表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第二章 外界は如何にして存続しているのか
61/191

龍を殺した者達 その1『龍殺しを見た者達』


 夜が明け、改めて肉眼で捉えるエルドノックスの亡骸は、死しても尚圧倒的な存在感を誇り、ちょっとした小山のような様相を呈していた。


 その巨体をどの様に解体しロシュタルト砦まで運ぶのかを私達四人で役割分担と共に議論する事となった。


 如何に我々が猟師として解体作業に慣れているとは言えども、全長十二メートルにも及ぶ巨体を解体するのは骨がいる作業であり、ラクロア様もどうしたものかと頭を悩ませていた。


 一先ずは、四人でどうにかしてこの肉塊を砦前まで持ち込む事で合意し、組合へは切り落とした頭部を持ち込む事で討伐報告とする事にした。


 道中はラクロア様が戦闘時に編み出したと言う風魔法術式を使う事で、湿地帯を抜けるまで運搬する事とし、砦が近づいてから四肢を解体し、臓物を腑分けて順次砦前まで移動させる事にした。


 数時間を掛けて湿地帯からロシュタルトまでエルドノックスを運び終えると、その行脚は耳目を集め、人々から騒めきと共に迎えられる事となった。


 困惑と言うよりも、その騒めきは何処か色めき立つという言葉が似つかわしいような、奇妙な雰囲気を漂わせていた。


 エルドノックスを運んでいる間に検問を待つ業者集団含め、我々が運ぶ魔獣が龍種であると分るや否や、皆一様に一目見ようと、多くの人だかりが出来始めていた。


 そんな衆目を上手くいなしながら、私達としては、素材の盗人が出ないか等と言った余計な気を配らねばならなかった。


 暫くすると、城内にもエルドノックス討伐の情報が出回ったのか、城内からも見物人が次々と訪れては我々の『白銀』と言うパーティー名を尋ねると共に口々に龍種の討伐について祝福をし始め、我が事の様に喜び始めていた。


『白銀の皆さま、龍種の討伐おめでとうございます』


『エルドノックスの魔核は如何されるつもりですか? 是非とも商工会議所を通して流通させていただきたいものですな』


『ロシュタルトからまた龍主殺しが出るとは、ロシュタルト辺境伯も鼻が高い事でしょうね』


『新たな龍殺しの誕生に心から祝福を申し上げます』


 次々と降って沸いた言葉の数々に私は白黒しながら対応を求められていた。


 ミチクサやザイも握手を求められ、肩を叩かれ、皆から祝福の言葉を浴びて驚いている様子であった。


「皆様、これは一体どういう事ですか?」


 騒ぎを聞きつけたのか暫くすると管理組合のマルカ嬢が姿を見せた。


「エルドノックスを討伐した迄は良かったのですが、想像以上に巨体でして。荷車等もないので取り敢えず砦前まで持ってきてから考えようかとしていたところだったのですが、この有様でしてね……」


 私が持ってきたエルドノックスの頭部をマルカ嬢は見ると目を丸くした様子で、その個体の大きさを改めて確認していた。


「この大きさと岩のような外殻の厚さ、明らかに変異種の特徴を持っているようなのですが……確かにアッシュさんの報告と合致はしますね……。私、確かにラクロア様へはくれぐれも手出し無用とお伝えした筈なのですが……」


 マルカ嬢は『アッシュさんの言う事が事実だとは……どうしたものでしょうか……』とぶつくさ言いながら文句を垂れていた。


「マルカさん、因みにですが変異種かどうかの判別方法をラクロア様かザイに教えて頂いていましたか? そもそもエルドノックスとの遭遇が今回初めてでしたので我々に見分ける術が無かったのですが」


 マルカ嬢は私の疑問に対して、昨日の会話を思い返したのか、「あー……」と、しまったというような表情を浮かべると、私の白けた様子を感じてか、直ぐに申し訳無さそうな顔を見せた。


 そんな最中、更なる人集りが出来始めるとマルカ嬢は表情を元に戻し「す、すみませんが、組合へ直ぐに報告を上げさせていただきます」とだけ言い残し砦内へと戻っていった。


 見張りとして暫く待っていると、ラクロア様、ミチクサ、ザイがそれぞれ最後の肉塊を持ち寄り、改めて素材となる外殻や爪、角を剥ぎつつ、食用として美味であった部位について可能な限り採取を行う事とした。


 物珍しそうにしていた行商達も騒ぎが落ち着くに合わせ、暫くすると列へと戻って行った。


 朝方から初めた作業も、昼過ぎには何とか目処が付きそうな状況となり、休息を取っている間にマルカが何名かの管理組合の人間と共に再び戻ってきた。


「ラクロア様、今後の手続きについてなのですが討伐報酬及び、素材評価の為に人員を連れてまいりました。この後はお任せいただければ諸々の処理もさせて頂きますが如何でしょうか?」


 マルカ嬢はラクロア様へと素材の買い取りを組合に任せるのであればその後の処理を受け持つ旨を提案されていた。


「ええ、悪くは無いですが、念のため知り合いの行商にも連絡を入れても良いでしょうか? ラトリア出身のザンクという行商なのですが」


「なるほど、相見積もりを取ると言うことですね。分かりました、我々はそれで構いません。いずれにせよ素材鑑定は進めさせて頂きますので一先ず作業を止めて頂いて砦内へお戻りください」


「わかりました。後はお任せ致します」


 ラクロア様はそう言うと、後処理をマルカ嬢へと一任し我々と共にザンクを尋ね宿屋へと戻る事とした。宿屋の主人に話を聞くとザンクは商工会議所に顔を出しているとの事で、我々も其方へ向かう事とした。


 商工会議所は商業地区にある、冒険者管理組合の対面に位置しており中には入ると多くの行商が物品の納品や市場価格の確認、商工会を通した素材鑑定、売買契約書の作成等、様々な処理を行なっていた。


 ザンクは受付で何やら依頼確認を行なっていた様だが、何等か微妙そうな表情を浮かべると受付から離れていった。


「ザンク、今大丈夫かい?」


「ああ、ラクロアの旦那。どうかしたんですか?」


 ラクロア様はエルドノックスを討伐した事と、それに伴い素材鑑定を管理組合が行なっている旨を伝え、相見積もりについても依頼を行っていた。


「エルドノックスの変異種ですか。出回る素材の量も少ないですし、コモドカナドール以上に良い価格にはなるとは思いますが、一番高価な部位は魔力が宿る角ですかね。ある程度言い値になる気もしますが……わかりました、取り敢えず私の方でも見てみましょう」


 ザンクは我々の依頼を快く受け入れてくれ、夕方に管理組合で再び会う約束をして砦前へと向かって行った。


「我々はこの後如何しますか?」


「一先ずはやる事は済ませた訳だしね。個人的にこの商工会議所で何が行われているか気になるけれど、それはザンクに聞いた方が良いかな……。夕方の待ち合わせ迄は自由時間としよう。既に監視の目も今は無いようだけれど、三人は念の為固まって動くように。僕は昨日見れなかった市場や図書館を回ってみるよ」


 そうして一度解散し達は各々自由な時間を過ごす事とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