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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第五章 世界の成り立ちを僕たちは未だ何も知らない
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聖戦と呼ばれる戦い その6『半人半魔と近衛騎士団 -Ⅱ』


 その魔法結晶体と言う名の獰猛な刃は、それぞれが意志を持つかのように自律的に完全同時に騎士達の猛攻を制圧する武器と化して猛威を振るいだした。縦横無尽に駆け巡る魔翼の刃と、それとは別に延々と発動し続ける雷撃の槍に晒される騎士達の顔は歪み、拮抗する合間に彼等の潜在魔力は急激な速度で消耗を強いられていた。


 しかし、近衛騎士の強さは伊達では無かった。正確無比に襲い掛かる少年の攻撃に対して近衛騎士達は徒党を組みながら、連携を取り、攻撃をいなし続けていた。一瞬でも対応を間違えば自らの命を刈り取る死の奏者に対して、彼等自身が持てる限りの技術を持って凌ぎ、削り、抗い、誰一人欠ける事無く戦線を維持し続けるその技量は熟達した者達の成せる業であり、人の辿り着いた戦闘技術の一つの到達点とすら言える、逸脱した者達のみが織りなす戦いの極致にあった。


 しかし、それだけの攻防を繰り広げながら少年は自らの損耗等が一切皆無であるかのように、先ほどの威力とは比べ物にならない威力を誇る閃光爆発魔法(フェルドバースト)を再度構築すると、サンスーシールが張り巡らせた魔法障壁を一撃で瓦解させた。


「ふむ、このままでは突破されるか。サンスーシール、少しばかり動かざるを得んな」


『よかろう、術式の発動に些か時間が掛かる事になるが、先ずはこやつを止める事が先決であろう』


 少年は徐々に戦線を押し上げ始め、既にザラツストラとの距離はあと僅かであった。しかし、眼前に迫る死の暴風を目にしてもザラツストラの表情が曇る事は無かった。


『宝剣開帳。ラニエスタ・ランカスターの一振りを持って敵を穿つ。魔剣“タフトクロノース”』


 ザラツストラが吠えると共に、魔剣は黒色の微細な光を放ち、魔力を収斂させ始めた。その魔法抗力は恰も転移魔法の際に起こる空間を歪める現象と酷似しており、ザラスツトラは腰を深く落とし、腰だめに構えた魔剣へと更なる魔力を込めると共に、目の前に存在する物体全てを切り裂くかのように万力を込めてその魔剣を振り抜いた。


 その刹那、黒い閃光が瞬きすら許さぬ速度で少年と騎士達の合間を駆け抜けた。


 黒閃は意思を持った生き物のようにザラツストラの視界に入る魔法結晶体と雷撃の槍を完全同時に何ら抵抗を許すことなく弾き飛ばし、更にその先に存在する少年の魔法障壁にもけたたましい音を上げながら確かに痛烈な衝撃を与え、その鉄壁の障壁に僅かな、されどこの場では十分な亀裂を奔らせた。


 少年の動きが止まった僅かな一瞬。その瞬間をその場に居た全ての騎士が待ちわびていた。刹那の間隙であったとして、人の頂きに君臨する近衛騎士達が見逃す事は有り得無い。


 彼らはその一瞬に全身全霊を賭けて、目の前の敵を打ち砕かん為に、魔剣、魔槍、魔防具の全てを完全発動させると共に、少年の魔法障壁へと攻撃を突き立て、全ての攻撃を断絶させ続けた少年の魔法障壁を打ち砕いた。


 少年は再度、魔法障壁を展開させようと魔法操作を試みようとしたが、そこに割り込むようにして躍り出たマルクスが白刃へと魔力を込め、魔剣を用いた断空の一撃を以て、少年の魔力操作を妨害して見せた。


 魔剣によって胸元を切り裂かれた少年は僅かに膝を落としながらも、その視線は未だ眼前で魔法構築を進めるサンスーシールへと注がれていた。


 その場に居合わせる、もう一人の七剣聖であるブランドンもまた近衛騎士達が積み上げたこの絶好の機会を見逃さず、彼が持つ最大の一撃を以て好機をものにする事を誓っていた。


