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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第六章 そして人は如何にして宥和政策を理解したのか
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人の世を治める者達 その2

 皆が、玉座の間に集まると、既にカルサルド国王は玉座にしては簡素な装飾の長椅子に腰掛け我々を迎えた。本来身分の低い者達が先に参集し、国王がその後に入室するのが習わしであっただけに、皆少々驚きはしたが、私としてはこれが二度目であり、さして驚くことは無かった。


「カルサルド陛下、ご機嫌麗しゅうございます」


 念の為アストラルドを筆頭に皆が最敬礼を行うと、王はそれを手で制した。


「今は時間が惜しい。率直に現状の確認を報告し、今後の方策を練りたい。アストラルド魔導士、そしてザラツストラ騎士団長を呼んだのもそれが目的である。早速頼めるか?」


 アストラルドは王の言葉を聞くと頷き、即座に現状について報告を始めた。


「それでは私から失礼致します。王都の魔法設備の稼働率は約二割まで回復しております。娯楽施設や街道の照明、移動用の魔法術式陣等、主要と思われない箇所については引き続き閉鎖すると共に、今は診療所、病院、と言った重要機関と、農作物に掛かる生活基盤を支える術式陣を優先して稼働させております。かの魔族の襲撃に際し寸断された一部地域の上下水道もこの三年でどうにか復旧までこぎつけましたが、魔力資源が足らない状況が続いております。ガイゼルダナンから緊急用の魔石を調達し急場をしのいで参りましたが、魔石発掘数量も上限がある為、現状の供給量ではこれ以上の回復は難しいでしょう。魔族共が魔力炉を破壊し尽くした影響は甚大と言えますな」


 客観的な報告に絶妙に魔族が原因として添える当たりが抜け目ない。公式では魔法技術研究所の作成した召喚魔法術式によって呼び出された召喚獣の暴走ではなく、突如として王都を襲った魔族による影響によって王都が半壊した事となっていた。


 アストラルドからの報告が終わると、ザラツストラがその後を引き継いだ。


「王都の治安状況については私からご説明申し上げましょう。王都内における近衛騎士は健在ですので、王都全体では治安悪化はさほど起こっておりません。しかしながら国教会の総本山であった西部区画が国教会内紛と相まって荒廃を辿っており、残念ながら王都内で身内を失った者達が難民キャンプを作り共同で生活を送っておりますが援助の目途は立っておりません。各地域における魔獣の活動状況は辺境騎士からの報告によると三年前と比べ活性化は徐々に抑えられ、例年並みと落ち着いているようです。魔獣駆除の為に王都から緊急派遣していた近衛騎士達も徐々に王都内に集結しつつありますので、後数ヶ月もすれば王都の警備体制も通常時に戻る事となるでしょう。一方で、ロシュタルト方面への近衛騎士の派遣については、今一度検討中となります。辺境騎士及び、一部の上級冒険者がメライケ大森林の警戒を行っておりますが、今のところ大きな変化はないとの事です」


 ザラツストラの報告通り、王都の西部地区は国教会の内紛と始祖の獣と呼ばれた召喚獣の攻撃の余波に曝され荒廃しつつあった。国教会の生き残りは病院や診療所等の設備に常駐する事となり、本部に残る者は殆どいなくなっていた。教皇派を扇動していた者達の殆どは処断され、結果として派閥に属していなかった者や、地方に派遣されていた者達が王都に呼び寄せられ何とか機能不全を起こさずに王都における国教会運営を行っていた。一方で、各地方では国教会の運営する診療所が閉鎖される等と影響は色濃く、不平が溜まりつつあると、各方面から報告が上がっており影響は甚大であった。


 確かに何等かの大掛かりな感染症等が起これば人口の減少は避けられないと私が領地から受けた報告書にも挙げられていた事もあり、自助努力含め衛生処理及び、ベルディナンド家が囲う国教会式の治療魔法術式を持つ魔術師達は領地において極めて重用されていた。


