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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第五章 世界の成り立ちを僕たちは未だ何も知らない
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聖戦と呼ばれる戦い その1『始まりの鐘』

「始まったな」


 魔力の急速な収束と魔法術式の稼働が王都に満ちるエーテルを通して唐突に知らされた。


 召喚魔法術式に接続された魔力炉が、人の魂を以って魂の回廊を開く為の『門』の創造に至る為の必要な儀式として、騎士団と魔法技術研究所によって計画された虐殺が開始された合図であった。


 一人、また一人と奪われる命と、時を同じくして注ぎ込まれる魂。どれほどの数が必要となるか、大凡の数については現状の召喚魔法術式の発動状況である程度の推測は付いた。


「ふむ、それであれば転移魔法術式の準備と行くかのう。スオウ、ザイ、ミチクサ、お主らの準備は整っておるな?」


 ノエラ・ラクタリスの問い掛けに三人は微塵も揺るがぬ自信と共に肯定をしてみせた。


「問題ねえぜ、いつでも行けるぜ」


 ミチクサは背負った魔剣の柄に手を添えながら、今か今かとその時を待ち望んでいるようですらあった。


 ザンクがアルベルト・ランカスターから預かった魔剣、魔弓はそれぞれ、スオウ、ミチクサ、ザイ、の元に渡っている。彼等が討伐した龍種の魔力核を基とした武器として作成されており、武器そのものから漂う魔力、そして完成度は明らかに以前私が戯れに作った魔剣擬きとは格が違って見えた。


「ふむ、それであれば良し。ラクロアよ、頃合いを見て合図を。その後は儂等も召喚魔法術式の下へ向かうとするかのう」


「ああ、もう少しで術式の発動が完成する。魂の回廊が開いたと同時にこちらも動くぞ」


 皆、既に覚悟を決め、私の合図を待つばかりであった。後は、個々人の裁量に任せ、己が意志に基づき行動を行う事となる。


 『白銀』として考えれば、酷く無責任な在り方のようにも思う。しかし、これは私の彼等に対する信頼の裏返しとも言えた。


 タオウラカルを出て、三人は異常とも言える速度でその才能を開花し、成長を続けていた。剣術、弓術における技術体系とは異なり、魔法技術の基礎的な教養は無かったが、その身に宿る魔力量と、実際に魔力の存在を認知してからの成長は明らかに人族の中でも著しいものであった。


 それが何故なのか、それについては彼等が才能を持つ人間であっただけでなく、恐らくはそうあるべきように育ってきたということも一つの要因であるように感じていた。


 七英雄の一人である、ガイエイウスはスペリオーラ大陸から、魔大陸へと亡命を行った、最初の七英雄の血族であった。彼等は、戦闘における技術のみを継承し、魔力という素地についてはその一切を継承して来なかった。そこにどういう歴史があるのか、私には未知の領域であったが、それを以てしても、その子孫の才能は脈々と受け続けられていると言えた。


 そして、また、タオウラカルという魔大陸に位置する人里離れた集落に住まう者達は、魔獣を食すが故か、その身に潜在する魔力量が一般的な王国民と比べても高いことが特徴であった。


 それが、クライムモア連峰という、魔石鉱山が側にあるが故に起こった偶然なのか、それとも科学的に立証され得る事実なのかは、現時点ではわからなかったが、スオウ、ザイ、ミチクサの三人を見れば、その過程に幾つかの説はあれど、彼らの能力の躍進と、現時点での実力値が全てであるとも言えた。


 彼等は、これまで諦めることなく、己の実力を高め続けて来た。それは、如何なる者であっても否定することが出来ない事実であり、私が彼等を信頼する指標ともなり始めていた。


「皆、死ぬなよ。次に会うときは己の役割を果たし成果を誇るとしよう。十分に私達は耐えた、奴らに目にものを見せてやってくれ」


 私の言葉を聞いた、ノエラ・ラクタリスは待機していた転移魔法術式を解放し、『白銀』の三人に目配せしつつ、術式を発動した。


 即座に、屋内に空間の歪みが発生し、それを通して聖堂国教会本部が位置する東部区域への道が作り上げられ、『白銀』の三人は躊躇いなくその歪みへと飛び込んでみせた。


 戦いの鐘は、今ここで高らかに鳴り始めた。



 国教会の本部を制圧するのは容易であった。元々、攻撃型の魔法術式を殆ど持たない司祭共の抵抗など小動物と戯れる程度にしか感じられなかった。


 騎士団も魔法技術研究所も外見上は静観を決め込んだ中であれば尚のこと目的を果たすのは容易であった。それが天上の使徒としての役割であるのならば、その役割を果たすのみであった。


