っ先に口を開いたのは管理組合の査定人であるロイドであった。


「ラクロア様、お待たせ致しました。査定の結果ですが、今回『白銀』の皆さまが討伐をなされた個体分類名エルドノックスですが、やはり変異種である事が特定出来ました。そして、今回お持ち頂いた死骸から取れた各種素材についての鑑定結果ですが、魔力核となる角を除いて大金貨三十枚と小金貨八枚程で換金を受け付けさせて頂ければと考えております……。一方で、死後経過によって完全に魔石化しているこの魔力核となる角の価格ですが、こちらは管理組合で引取の場合は、大金貨四十枚での引取りとなります」


 実質的な危害ランクをA-と設定されていたエルドノックスの素材査定が、結果として大金貨約七十枚であったのは僥倖と言えた。今回の金額相場についても、手間暇を考えれば十分に釣りがくる程度のものに感じられた。


 しかしながら、もったいぶりながら即答はせず、念の為に、『白銀』として再度エルドノックスの変異種を討伐する事が出来る今後の実行可能性と、管理組合に対しての実質的な貢献度を天秤に掛けて考えてみたものの、それでもやはり、管理組合から提示された金額は十分に納得の行く額であると思えた。


 私の主目的は王都シュタインズクラードへと赴き情報を得る事に有る為、それであればこのまま換金に応じても構わなかった。しかし、私がそのまま返事をしようと言葉を出しかけた矢先、ロイドの説明を横で聞いていたザンクは、魔力核である魔石角の買い取り金額について一言有るらしく、私を制するように話に割って入ってきた。


「旦那、管理組合の提示する大金貨四十枚ってのは幾ら何でもお役所仕事過ぎますよ。龍種の、それも今回の品質の魔力核であれば、それなりの工房へ行けば大金貨八十枚は下らないものですよ」


 ザンクはロイドの物言いに対いて自信を見せながらそう言い切った。私はザンクの言葉を借りてそのままロイドに対して確認を促す。


「だ、そうですが、ロイドさんはどう思われます?」


 ロイドはそうでしょう、と特に躊躇いも無くザンクの言葉に理解を示した。


「正直なところ管理組合では時価となる素材については一律限度額が決まっておりまして、これ以上の金額での引き受けは難しい状況です。ザンクさんの言う通り、中央へ持っていけばそれなりの金額になる可能性は高いと思います」


 私はそれを聞いて、どうするべきか考えを巡らせていた。


 先ほどの通り、王都へ向かう為には大金貨七十枚もあれば十分であったが、仮に管理組合では無く、一般流通させた場合において、我々にとっての利点が無いかどうか、何か活用方法が無いかについても頭を捻らせ、可能性を探る為にザンクに対して提案を行う事とした。


「なるほど、じゃあザンク、大金貨四十枚で貴方にこれは売ろうと思う。捌いた差額は貴方の利益として貰って構わない。但し、この取引を成立させるに当たって、二つ条件を出したい。一つは我々を王都まで道案内をすること。二つ目は私が渡をつけて欲しい人物との関係を構築する事。その人物はアルベルト・ランカスター。王都に工房を構える高名な魔剣の剣匠と聞いている者です。貴方にそれが出来ますか?」


 ザンクは私の申し出に対して酷く驚いた表情を見せた。それは期待を受けた喜びと、私が出した条件の困難さがない混ぜになったような複雑さを帯びていた。しかし、逡巡も束の間にザンクは全身に漲った行商としての矜恃を以って私の申し出に頷いた。


「旦那、それは願ってもない依頼ですよ。出会って間もない私に対しての厚遇、それに応えないのは行商としての名が廃ると言うものです。ありとあらゆる伝手を辿って、ご依頼完遂させて頂きます」


 降って湧いた機会を逃すわけにはいかないと、ザンクは自信に満ちた目で私に応えた。私はそれに満足し、次の指示をロイドへと出した。


「ではロイドさん、外殻の換金とザンクから大金貨二十枚を受け取って私たちのパーティーの中級冒険者としての資格登録を進めて頂いても宜しいでしょうか? 王都に向かうにも身分が必要なので早めに手配を頂けると助かります」


「分かりました。そのように手配致します。マルカもそれで良いですね?」


「ええ、ですが一点だけ申し上げると『白銀』の皆さまは未だ魔獣の討伐数が最低限の十頭を超えていないのですが……」


 マルカは少し言いに難そうに言葉に出すが、私はそれに対して頷きつつも、それでは恰好が付かないとばかりに、彼女を言い含められないかどうか念のため試す事とした。


「そこは何とか融通を効かせて貰えると助かるのですが。私達の実力についてはコモドカナドールをまた狩るまでもないでしょう?」


 マルカは困ったような顔を見せながらも、最終的には渋々といった様子で手配を進める事に同意した。


「ザンク、最短で何日後に出発できる? 冬になる前に出来る限り王都へ赴きたいと考えているのだけれど」


「そうですね……でしたら最低三日程、時間を下さい。少しばかり厄介な案件を別で受けていたので、そちらをちょいと交渉する必要がありそうですので」


「ああ、それであれば構わない。もう少し此方もやるべき事がある。新たな中級冒険者としての公証を受け取る事が出来れば、ある程度時間を潰す目処も立っているしね」


「ありがとうございます。それでは三日後に出立するとして準備を進めさせて頂きます」


 そこからはロイドとザンクに処理を任せ、私達はマルタが手配する公証を準備する事となった。

 一時間もしないうちに更新された公証を受け取り、繁々と公証を私は眺めてみた。この二日間身に付けていた公証とは異なり、鉄であった材質がミスリル鋼に変わっていた。また、使用されていた魔石についても色が深緑色に変わっており、これが中級冒険者を示す証になるとの事であった。


「これで漸く、冒険者として王都に行く事が出来るか」


 私は今後の展望を見据えて一人呟いたが、それを拾ったミチクサが、「ロシュタルトに到着してから僅か三日目ですから、決して悪くはないと思いますぜ」と私の言い様に若干苦笑していた。


「ラクロア様、思いのほか順調に進んで何よりですね」


 スオウの言う通り、私達の旅路は順調に進んでいると言えた。諸々の警戒は想定内であり、我々を阻む程のものではない状況であり、至って自由が保障されている。


「ああ、今のところはね。引き続き気を引き締めていこう」


 その後は、素材換金の手続きを管理組合と行い、残金を受け取ると共に組合を後にした。


 外に出ると、空は既に夕方となり砦全体が黄昏色に染まっていた。中央に佇む、辺境騎士、魔術師達が住まう物見の塔へと眩しい陽射しが降り注ぎ、塔周辺を殊更朱色に染め上げていた。


 ロシュタルトの商業通りは、夕刻であっても人々は変わらず賑やかであり、至って平穏な光景が映し出されていた。


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