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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第二章 外界は如何にして存続しているのか
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外交と利益、そして共存

 

 二ヶ月もすると、タオウラカルに対する最低限の援助が終わり、今後の交流に関する取り決めを漸く進められる段階となり始めていた。


 集落にはノクタスや、サウダース家のロイと言った面々が顔を出し、スートラと巫女であるサルナエとの間で協定を含む様々な議論を交わす段取りとなった。


「残念ながら我々も幾つか制約のある身ですから、全てを詳細に語れない事は心苦しくはありますが、この魔大陸の外、スペリオーラ大陸における情勢がどの様になっているのか、情報が欲しいと言う事は事実です。ラクロアから既に聞いていますが、三人程情報収集の為にラクロアと随行いただけるとの事でしたので、狩人がいない間の食料支援は先ず第一にお約束しましょう。今後につきましては、例えば何か民芸品等、タオウラカルにおいて何等か商材となり得るものがあれば物々交換か貨幣による取引が可能です。もし、沿岸部の村落と交流があれば塩等の調味料も是非、交易の商品として頂けると助かります」


 ロイはすらすらと言葉を並べ立てると、集落との交易で何か取引が可能な物がないか早々にスートラへと尋ね、可能な限りタオウラカルを活用する腹積りのようであった。

 それは同時に、何等か利益となる部分が無ければ継続した食料の支援等にも差し障りがあると言う事と同義であった。


「食料支援については大変助かります。稼ぎ頭の若者三名となれば、我らが集落にとっては痛手であるのは間違い無いですからな。交易品についてですが、塩はいいですな。我々は常日頃から漁も行い、冬に向けた魚の保存に塩を大量に用います。支流を五日も下ると沿岸部に着きますので、定期的に塩の調達が出来るのです。年に数度、魔獣の肉や毛皮と交換に大規模に海沿いのハンナバルルと言う村で取引を行なっていますので、数量をお伝え頂ければある程度調達は出来るかと思います」


 スートラもトリポリ村が望む物品を供給出来そうであると感じ、少し安堵した様子を見せながらロイへと答え、ロイもまた満足気に頷いていた。


「後は定期的な会議を設けたく。通信手段についてはノクタスからご説明を申し上げます」


「現状、我々への連絡手段が無い状況ですからね。双方いつでも連絡が取れるように、この魔石をスートラ殿と、サルナエ殿にお渡しいたします。魔法術式を刻んだものですので、魔力を込めれば応答が可能となります。見たところ、この集落で魔力操作を行えるのはお二方のみのようですので」


 ノクタスの説明に二人は少々驚いているようであった。


「何故我々が魔力を扱えると?」


「一度魔力操作を覚えた者には身体の内部を巡る魔力に特徴が出るのですよ。完全に閉じられていた蓋が、いつでも使えるように開けられたままとなっている。そんなイメージでしょうか。ある程度の魔術師であれば判別は容易でしょうからね」


 ちら、とノクタスは私へ視線を移した。確かにノクタスの言う通り、二人はミチクサやスオウ、ザイとは違い明らかに微弱ではあるが魔力が体内から体外へと漏れでいるのが見て取れる。決して練度は高くなく、そう言った術を身に付けて生れてきた。そう言われた方が納得感がある動きである。


「なるほど。確かに巫女の一族に特有の力があるのは確かです。そうした素養があるのも事実でしょうな。しかし、この集落では長らく魔力や魔法を扱う者はおりませんでしたので、少しお力添えを頂く事になるかと存じます。魔力は往々にして魂を損ないますからな……、深冥の戦士以外が軽々に用いるものではないと考えておりましたが、集落の為を思えば致し方ありますまい」


 宗教上の理由、とでも言うのだろうか。村長であるスートラは少し魔法技術に対して気遅れしているようであった。魔力が魂を損なうとは、妙な言い回しであると感じ、ノクタスを見るがその表情は至って平静でありこれといった情報は得られそうになかった。


「……いいでしょう。その点は私が請け負いましょう」


 その後は極めて事務的な会話が続き、やがて焦点は私がいつスペリオーラ大陸に向けて出発するのかと言う事に当てられた。


「ラクロア殿は三人を連れての出発はいつ頃を考えていますか?」


 スートラは私に向き直り、今後の予定について尋ねてきた。私としてはいつでも問題は無かったが、タオウラカルの民としては秋の今のうちに食料を可能な限り貯蔵したいというのが本音のようであった。


「秋が終わらないうちにはと考えておりますが、今は食料の貯蓄が重要でしょうから。私も狩りに参加させていただき、早々に備蓄を済ませてしまいましょう。それに我々の内部でも具体的な案を練り上げる必要があるようですから、暫くは猶予が有るかと存じます」


 スートラはこの提案を素直に喜び、ノクタスやロイも私の申し出に意見をする事は無かった。


「それでは、あの三人の狩り同行されるのが宜しいでしょう。暇があればあの三人を是非鍛えてやってください。戦士としてもやがては冥王に仕える身であれば彼等も喜ぶでしょう」


「冥王、ですか……。それはあなた方、タオウラカルの民における信仰対象と言う事でしょうか?」


「ええ。冥王とは魂の回廊の主人にして守護者。彼の者によって魂は穢れを落とし無垢なる者へと昇華される。タオウラカルからの古い言い伝えとなります。我々は常に冥王の恭順者として生き、そして死ぬ。それが世の理であり、生命であると信じております」


 きっぱりと言い切るスートラに対して私は彼等の信仰に対しては特に口出すする事はせず、私はそれを受け入れる事とした。


「ありがとうございます。私はそうした信仰には疎く恐縮ですが、我々にとっても貴方の神が友好的である事を祈っております」


 ノクタス、ロイはやや複雑そうな顔を浮かべたが、それ以上何か言及をする事は無かった。

 

(少なくとも、私個人に対しては友好では無かったな……)

 

  私は嘗て冥王と相対した苦い記憶を思い返し、目を細める他なかった。


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