 何よりも、彼が持つその『絶剣』の名に懸けて仕損じる事は許されなかった。


『業火の炎に焼かれて消え去るがいい。応えろ――“カサルティリオ”!!!!』


 ブランドンは、冷徹無比に真名を解放すると共に、獄炎を纏った剣を握り締め、がら空きとなった少年の胸元に煉獄を纏う魔剣を深々と突き立てた。ブランドンは確かな手応えを感じると共に更なる魔剣に魔力を注ぎ込み、自身の持てる最大火力を持って少年を極大の業火にて焼却せしめた。


「燃え尽きろ、忌まわしき魔翼を持つ者よ!!」


 その魔剣が放つ絶対致命を誇る数千度の炎こそ『絶剣』を冠するブランドンが用いる魔剣カサルティリオの一撃であり、放たれた極大の火柱の中で少年は身動きを取る事すらかなわず其の場に立ち尽くしていた。そして、消し炭すらも残らぬ熱量は敵である少年だけでなく、其の場に存在する全てを同時に燃焼させかねない威力を誇り、サンスーシールが周囲の者を魔法障壁で守らなければ近衛騎士団員にすら被害が及ぶほどの一撃であった。


 近衛騎士達は、勝利を確信すると、一様にして限界まで魔力を消費した事により、皆その場に膝を突き、襲い来る精神摩耗と肉体的な疲労を感じ始めていた。圧倒的な敵を目の前にして、一切引く事をせず、折れる事無く戦い続けた騎士達は間違いなく強者であり、人間の中でも一際優秀な人材である事は間違いでは無かった。


「……目が醒める一撃だった。……ふむ、召喚魔法術式はどうやら完成したようだな。一時的ではあるのだろうが、獣達の声が消えたよ」


 マルクスとブランドンはその声に反応すると即座に魔剣を構え直したが、炎が掻き消えた中から現れた少年の姿を見た際に、僅かに心が折れそうになる自分自身がいる事を各々が感じていた。


 少年が持つ能力において、魔翼による攻撃、無尽蔵な魔力精製による魔法攻撃もさることながら、最も恐ろしいものは、()()()()()()()()()()()()()であった。


「全く、ブランドンさんの一撃を受けて無傷ですか……化物め!」


 マルクスは少年を化物と称した。近衛騎士の中でも更に上澄みである剣聖にそう評される人類は恐らく数える程しかいない。それ故に彼の言葉は賛辞であり、畏怖であり、正当な評価であった。


「サンスーシール、未だ術式は完成しないのか? あれは正真正銘の化物だぞ」


 その光景を眺めるザラツストラは横目で天族であるサンスーシールを急かした。


『安心せい。召喚魔法術式は既に完成しておる。見るがいい、魔族を滅ぼす力の一端。貴様らも身を持って感じるがいい』


 サンスーシールがザラツストラに対して応えると共に、召喚魔法術式を完全に発動させた、


 王都を完全に呑み込む魔力の奔流が天空を突き刺し、一瞬にして頭上高くに魔法陣が形成される。魔法抗力の発揮は頭上に発生した大規模の次元の歪みによってはっきりと視認が出来るほどであり、途方も無い魔力が供給されていることは誰の目からも明らかであった。


 空間の歪みは留まる事を知らず、更に広がりを見せ、徐々に空間が硝子細工のように剥がれ落ち、太陽を飲み込むような巨大な黒点が卵の殻を破るようにして空間の割れ目からゆっくりと這い出始める。


 変化は突然であった。黒点は細胞が活性化するかのように蠢きを見せ、徐々に何等かの形を持ち始める。それは、あたかもその黒点から今まさに生命として産声を上げるかのような光景であった。


『ああ、これこそが、魔族を打ち砕く新たな天族の産声か!』


 サンスーシールは伽藍洞の顔からは読み取れない喜色を声音に乗せて、その召喚を満面の笑みで迎えた。


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