「お前達は、同じ国教会の人間ではないのか!?」


 迫り来る自らの命の刻限に金切り声を上げる司祭がおかしな事を言い始めた。全くもって遺憾である。貴様らと我々が同じな訳がない。


 棒切れの様に躊躇いも無く振り切った大剣はなんの抵抗もなく男の胴を真っ二つにして見せる。使徒としての力と人間如きを同一視するなどあってはならない。


『アルヴィダルド様、もう直ぐに国教会本部の制圧が完了致します。捕虜は如何致しますか?』


 漆黒の外套を身に纏う魔術師達から報告を受け、私は次の使命を果たす為に動き出す必要を感じていた。


 ふと、今しがた自分が制圧した部屋を振り返ると、其処には肉塊となった国教会の司祭が床を鮮血と共に彩っていた。


『殺せ。一人残らず』


 国教会はシュタインズクラード王国において医療機関としての役割を担ってきただけに、そうした人材の消失における社会的損失は計り知れないと言えた。医療機関としての機能を果たさなくなった教会は既に幾つかの村落では存在が確認されつつある。カルサルド国王は魔法技術研究所のこうした動きに対応する為に教皇権を奪った様子だが、しかし、結局のところは魔法技術研究所が国教会が持つ技術を握っている以上は、結局のところ人員が増えるなり減るなりを繰り返すという数字上の話に過ぎない。


 国教会の内紛、及び粛清と称した虐殺が国王の耳に届けば、カルサルド国王は教皇派閥を掲げる者達への粛清を国王軍を動かし断行すると想定し、これまで動きを止める事なく動き続けて来た。


 そうした前提の下、こちらとしてもそれを見越して大司祭を担ぎ上げた以上、カルサルド国王であれば容赦無く大司祭を処刑すると読んでいた。しかし、現段階になっても、国王派閥は沈黙を保ったまま、状況を静観しているというのは想定外と言えた。


 私の行動についてはカルサルド国王は些事と捨て置いており、騎士団、魔法技術研究所も、私についても捨て駒程度にしか考えていないであろうことは当初から理解はしていた。近衛騎士から格下げとなった騎士の末路など、騎士団は気になどしない。


(……所詮、我々は掌で踊る道化師に過ぎないということか)


 私が苦々しく己の置かれた状況について考えを巡らせながら、聖堂国教会本部の、大講堂から外に出ると、人気は無く、城壁から我々を見下ろす近衛騎士達と目が合った。


 近衛騎士達は特に面白くも無さそうに私が与する教皇派の暴挙を静観している。王都の内部で起こる大虐殺であったとしても、騎士団はその行為が人間の存続に有用であると考えれば見過ごすのが常であり、それこそが国に身を捧げるという意味であった。


 そうした割り切りによって動く近衛騎士団は無味乾燥な軍勢であると使徒となってからは強く思う様になっていた。しかしそれは天族に仕えるか、国に仕えるかの違いでしか無く、最早個人の嗜好性の問題とも言えるのかもしれないと今になって思う事が増えた。


 もしかすると、そうした区分以上に何か裏があるのかもしれなかったが、近衛騎士から外れた私には最早知り得ることのない情報と言える。


(護る為の者達を殺し、政敵となる者を殺す……魔族を打ち滅ぼす為に磨き上げた力が、人を殺す為の技術として尊ばれ、利用されているというのは皮肉だな)


 しかし、そう思うと自分もまた同様に無味乾燥な在り方の中で何の為にこんなことをしているのかと馬鹿らしくすら思うが、決められた自らの役割を果たした後に天族への道が開かれるのであれば—―外の世界を見る事が出来るのであれば—―自らの心に従って突き進むしかなかった。


 そんな思想に耽る合間に、この袋小路の鉄火場に足を踏み入れる三人組を視界に留めた。


「ほう、神の導きとは不可思議な物だな……」


 明らかに以前とは異なる洗練された魔力を持つ戦士の姿を、私は確かに認識していた。


 

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