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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第五章 世界の成り立ちを僕たちは未だ何も知らない
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王都、戦いの序章


 隠れ家として提供された住居は、西部地区に位置していた。


 西部地区は国王の統治の色が色濃く、比較的、騎士団や魔法研究所の影響が低い地域であり、ベルディナンド家の邸宅が幾つか立て並んでいる区画でもあった。私達が待機するこの家は普段は王都で政務を行う際に使用人が仮住まいとして用いる場所であるが故に、冒険者の出入りもそれほど目につかないように思えた。


「ラクロア様、聖堂国教会の本部がある東部地区の城門周辺は完全に騎士団によって封鎖されていました。一般人は愚か、貴族であっても中に入るのは容易ではなさそうですね」


「移動用のポータルも東部地区に対しては停止している以上、騎士団を正面から突破するか、こちらの転移魔法術式で移動を行う必要がありそうだな」


「衛兵連中に話を聞いてみたが、どいつもこいつも東部地区が封鎖されている理由については知らないとよ。国王側でも情報を遮断しているみてえだな」


 スオウ、ザイ、ミチクサ、それぞれの所感を基に今後の動きについて想定する必要がある中で、東部地区の封鎖は、明らかに召喚魔法術式の発動を行う舞台となるのは明白であった。今だ、王都に張り巡らされた魔力炉に変化が見えない以上は騎士団と魔法技術研究所の動きについて注意を向ける必要があるが、十中八九、聖堂国教会の本部周りが私達の戦いの舞台となるのは間違いない。


「侵入自体は問題ないじゃろうな。ザイの言う通り、儂の転移術式で十分に対応が出来る。問題は侵入すると同時に儂等は針の筵となるということじゃな。決戦の舞台に少々茶々を入れる必要がありそうじゃ」


 ノエラ・ラクタリスは居間に置かれた無垢の木材で作られた机の上に一枚の地図を広げて見せた。そこに描かれていたのは、王都全体の見取り図であり、詳細に図面が描かれている。どうやって入手をしたのか、少なくとも一般には出回っていないであろう精密さで王都のあらゆる出入り口が描かれており、戦いにおいて重要な情報となるのは間違いが無かった。


「しかし、どうやってこれを?」


「儂の使役魔法術式で操った動物達を使い現在の王都の構造を模写したものじゃな。張り巡らされた監視網を潜り抜けながらの情報入手は中々に骨が折れたが、儂に掛かればまあ造作もないことさね」


 ノエラがその優雅な金髪を結えつつ「ふふ、褒めてもいいのじゃぞ」と私達を見遣るのを無視し、私は地図における王音の構造を改めて確認した。


 王都は三重の円構造になっており、城下町となる外縁部、政務の中心となる貴族、騎士団員、魔法技術研究所員の為に設けられた中央内政区画、そして王城が存在する中枢区画に区分されており、外縁部に関しては東西南北を聖堂国教会、国王派閥の貴族、騎士団及び魔法技術研究所がそれぞれを主に管理していた。


「なるほど、中央内政区画に騎士団本部、魔法技術研究所本部が存在するわけか……。聖堂国教会だけが外縁部に存在していることに何か理由はあるのか?」


 ノエラ・ラクタリスは勿論、と理由を語って見せる。


「国教会の本部と言うのはいわば、民にとっての象徴となる必要があるものじゃろう。王都に住まう上級国民に対して権威を示す為にも、そして何より信仰の対象として教会と言うものは常に国民から見える場所になくては意味が無いということじゃよ」


 ノエラ・ラクタリスの言い分は分からなくはない。少なくとも、国教会本部が外縁部に存在するのは確かであり、国教会員が総じて東部区画に住まうのであれば、召喚魔法術式の準備が整うと共に、東部地区でタルガマリアと同じく虐殺が起こることは間違いないのだろう。そして、それを合図に私達と騎士団、魔法技術研究所の間で戦いの火蓋が落とされることになる。


「戦力の分断を考えれば、国王軍が常に両陣営に睨みを効かせている状況はこちらにとっては利点ではあるか……とはいえ、国教会本部を封鎖する為に南北の城門に集結している騎士団に対しては何等か手を打つ必要はあるか……」


「恐らく、召喚魔法術式は魔法技術研究所の存在する中央内政区画で発動されるじゃろう。戦場となることを考えれば研究所内部ではなく、寧ろ騎士団本部で術式の稼働を行う可能性も無きにしも非ずではあるが、こればかりは発動を待たねばわかるまいな」


「術式自体は魔力の流れを追えば中心点は探り出せることを考えれば、そこは問題では無いという事だな。ただ、問題となるのは――」


 そう、問題となるのは東部区画における虐殺を見過ごしてもよいか、という問題であった。それ故に初動で私が動くと確実に東部外縁部に騎士と魔術師が終結し否応なく戦火が広がる可能性が高い。その一方で、召喚魔法術式自体は発動させなければ、私が魔力炉となっている人造の獣達を解放することが難しくなる。


 あちらを立てればこちらが立たず。最低限の犠牲が出ることは受け入れなければ、目的を果たすことができない状況であることは理解していたが、それについては既に覚悟は決めていた。しかし、それでも後ろ髪を引かれる思いはあった。


「問題は、初動ですね? それであれば、私とザイ、ミチクサで先ずは東部地区に潜入し、聖堂国教会付近で起こるであろう虐殺に介入します。その上で、お二人は動き方を決めれば宜しいかと」

 

 スオウが私の言葉を引き取り、三人の意見を取りまとめていた。スオウ達の目的はあくまでもアルヴィダルド・イクティノスとの対峙であれば、それが最も効率的であることは間違い無い。しかし、近衛騎士が虐殺に介入するとするのであれば、たった三人での突入は無謀とも言える。


「あえて、これまでの教皇派を率いる動きを近衛騎士ではなく、アルヴィダルドにやらせているのは、騎士団が表に出ない為という理由があるんだろう? それであれば、この初動に近衛騎士が介入するとは思えねえが、賭けと言えば、確かに賭けにはなるだろうぜ」


 ミチクサの言う通り、可能性で言えば近衛騎士がミチクサ達の存在を認識したとしても、それをアルヴィダルド等の実行部隊に一任する可能性は高い。


「ふむ、それであればお前達の行動と共に、儂等が召喚魔法術式の発動位置を特定し、即座に強襲を行うべきじゃな」


「……いいだろう。それであれば少なくとも、奴らの注意は逸らせるか。だが、三人共絶対に無理はするな。奴らの最終的な目的は召喚魔法術式の発動、そしてノエラ・ラクタリスと私の殲滅にある。ことを済ませ次第、即座に撤退してくれて構わない」


「ま、そう堅くならんでくださいよ。俺達なら大丈夫ですから、旦那は旦那の目的を果たしてください」


 それぞれの目的を果たす為の最適解が提示され、それに対して皆が既に心を決めた状態であれば、これ以上私が何かを言うことは無粋と言うものだろう。


「……ああ、そうだな。お互いにやるべきことをやるとしよう」


 皆で認識を一つにし、一旦協議を終えようとした矢先に部屋のドアを叩く音が室内に響いた。ドアの側にいたザイが、ドアに取り付けられた小窓から誰が来たかを確認し、ドアを開いた。


 そこには、少々引き絞られた体つきとなったザンクが嬉しそうな顔で荷物を抱え立っていた。


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