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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第二章 外界は如何にして存続しているのか
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三人の狩人と魔力

 

 タオウラカルに来てからと言うもの、ミチクサ、スオウ、ザイと四人で狩猟を続け、私自身も魔獣の行動様式からの追跡を彼等から学んでいた。


 私が魔力感知と魔翼による狩猟に慣れ始めた頃、冬を越す為の食料が十分に蓄えられた事をスートラから伝えられ、漸く情報収集の為に旅立つ準備が出来たと言えた。


 狩猟の合間を縫っては、集落における衛生環境の改善、作物の栽培、幾つかの魔法器具の設置等、仕事に暇は無く、毎日が忙しなく過ぎていた。


 更にはミチクサ、スオウ、ザイの三人は魔力操作について私に師事を求め、数ヶ月の短い期間ではあったが彼等に特に身体操作に纏わる魔力操作方法を訓練する事としていた。


 具体的な技術における限定的な情報開示についてはノクタスとも相談しつつ決定する事としていたが、一度魔力操作に目覚め、その運用と今後の旅を考えれば、ある程度の開示は必須と言えた。


(とはいえ、効率を考えると、魔法術式の習得は時間が掛かるか……)


 元々が猟師として育ってきた三人にとっては魔法技術理論の素養は現状無く、それを一から学ぶよりも覚えてしまえばある程度感覚的に魔力を使用可能となる肉体強化の方向へ舵を切った方が効率が良いとも言えた。


 とは言えこれまで魔力について知見が全く無い三人に対して、魔力における身体操作を言語的に伝えるのは骨が折れる事もあり、先ずは三人に視覚的に魔力が見えるようになる様、私の魔力を介して身体に内在する自分自身の魔力、つまり『オド』を感じさせる事とした。


「先ずは体内循環される魔力を意図的に操作する感覚を掴めるまで訓練を続ける事とします」


 私がそう言う傍らで三人は緊張した面持ちで私の言葉を聞いていた。


「流石に緊張しますね……」


「害は無いので大丈夫。後はどれだけ早く慣れるか、かな」


 先ずは私からスオウの肩に手を置いて直接魔力を送り込むと、スオウはその身に受けるエネルギーの流れを確かに感じたようで、驚きの声を上げた。


「これが魔力ですか……」


 スオウは目を瞑りながら身体を循環する私の魔力に感覚を研ぎ澄ませながらその流れを追っていた。


「いいね。もっと隅々まで魔力を行き渡らせるように意識を集中しよう」


 次に自身の魔力を検知出来る様に身体の隅々まで意識を伸ばし、自然循環している魔力を捉えるように指導を続けた。


「目を閉じて、全身の血の流れを感じて。脳、心臓、内蔵、四肢の隅々まで意識を張り巡らせて下さい。その中で先程と同じ様な魔力の感覚を覚えたら、自分の掌へと誘導する様に集中してみてください」


 スオウは額に汗を滲ませながら集中力を高め、明らかに魔力の存在を掴み掌に魔力が集中しているのがみて取れた。


「良いですね。目を開けてみてください、私にもはっきりと魔力が集中しているのが見えます」


「これが私の魔力……」


 次の瞬間、スオウの集中が乱れ、掌に集中していた魔力は霧散する様に再びスオウの体内へと散って行った。


「上出来ですよ。確りと魔力を掴む事が出来ていました。もう一度やってみましょう」


 その後ミチクサ、ザイに対しても同様に訓練を行ったが、魔力を掴む感覚と言い、三人の上達速度は想定していた物よりも著しく早い物であった。


 それが単純なセンスの問題であるのか、それ以外の要因が有るのかは不明であったが、彼等の魔力操作の訓練を続けるうちに内在する魔力量についても一般的な人族の魔力量よりも多いように見受けられた。


 仮説の一つとしてそれが魔力を多量に持つ魔獣を食している事に関連するのかとも思ったが、現時点で真偽は不明であった。しかしながら村における食料事情と比べた際に明らかに、魔獣を食する比率が高い事が何らか影響を与えている可能性は十分に存在していると言えた。


(魔獣から魔力を取り込んでいるとすると、それはオドでは無くマナとなる筈だが、長年の食生活によってタオウラカルの民その物が生物的な変化をしているとするとそれは少し面白いかもしれないな)


 詳細の研究や統計を取るにしても、設備もなければ数も足りない、そう考えると無駄な思索の可能性はあったが、頭の隅には入れて置く事とした。


「次は魔力を用いた戦闘訓練です。取り敢えず、三人で私に掛かってきてください。全力で構いませんので」

 

 ミチクサは大剣を、スオウは双剣、ザイは弓を構え、魔力を集中させながら私と対峙する姿は、思いの他、様になっていると言えた。


 三人の戦闘技術は奇妙と呼んで差し支えの無い程に洗練された物であった。狩猟民族でありながら対人戦も想定された動き、そして複数人で連携を取る事を想定した動きの中で、その戦闘技能は卓越した才が有る事を感じさせられるものがあると言える。


 幼いころからそうした訓練を積み重ねてきたと三人は語っていたが、それだけに魔力操作技術が追い付いていない事が残念でならなかった。


「徐々にですが、魔力って奴の感覚が分かる様になってきたように思いますが、旦那から見て如何です?」


 しかし、二ヶ月も基礎訓練を行うと、ミチクサの言う通り徐々にではあるがある程度の魔力操作を三人共に行うことが出来る様になり始めていた。


「凄まじい成長速度だよホントに。正直、僕よりもコツを掴むのが早いんじゃないかな?」


「ふふふ、我々はタオウラカルの腕利きであれば、さもありなん」


 普段無口なザイも饒舌な当たり、自分自身でもその成長を実感しているのだろう。


「とは言え、まだまだ先は長いよ。戦闘で無意識レベルで使えるようになって漸く半人前だからね」


 未だ普段彼等が見せる狩猟や戦闘時における通常の動きに合わせて魔力操作による完全な身体強化を行うことは出来ていなかったが、恐らくはもう半年もすればそうしたレベルの領域に辿り着ける可能性は十分に感じられる程の成長を見せていた。


 スペリオーラ大陸で何が起こるかが分からない以上は最低限の力は身に着けておく必要がある。ある程度は私自身が彼等を護る事が出来るとは思ってはいるものの、可能な限り各個人で自衛が出来る事に越したことはない。


「ラクロア様は中々に手厳しいですね。ですが、それであれば励む以外に選択肢はありませんね」


「ふふ、期待しているよ。大丈夫、三人ならできるよ」


 取り敢えずは戦闘における防御手段として最低限攻撃を受けられる様に、組み手を通して彼等自身の身体にその動きを教え込むことしか出来なかったが、今後一緒に旅を続ける内に上達する可能性に期待する事とした。


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