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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第二章 外界は如何にして存続しているのか
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ロシュタルト侵入 その10『ロシュタルトに住まう者達』


私がラクロア様と共に、ミチクサ、スオウが待つ路面店の食事処へと向かうと、既に二人は先に到着していた。


 周囲に張り巡らされた監視の目を感じてか、二人とも普段と比べ少し落ち着かない様子が見て取れた。ラクロア様は二人の緊張感に対して普段と全く変わりの無い自然体のまま着席した。


「二人とも待たせてすまないね。一応共有しておくけれど、僕達には合計で六人が監視者付いているようだね。僕の魔力感知で確認が取れているから今は警戒はそこまでしなくて大丈夫かな。お昼でも食べながら調査状況を聞かせて貰いたいのだけれど、大丈夫かい?」


 ラクロア様はくだけた様子で監視者の視線を特に意に介さず、一先ずは昼食を取ろうと店先に立っている配膳係に店のお薦めを見繕って貰うように頼んだ。


「それで、市場はどんな状況かな? 物価とか、年齢層とか、どんな物が置いてあるか等、わかった事があれば一つずつ教えてもらっても良いかな?」


 先に配膳されてきた飲み物で喉を潤しながら、ラクロア様はミチクサとスオウに質問を投げかけ、それに先ずはスオウが答え始めた。


「干し肉と黒パンが三食分で小銅貨五枚、野菜は物品によって異なりますが一食分で小銅貨二枚と言ったところでしょうか。我々が狩猟用に使用していた麻痺毒用の薬草等は一束で大銅貨一枚とやや値が張るように見えますが、これは普段は私が大森林で自ら調達している分、そう思うのかも知れません」


 スオウの次に今度はミチクサが情報を共有し始めた。


「市場で見かけた者達の年齢層は二十代前半から四十代後半が多い印象だったな。ガキや、爺さん婆さんの姿はあまり見かけなかったな。冒険者だとか、何等か砦内で仕事をしているような連中が多かったように見えるな。行商もかなりの数出入りしているところを見ると、出稼ぎが目的の連中が多数なんだろうよ」


 それを聞いたラクロア様は頷きながら、ご自身で調べた情報を加え二人に共有した。


「ありがとう、そした物品の取引価格については今後他の村や街を回る際の一応の目安としておこう。今の話に加えてこの砦の宿代が食事無しで小銀貨二枚、馬車による移動が一日当たり小銀貨六枚という話だった事からしても、魔獣討伐は稼ぎ方としては真っ当な気がするね。行商の出入りが多い事からしても恐らくは食料品の供給について基盤が確りとしていて、一般的な相場に近い流通価格なのかも知れない。そうすると、付加価値の高い工芸品だとか、何等かの道具、特に武具なんかは少し値が張るのかもしれないね」


 スオウが、ラクロア様の疑問に同意を示した。


「ええ、その様です。鉄製の長剣が大金貨二枚、同じく鉄製の鎖帷子が小金貨八枚なので、食料品等と比べてもそうした傾向はあるのでしょうね。特に魔獣の素材を使用した鎧等は大金貨八枚の値が付いていましたから、加工技術や性能の高い道具に対してはそれなりの値段が付いていると考えて良いのでは無いでしょうか?」


「なるほど、それは良い情報だね。魔獣の素材に何等か加工を施して最終製品は難しいかもしれないけれど、例えば、僕らでも何等か半製品を作ることができれば単純に素材を売買するよりも高値で売り捌く事も出来るかもしれない。この辺りについて今後情報収集しながら最終的に集落に帰って検討するのも悪くないのかもね」


 私は驚きと共に、その内容を受け止めていた。ラクロア様の今回の目的は市場の状況を読み取って効率的に金策する方法を考える事に有るのかと思っていたが、それだけでは無くタオウラカルにおける新たな交易についても視点を持っていた様であった。


 十歳になったばかりの少年の目にこの世界がどの様に映っているのか、私には到底理解が及ばない世界がそこにはあるようであった。年齢にそぐわない知性が煌きを見せる度に、その幼い瞳に移る蒼い虹彩を薄ら寒く感じてしまうのは私だけだろうか。


(この人は一体どれだけ先を見据えているのか……)


 話の途中で店の奥から料理が運ばれてきた。木製の器と皿に盛られていたのは煮立ったスープと、塩茹でにした芋、腸詰の肉、そして半切れのパンであった。


 ラクロア様は食事の内容を見ながら、何とも言えない表情を浮かべると、芋にフォークを突き刺した。


「食事については正直なところ特段美味いとは言えないね。単純な調理が多い様だけれど、皆そんなに気にしてないのかな」


「余り調味料の類を見なかったので、食生活の違いかと」


「まあ、俺は十分に食べられるだけ有難いがな」


 三者三様の反応に私は少し愉快さを感じ、先ほど覚えたラクロア様への畏怖に近い感覚を払拭すると共に、彼らと同じく食事に手をつける事とした。しかし、想像以上に人に見られながら取る食事というのは気持ちの良い物では無かった。


「食事が不味いのは監視の目があるからだろう。気になって仕方がない」


 私がそういうと、ミチクサはそれを一笑に付した。


「ザイも意外と敏感なところがあったんだな。俺は大して気にならんがね、来るなら何時でもやってやるだけよ」


 ラクロア様は硬い黒パンを噛みちぎり、スープでそれを流し込み咀嚼し終えると、私を見ながら頷いていた。


「確かに煩わしさはあるね……。この後は沼地へ出掛けて魔獣狩りの準備をしようと思っていたところだから、もしもそこまで追ってくる様であれば此方から誘ってみてもいいかも知れない。どうやら僕が魔術師であるという事が問題の根底にあるらしい事もあるし、彼等がどんな情報を求めているのか知る事も重要ではあるからね。食事を終え次第、動くとしようか」


「ああ。何時でも動ける用意をしておこう」


 ミチクサとスオウも私に同意し、一先ずは昼食を済ませる事とした。



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