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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第二章 外界は如何にして存続しているのか
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龍を殺した者達 その2『尊敬と畏敬』

 

 変異種、特殊個体であるエルドノックスの討伐を単独のパーティーで成し遂げた『白銀』に対する評価は否応なく高まる事を、俺だけでなく冒険者管理組合もまた理解していた。


 流石に俺が報告を上げた際にマルカは半信半疑な様子であったが、朝になって彼等が討伐したエルドノックスを持ってくればその真偽がはっきりとするだろう。


 問題は、俺への依頼主に対する報告に有った。


「アッシュ、調査開始から未だ二日ですが、どうやら調査を継続できるような状況では無いようですね?」


 呼び出しに応じて、庁舎へと顔を出した俺に対して姿を見せたのはロムニスでは無く、ガードランド・ヴァイスであった。ロシュタルト砦における辺境魔術師として、砦全体の目を担う人物で有り、その優男のような風体からは及ぶべくも無く、魔術師としての腕は確かであった。


「ああ『白銀』が単独でエルドノックスを討伐しようとした際に俺が手助けをした。あれだけの実力を見せつけられた以上、俺達のギルドではもう彼等の調査を請け負う気はない」


 俺の言葉を聞いたガードランドは目を細めながら私の言葉を咀嚼していた。


「……それは君の冒険者としての矜持という事かい?」


「ああ、龍殺しに対しては最大の敬意を持つのが冒険者と言う物だ。いや、正論は止めよう、彼等が何者であったとしてもエルドノックスと彼等が出会ったあの時、俺はあいつらに……あの姿に惹かれてしまった」


 そう、『白銀』の魔術師、ラクロアの見せた実力に対して俺は魅せられてしまっていた。魔術師でありながら、戦士としてもエルドノックスを一刀の下に屠る実力、彼が何者であるのか、それは関係なく、戦士として、嘗て騎士を目指した一人の人間として彼に対して憧憬を抱いてしまった。


「そうか……貴方もまた戦士であったという事かですか」


「ええ、残念ながらそうなりますかね。俺としては辺境魔術師との関係性がご破算になるのは残念ですが、これでもまあ俺も冒険者って事ですかね」


 緊迫した空気がその場に満ちるのを感じながら、俺は一歩も退かずにその場でガードランドを見据えていた。


「なるほど、それであれば私達も横着するのを止めるべきでしょうかね。特異体のエルドノックスを個人で討伐する人間であれば、手段はそれなりに考えなければならないという訳ですか……いいでしょう、私も動くとしましょう」


 俺はその様子から違和感を覚えていた。そもそも、たかが魔術師一人に対してこれほどまで警戒感を抱く必要があると言うのだろうか。確かに『白銀』の実力は本物であったが、それは結果論でしかない。


「……あんたら、何に警戒をしている? 『白銀』の裏に何を見ているんだ?』


「残念ながら、それを今の貴方にお伝えは出来ません。今日のところはお引き取り下さい。もしも、何か不穏な気配を感じた折にはまた情報の提供をお願いしますね」


 ガードランドは極めて事務的な口調で答え、俺はその有無を言わさぬ様子にただならぬ気迫を感じ、この場を後にする以外に選択肢は無かった。



 私達がエルドノックスを討伐したという情報は思ったよりも早く砦内へと伝わっていた様であった。


 私達を監視していたアッシュ達冒険者から情報が組合へと伝わり、情報が拡散しているのであろう事は予測がついていたが、道行く先で声を掛けられ、その成果を祝福と共に迎えられた事は素直に驚きであった。


 しかし、そうした好奇を孕んだ視線とは別に、砦内に入ってからというもの、これまでの監視とは明らかに練度が違う、魔力感知が無ければその違和感に殆ど気付く事が出来ないレベルで尾行を行う監視者が私を見張っていた。


 今回のターゲットはあくまで私個人であるらしく、私は三人と離れる事でその監視者を誘い出す事としてみた。大通りや市場を避け、裏路地へと入り込み、完全に人の気配が無くなった事を確認してからその監視者を呼び出す事とした。


「僕に話があるんでしょう? アッシュさん、でしたよね」


「流石だな……砦に入った時から俺の監視には気付いていたな。あの時に見せた感知魔法を使っているのか?」


 私が声を掛けると、暫くして観念した様に男が顔を出して私の言葉に応えた。


 赤髪に涼しそうな目元、鍛えられた身体からはそれなりの技量を感じ取る事が出来る。魔力活性を抑える事で気配を集団に紛れ込ませ、他の三人には気配を気取られなかった魔力操作の技量からも、それなりに出来る手合である事は間違いなかった。そしてまた、彼がエルドノックスとの戦闘で見せた立ち回りも、冒険者としての熟練度合を感じさせるものであった。


「そうですね。今まで監視していた人達とは違い、明らかに魔力操作、尾行の動き、身のこなし、その全てが非常に高いレベルで行使、運用されていた。そうした点から考えると、監視者として動き回っていた彼等のリーダーと考えるべきですかね?」


「改めて自己紹介をさせて貰おう。『西方不抜』のリーダーのアッシュだ。準上級冒険者としてロシュタルトを根城としている。あんたを監視していたのは言うまでも無く魔術教会、若しくは魔法技術研究所に属していない野良魔術師としての危害調査だ。あんたほどの魔術師ならそれが意味するところは分かるだろう?」


「国に属さない強力な力を持つ者の管理、監視が目的という事ですね。依頼を出したのはこの砦に派遣された辺境騎士か魔術師あたりと言った所でしょうか」


「ふふ、話が早くて助かる。俺達はあんたらの経歴と目的を調査する事を依頼されて先日から監視を始めたが、変異種のエルドノックスを討伐するような連中と事を構える気は無いということを伝えに来たという訳だ。これ以上の詮索をするつもりも無い。寧ろ俺としては、冒険者として最大の敬意と賛辞を贈りたい。そしてお前達『白銀』とは龍殺しを生業とする者として友好を温めたいものだな」


「なるほど、賢明な判断ですね。しかし、良いのですか? 我々の経歴が分からなければ依頼主に対して真っ当な回答とはならないのでは?」


「俺達の心配は無用だ。それだけの力を持つ相手の出自なんぞは、ある程度限られるとでも考えているのだろう。情報網を駆使して奴等なりに探るだろうさ。奴らが何を警戒しているか迄は掴めなかったが、辺境騎士、魔術師が直接動き出す可能性がある以上、これまで以上に気を付けた方がいい」


「なるほど、情報にも感謝するよ。それであれば、これからは探り探られるような関係では無く、冒険者同士仲良く出来ると嬉しいね」


「はは。そうだな、くれぐれも敵対しない事を祈っている。一度、『白銀』の皆と共に酒場に顔を出してくれ、新たな龍殺しの誕生は、皆で祝うのがこの砦のしきたりだからな」


 アッシュはそれではと軽く私に手を振って裏路地から姿を消した。


 エルドノックスの討伐によってそれなりの実力を見せたことで逆に手出しが困難と判断してくれたようであった。


 問題はそれを辺境騎士や魔術師がどう判断するかであった。そしてまた、彼等が直接的に『白銀』に対して動き出すのであればその対策についても必要がありそうであった。


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