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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第五章 世界の成り立ちを僕たちは未だ何も知らない
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聖戦と呼ばれる戦い その4『行き過ぎた力は時に罰として映る』

「それでは、儂等も行くとするかのう……。召喚魔法術式の位置は掴んでおるな?」


 スオウ、ザイ、ミチクサを見送った後、今度は我々の番とノエラ・ラクタリスは再び転移魔法術式の構築を開始する。


「ああ……獣達が、私を呼んでいる……」


 私の中に流れ込む声が次第に大きくなるを感じ、いつしか魔力操作だけでは抗いがたい程に感情がかき乱されていることに気が付き始めていた。身体に取り込んだ人々の記憶、人造の獣自身の記憶、魔力炉として王都で用いられている者達の声、全てが綯い交ぜとなり意識を保つことすら困難なほどに視界が明滅し始めている。


『助けて、誰か助けて……』


 その言葉が明確に聞こえた時、突如として私の魔翼が反射的に私を取り囲むように放射上に展開された。そして、全ての結晶体が大気に満ちるエーテルを取り込むと同時に私の脳内にこれまで以上に酷い、悲鳴のような助けを求める声が痛烈に鳴り響いた。


 人造の獣達の声は頭痛を伴うほどに大きくなり、強制的に稼働した魔翼がその声に合わせ、あたかも共鳴するかのようにその翡翠色の魔法結晶体を幾度と無く輝かせている。


 私の操作から離れた魔翼が自動的に魔力感知を拡大し続ける。そして、魔力感知は際限なく広がって行き、王都の各地、都市機能を担う魔法技術の要となる幾つもの巨大な魔力の塊に行き着いた。そこに存在しているのは、奇怪な形をした魔力結晶体であり、その結晶体からは際限無く、私の意識を削り取る悲鳴が上げられ続けている。即ちそれらは王都に配置された魔力炉と化した人造の獣達であり、彼等は召喚魔法術式による酷使を受けて、より一層悲鳴を轟かせ、そして同時に確かな言葉を紡いだ。


『助けて……誰か、助けて……私達を、どうか、殺して……』


 それは人だった。確かな意思を持った人の声であった。けれど確固とした肉体を持つことが出来ず、自らの生殺与奪さえもままならない哀れな生物の慈悲を求めるた魂の絶叫であった。それは、エーテルの変換機能を持った魔力精製機器としてしか存在を許される事が無い、人造の獣の成れの果てであった。


『誰か、私を殺して』


 人間になれず、死ぬ事も出来ず、挙句の果てが地下深くに埋められ都市機能を維持する為だけに存在を許されるエーテルの変換機能としての生命が、声にならぬ声を上げて私に対して助けを求めている。


 私は自分自身の生まれを憎むつもりは無かった。魔翼を持つ者として確かに常人とは違う、特異と言っても良い生まれ方をしたが、それでもまだ、これまでの人生において少なからず自由意志を持っていた、そして何よりも私の側にいた者達は皆優しかった。


 だが、彼らはなんだ? 尊厳を踏みにじられても尚、道具として消費されるだけにその生を許されている彼らは一体なんだというのだ。


 魔翼を通じて響き続ける生命への冒涜を恨む叫びに共鳴し、私は自身の腹の奥底から沸々と湧き上がる衝動的な怒りの発露を抑える事が出来なかった。これは純粋な怒りだ。自分と同じ生物でありながら、別の運命を辿った者達への憐憫と、それを強いた者達に対する激情の発露であった。身体の意思を奪うように、無数の声が頭の中で蠢き、総体となって意志を根付かせ始めることを、止める者は最早存在しない。


『――死すべき命に、死、を』


 魔翼は私の感情に反応して自動的に臨戦態勢を整えていた。それと同時に今まで以上に大気中のエーテルを取り込み、体内でマナを精製し始める。エーテルを取り込むほどに私の中で積み上がる怒りは留まる事無く膨れ上がる一方であり、いつ何時、暴発するともしれぬ火薬庫と成り果てた自分自身に気づいてはいるが、最早感情の制御は私の手元には存在しない。


「ラクロア。獣達との共鳴が激しくなっているようじゃな? 何が起こっている?」


「獣達が、私を呼んでいる……」


 ノエラの声に私は何とか反応しつつ、私は自分の中で行われる意識の綱引きを続けていた。気を抜けば今すぐにでも主導権を奪われかねない状況に意識を割きつつもノエラに答える。


「お前にはこの声が聞こえ無いのか? 無辜の獣達が助けを呼ぶ声が……貴様は人造の獣がこの都市でどのように用いられているのか知っているのだろう?」


 ノエラは私の剣幕に押されるようにして一歩後ずさった。しかし、逃げる事は無く私を見据え、答えを返した。


「知っておるとも。この都市機能の基礎を創り上げたのはこの私であり、魔法技術研究所だ。お前を産み出す為にジファンデルが母マリアンヌを犠牲にしたことも私は知っていた。全てはこの時の為に天が私に与えた機会と感動を覚えすらしたよ」


 ノエラ・ラクタリスの言葉を理解することすら億劫となるような頭痛が身体を支配する。悲鳴は増幅し、私の感情を操り、魔翼と共に剥き出しの感情を発散せんとエーテルを取り込み、マナの精製を始め、際限ない破壊衝動を溢れさせる。


 私はこの激情を何処にぶつければいいのか。


「全ては、お前が求めるままで良い。古い人類が滅んだとて、()()()()()()()()()()()()()のだから」


 それであれば私の敵が何者であるのかについては容易に判断が出来た。魔法技術研究所は私の、私達の敵そのものであった。


「私は、彼等を解放しなければならない……人として、同胞の生き残りとして」


「ならば行くがよい、魔翼を持つ人を超えし者ラクロアよ。己が身体に満ちる声に従い、全てを滅ぼすが良い」


 意識的な魔翼の操作によって一瞬で移動魔法術式が形成され私は空間の歪みを見遣る。そして、震源である召喚魔法術式の発動を止める為に私は躊躇いなく、空間を飛び越えた。

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