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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第五章 世界の成り立ちを僕たちは未だ何も知らない
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王都シュタインズグラード

 

 シルヴィア・ベルディナンドの手引きと、スコットの立ち回りによって私達は厳重に管理をされていた検問を使用せずに貴族、それも国王の側近のみが知る専用の抜け道を用いて王国の外縁部に入り込むことが出来た。それは、ラクロア様と、ノエラ・ラクタリスの魔力感知を中和する魔法術式の発動による補助もあり、完璧に騎士団と魔法技術研究所の監視網を潜り抜けることが出来たと言えた。


 王都は美しかった。その美しさはガイゼルダナンで感じた無機質さとは違った人が作り出した生活の歴史、その積み重ねを表していた。


 ノエル・ラクタリスが語るには、古代から増改築を繰り返されてきた王都は城壁が三重に作られ、円形にその規模を拡大してきたという歴史があるらしい。


 王が居城を構える中枢区、貴族及び一部の許可証を持つ者が訪れる事が出来る中央内政区、そして基本的には貴族の居住区となる冒険者であれば中級冒険者以上でなければ訪問が不可能な城下町が存在する外縁部。その外縁部の城壁の外では各地から集まった商業団体が過去より内部への流通網含め牛耳っており、これが商工会議所の成り立ちに関係しているとの事であった。


 外縁部では魔法術式による移動ポータルが存在しており、円形に増築された事で移動性が損なわれている状況を上手く改善しているようであった。当たり前のように人々が魔法術式を用いて移動を行っている姿はタオウラカルの集落で暮らしていた時期を思い返すと、その技術力の高さにただただ、圧倒されるしかなかった。


(これが本当に人の手で作られたものとは……驚嘆に値しますね)


 ガイゼルダナン等と比べても、人口に対してどうやら土地に制限がある様で、内部の居住家屋は複数階建てである事が多く、尖塔が多いとの事であった。外縁部内を見ても軒並み背の高い建物が多い街並みを創り上げていた。


「スオウ、不思議な顔をしておるのう。確かにこれだけの建築物に魔法技術機構が用いられた都市はスペリオーラ大陸全土を見渡してもこの王都にしか存在しない光景とすれば理解もできるがな……。この王都は長きに渡って積み重ねられた人族の技術と時間の結晶というわけじゃな。ほれ、足元の舗装路をみてみるがいい。これまでお主等が訪れたどの街にもない程に凹凸の一切がみられない程に丁寧に舗装されている。一見すると無駄の極みではあるが、これもまた技術の応用の一つというわけだ」


 長方形に切りそろえられた石材によって精緻に整地された舗装路にはこれと言った引っかかりもなく、極めて滑らかであり、これまでの都市で見て来た石畳と比べても技術的な程度の高さや、そこに掛けられた費用、時間の膨大さが感じられ、そこに至る経緯を想像すると眩暈を覚える程であった。


「そうですね、正直これほどまでに違いがあるとは思ってもいませんでした。言葉通り、世界が違う。そんな印象を抱いています」


 円形の外縁部の中心には一本の道路が敷設されており、等間隔に並んだ街灯には人工的な光がともっている。道路を挟んで立ち並ぶ荘厳な建物には透明度が極めて高い硝子が用いられ、室内にも街灯と同じく室内を照らす光が漏れているのが見える。


 通りを行き交う人々の服飾もガイゼルダナンやセトラーナとはどことなく違って見え、皆がノエラ・ラクタリスのように一目で高価と分かる生地と刺繍の施された衣服に身を包み、金細工だけでなく、鉱石を嵌め込んだ装飾品で煌びやかに着飾っている姿が印象的であった。


(これだけの生活を支える為に、魔力を無尽蔵に生み出す魔力炉が必要、というのは絵空事ではないのでしょうね……)


 生活環境が、そもそも王都とそれ以外では明らかに違い過ぎることを改めて認識し、私は直感的にこの王都に対して憧れではなく、恐怖に近い感情を抱いていた。


「そう、王都とは確かに政を行う為の中心地ではあるが、それ以上に魔法技術研究所が開発してきた技術を先んじて用いる場としての要素が過去より色濃く反映されている。その様にデザインしたのは

他でもない、この儂ではあるが、行きつくところまで歩を進めたのはその時代時代を創り上げてきた者達の研鑽の結果じゃな」


 ノエラ・ラクタリスはどこか懐かしそうな眼差しで王都を眺めていた。自分が作り上げた基礎技術が陽の目を見るというのは、どこか感慨深いものがあるのだろう。


「本当にこれが人が築き上げたものなのか? 俄かには信じがたいな……」


 ザイもまた、私と同じような感想を抱ていたようで、当たりをきょろきょろと見まわしながら興奮を隠せないでいる。


 その様子をラクロア様は冷静に眺めていた。初めて来るはずの場所であるにも関わらず、ノエラ・ラクタリスと同様にどことなく懐かしそうにしているのは気のせいだろうか。


 スコットが魔具による通信を行い、シルヴィア・ベルディナンドとの渡りを付け終わると、ラクロア様は私達に指示を飛ばした。


「一旦それぞれ分かれて行動するとしよう。スオウ、ミチクサ、ザイは三人でザンクの待つアルベルト・ランカスターの元へ向かい、話が無事に通っているようであれば魔剣の依頼を頼みたい。打ち合わせ通り、魔獣の魔核での取引をザンクと共に行ってもらいたい。私は片割れと方針について一旦会話を済ませたい」


 王都に先行していたザンクは既に魔剣の剣匠であるアルベルト・ランカスターと繋がりを持つに至っている、それであればラクロア様が直接会わずとも、話は済んでいる。ザンクの商人としての腕を買ってのことではあると思うが、それほどまでに信頼を得ているザンクを羨ましく思わなくもなかった。


「ラクロア様、承知致しました。私達はザンクの待つランカスターの工房へ参ります」


 私はそんな僅かばかりの嫉妬をおくびにも出さずに了解を伝えた。


「であれば、儂とラクロア、そしてスコットの三人でベルディナンドの下へ向かうとするか」


「お二人を護衛と思えば、心強い限りですねえ。それでは、全て終わり次第、外縁部にある私の用意した宿屋に集合と言う事でよろしいですね? 白銀の三人にはこちらの王都内の地図をお渡ししておきます。迷ったとしても通りの各所にある住所番号を見て貰えれば確実にたどり着けるのでご安心を。暫しの王都観光をお楽しみください」


 おどけながら地図を渡してきたスコットに内心で苦笑をしながら、私はミチクサ、ザイと共に早速、外縁部にあるランカスターの工房を目指す事とした。


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