 その他にも、始祖の獣の影響か、それとも魔王が現れた事の影響か、魔獣の活動が活発となり、各地で被害が拡大していた。これにより王都の常駐兵士だけでなく、各地方の辺境騎士及び近衛騎士までも派遣される事態に発展した。迅速に対応を行った、王国兵及び騎士団であったがこれが落ち着くのに二年と時間が掛かったのも無理のない話であった。それまで、魔族からの干渉が一切なかったのは不幸中の幸いと言えた。


「ふむ、魔力資源における影響は甚大であるな。ジファルデン、商工会議所を通した魔石買い付けの状況はどうか?」


「はい、アストラルド殿の言う通り、現状ガイゼルダナンでの取引数量の九割近くを王都向けに買い付け王都における各設備の維持に回しております。現状維持は暫く出来たとしても、これ以上の魔石供給は難しいと判断せざるを得ません。西方のガイゼルダナン魔石坑道においても魔獣の出現率が上昇した事も魔石供給の能率を上げる妨げとなっております。近衛騎士、辺境騎士の活躍もあり、一時期よりも採掘の能率は上がりましたが、そもそもの埋蔵量にも限度が有り、多くを望むべくもないでしょう。早急に魔力供給の為に代替案を策定するか、若しくはそもそもの都市における魔力供給の優先度を再度策定し直す必要があるかと存じます。幸いにして食料供給については地方都市含め、稼働率にそこまで影響は出ておらず、餓死者の心配は有りませんが、今後王都において農作物への魔力供給が制限されるような事があれば食料の買い上げが必要となりますので、その分国庫を圧迫する可能性が挙げられるでしょう。王国内の流通網において軒並み能率が下がっている現状、税収にも影響が出ておりますので、魔石の買い上げを継続している現状で既に税収と比べ支出の方が大きく、四年もすると完全な赤字財政となるのは明白な状況です」


 ジファルデンも現状の把握については十分過ぎる認識と危機感を持っていた。国民の生活の質を落とすか、さもなくば強制徴収による圧政が始まる。影響を直に受けた王都以外の公、伯爵は如何に国王を指示していたとしても内心では良い顔をしないだろう。それどころか反乱すら画策する可能性も危惧される。アストラルドもザラスツトラも内政の維持が可能と見れば国王の首を容易に差し出す事は想像に難く無い。こいつらは『国』は守るが『王』は守らない。


「ふむ、其々の話を整理すると、ガイゼルダナン単体からの魔石の供給は持って三年、その間に対応策が打てなければ王都の魔術技術のレベルを下げる事になるか、それとも王都の機能維持を行う為に強権を発動するか否かというところか……いずれにせよ、魔族との胸襟を開いた交渉が必要な状況は変わらずか」


 その言葉にジファルデンが即座に反応を見せる。


「陛下、今に至ってはメライケ大森林及び、クライムモア魔石鉱山の確保が優先かと。既にシャルマ殿が現地との交渉を開始しており、魔石の流通も開始されればもう暫く時間を稼ぐ事はできるでしょうな。問題は緩やかな停滞を受け入れる必要があるという点です」


「しかし、鍵を握るのがガイゼルダナン家とはな……。よかろう、それであればシルヴィアよ、お主も早急にメライケ大森林へと入り、状況の確認を行うが良い。アレは、お主の兄弟であれば手心もあろう」


 カルサルド国王は元々決めていたとでもいうかのように、私に勅命を下した。それは魔石の流通を握り込むガイゼルダナン家への牽制は勿論であるが、魔族との関係性の構築についても深堀を求めていることは間違い無い。最終的には魔王やそれに連なる者達との会談の場を設けることが最終的な目的である。


 カルサルド国王の言動をアストラルドも、ザラツストラも面白くなく感じているだろうが、今はそれを無視せざるを得ない。


(全く、この期に及んで権力というものは厄介なものだな……)


 私は改めて、自由に生きることの出来るラクロアを羨ましく感じていた。

 

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