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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第二章 外界は如何にして存続しているのか
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ロシュタルト侵入 その4『徽章に刻まれし魔獣』


 その後、コモドカナドールの鱗等、幾つかの素材の査定依頼を行なっている間に組合に登録された冒険者としての公証が発行された。


 公証の見た目は首から下げる首飾りとなっており、鉄製のプレートに埋め込まれた魔石の色によって階級が判断出来るようであった。


 それなりに凝った意匠をしており、魔石を彩るようにしてプレートに刻まれた龍を誅する騎士が描かれた紋様は冒険者管理組合アルカディアを表す象徴であるとの事であった。公証とは即ち所属を示す徽章の事であった。


「龍を討伐する騎士の姿か、象徴的と言えばそうなのかもしれないね」


「はい、龍討伐は冒険者にとっては最大の誉と言われておりますからね。魔獣の中でもその危険度は最も高く、それ故に龍殺しは最大の賛辞を以て迎えられるのが過去からの習わしとなります。ロシュタルトにおいても龍種との交戦は幾度も記録されており、この辺境に上級冒険者や準上級冒険者が往来するのもそうした理由があります」


 マルカは熱の籠った言葉で公証に刻まれた文様の意味を私に解説していた。


「なるほどね、確かにそれであればここに刻まれる理由も納得がいくね。冒険者が手早くその名声を得ようとするのであれば、龍殺しこそが最上という訳か」


「はい、冒険者管理組合においても龍種の討伐については懸賞金を懸けておりますので、複数のパーティーが強力し龍種討伐を行う事も珍しくは有りません」


 私は嘗て、グリム達と魔石鉱山にて見たエルダードラゴンを思い出していた。魔族程に強くはないとは言え、龍種と言う魔獣が放つ圧倒的な存在感は見る物の目を奪う。強さと美しさ、そして残虐性を兼ね備えた魔獣討伐を人が求める理由も少しわかる気がしていた。


 騎士と龍の物語は人族の中でも好まれる傾向があるようで、トリポリ村においてもそうした書籍を幾つか見つけた事を思い返していた。


 鈍色に光る金属板に描かれた騎士と龍の姿は、確かに人族が望む物語性を雄弁に想起させるに足る輝きを放っているように見えた。


「確かにそういう物かもしれないね」


 私は公証を暫くの間じっと眺めていると、マルカは少し痺れを切らしたように急に幾つかの質問を私に投げかけ始めた。


「ラクロア様はちなみにどちらで魔法を習われたのですか? 恐らくは高名な魔術師に師事されたのだと思うのですが?」


 その内容は私達の素性を探る物であり、彼女には悪いが口を割る訳にもいかなかった。目を輝かせながら尋ねるあたり、恐らくは彼女の個人的な興味であったのだろうが、私も素直に話す訳にはいかない。


「ふむ、それは難しい質問ですね。冒険者にとって過去と言うものは余り表に出したくないものですからね……。因みにマルカさんはどなたに師事されたのですか?」


 私は回答に対して明確な拒否を示すと共に、彼女の素性について逆に尋ねる事とした。人に物を教える人物であれば、それなりに名が通っている可能性も有り、今後何等か協力者を見つけるにせよ、有力者の名前を手に入れるのは重要であると考えての事であった。


「マルセイ・アーラ様です。王都にて私塾を開かれておいででして、其方に十二歳の頃から六年間、師事させて頂きました」


 アーラ、と言えばノクタスの家系では無かろうかと思い当たり、ノクタスとの会話を思い返すが、よくよく考えると、過去に幾度かそうした話をしたが、うまい具合にはぐらされてしまい、結局私はノクタスの出自を私は深く知らなかった。


 しかしながら、彼がそうであるようにアーラ家は一族として魔法の素養に優れているのかもしれなかった。ノクタスが嘗て王都から逃亡した経緯と、その結果がどの程度まで彼の家に影響が出たのかは不明瞭であった為、私は念のためマルタに対して鎌をかけて見る事とした。


「アーラ家の方々は未だに王都にいらっしゃるのですね?」


 マルタは何処となく、労しいとでもいう様な表情を見せながらに同意を示していた。


「ええ……あれだけの才能を持ちながらにして前回の政変時に逃亡を謀ったノクタス・アーラ様のせいで一族郎党、魔法技術研究所並び、王立魔法教会における近衛魔術師としての地位は剥奪されてしまいましたが、未だアーラ家によって輩出された魔術師が王都には多くおりますので、結果としてはどの機関においてもアーラ家を無碍には出来ないのでしょう。汚名を注ぐ機会を兄のマルセイ様が三男のアレクサス様と共に待ち焦がれている事でしょう」


 ノクタスの兄であるマルセイもまた有能な魔術師でありながら王都で燻っているという事を知り、私はこの件が思いの外根が深そうな話題である事を察した。それであれば、これ以上の掘り下げは不要であると私は話題を逸らす事とした。


「我々もそのうちに王都へ向かおうと思っているのですが、ロシュタルトから向かおうとするとどの様に行くのが一番近道でしょうか? 地図があれば欲しい所ですね」


 マルカは周辺地域における詳細な地図は軍事的に機密事項扱いとなり、道中が詳細に記載のあるものについては取り扱いが無いとの事であった。


 大まかな位置関係を表した地図は冒険者用に購入する事が出来るとの事であり、大銀貨三枚との事であった。私は査定中の素材から差し引くようにお願いするとマルカはそれを快諾してくれた。


「それでは、こちらとなります」


 マルカはすぐさま受付の引き出しを開けて、丸められ、紐で括られた羊皮紙製の地図を手渡してくれた。私は早速地図を開きながらマルタに王都までの道を尋ね、彼女の持つ情報の中から幾つかのルートを入手する事が出来た。その中でも定期路線として荷馬車で人を運んでいる道があるとの事で、念のために詳細を聞く事とした。


「そうですね、早馬を飛ばしても三十日は掛かる道のりですので、先ずはラトリアへ向かい定期便を乗り継いで行かれるのが確実かと思います。確かに他のルートと比べ、二ヶ月程度と半月以上は時間が掛かりますが道中の安全性を含めるとこちらの方が確実性は高いですね。まあその辺りは冒険者の皆様にとっては不要な心配と言われればそれまでなのですが」


 荷馬車の定期便については食事付きで一日当たり、小銀貨六枚程度が相場との事であった。未だ貨幣感覚が掴めていない私にとってはその高い安いは判断しかねるものがあったが、少なくとも四人の往復で大金貨二枚と小金貨九枚が最低限必要であるとの事が理解できた。


 しかしそれに加えて道中に必要となる日銭も含めてどの程度の纏まった金額が必要となるかは確りと確認せねばならず、素材の査定が終わり次第、城内における物価を先ずは確認する必要があると考えていた。


 そうこうしているうちに査定も終わり、コモドカナドールの鱗四頭分で大金貨一枚と小金貨二枚との事であった。相場の二割増でこの金額であればザンクの言っていた金額は相場よりも割の良い提案だと言えた。


(なるほど、そう言った意味でザンクは信用のおける行商とも言えるか)


 行商と言う存在が張り巡らせる情報網がどの程度の物であるのか、私は未だ判断は付かないが、少なくとも、この見ず知らずのスペリオーラ大陸において、何にせよ信頼のおける人間との伝手は常に保っておくのが賢い選択肢と言えるだろう。今後の活動における物資の確保、定期便の手配等含め、彼という存在は極めて有用に働く可能性が高い状況であった。


「ありがとうございます。そろそろ別に用事に向かわないと行けないので、今日のところはこれで切り上げさせて貰います」


「はい、皆さまのご活躍を心からお祈り申し上げます。


 今ではすっかりと丁寧な対応に変わったマルカに別れを告げ、早速我々はザンクと待ち合わせてとなる宿屋へと向かう事とした。


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